002 或いはそれは洞窟の中(2)
スキル、それは世界の概念の一つである。
スキルという存在が一般的な者達の持つ能力、それらを【力持ち】や【頭が良い】等と例えるのならば、固有スキルは一段階上のギフテッドのようなものであった。秀才の一つ上の天才、それを定義付ける一つの条件として固有スキルがある。
シオンの記憶や知識ではそう綴られていた。
だが、得られた知識を見たシオンは只管に嘲笑してしまう。おかしな話なのだ。ギフテッドや天才等の有り触れた言葉で済むならば、固有スキルを持つというだけで優遇されはしない。
一万人に一人が持っているかどうか、それ程の力のはずなのだ。だからこそ、金をかけてでも囲おうとする貴族がいると知識として残っている。過去の世界では金が全てを支配していたからこそ、笑えて仕方が無い。
「……で、結果がこれか。皮肉、だね」
ステータス欄のスキルを長押しして得た知識。
異次元流通、羅列されて読みにくい文字の中に書かれた機能は【異次元流通】【異次元倉庫】【異次元銀行】の三つであった。
「さすがは転生者……」
異世界人ならではの権利、そう考えざるを得ない程の特権は確かに彼の頬を一つの汗を流させた。
足元を流れる水に触れ、その冷たさを味わいながら頭に過ぎった言葉を口にする。
「回収……って、無理なのかい!」
開かれたステータスに変化は無い。
気の所為か、そんな気持ちも湧いてきはしたが、雑多にタップして開いた倉庫欄には水の文字等ありはしなかった。
不意に横にある剣に視線を向けなおす。
重く硬い……当然、持ち運ぶには面倒な物でしかない。もしも、と、それに手を付けて同じ言葉を口にする。
「回収、って! すごいな!」
体の中に入っていくような川の時とは違う感覚がした。同時に手にあったはずの冷たい感触は消え去っており、開かれていた倉庫欄にはしっかりと【装飾された豪勢な金の剣】と記載されている。
「放出……なるほど、これで出し入れ可能か」
キーワード、それを口にする事で剣が出た。
そこで一つの疑問が過ぎる。物は試しと握ったままで軽く瞳を閉じた。数秒して開いた先に、剣などはどこにもない。
「イメージでも出し入れは可能……すごいな」
感嘆、ただただ便利な能力である。
仕舞えば最後、動いたところで重みを感じる事は無く、同時に条件自体も触れる事が出来れば十分と酷く緩いものであった。もし、仮に……そのような思考が過ぎって頭を左右に振る。
触れて倉庫に入れれば簡単に物を盗める。
悪しき考え、だが、それを振り切ったのは何も彼が善良な民だからという訳では無い。それだけが異次元流通の真価となれば、喜んで悪に手を染めていただろう。悪知恵の働く彼の事だ。恐らくは完全犯罪すらも容易に出来るだろう。
ただし、それは能力の発動条件が回収と放出で違っていたならば、と続く。近場に落ちていた小石に触り、投げる瞬間に回収してみせた。もしも、予想が正しければとニヤニヤしながら放出した結果は予想以上であった。
視界の取れた数十センチ先、そこから放出された小石は確かに前へと突き進んでコツンと音を立てる。
「違いは、液状と固体……もしくは個数として数えられるかどうかってところか。それに慣性を残したままで放出するから、出し入れに関しても気を付けないといけなさそうだな」
そこまで考えが至り、再度川に手を入れる。
何度やっても触れた水を倉庫には入れられない。
ガサガサと腰から取り出した麻袋を試しに回収する。【麻袋(付与:容量増加20kg)】と不穏な名前からは目を逸らし、取り出した中へ水を汲んで持ち上げた。
なるほど、重みは確かに無いのである。
突如、何かを思いついたかのように、濡れて気持ちの悪い服や下着も脱ぎ去って全てを倉庫内に回収した。そのままステータス画面を何となく、例えるならばパソコンの中にあるアプリを適当に弄るような感覚で触る。
ようやく、ステータス内に三つの画面が現れた。
異次元流通、異次元倉庫、異次元銀行と銘打たれた三つの四角が縦に並んでおり、わざとらしく一番下には黒で埋められた同じ大きさの四角が存在している。興味本位で触れるが、反応自体はやはり少しも見せない。
「まぁ、いいか。先に……」
その指が異次元流通の文字へピタと触れた。
開かれた画面には簡素なゴシック体で三つの文字が書かれている。【購入】【売却】【戻る】、当然と言いたげに迷わず売却を押すと先程、見た画面へと飛ばされた。
異次元倉庫と同じ画面、回収した衣類も含めてスクロールしなければ全ての内容物を見る事は出来なかった。
「さすがは……御貴族様の息子だな」
収納した衣類全てに絹の豪勢な、といった言葉が付いている。濡れている、汚れているといった点は文字の中には混ざってはいない。下着や衣服は使うかもしれない、そう考えた指先は王の着るマントと勘違いしそうな上着をさした。
長押しした画面の横に売却のボタンが出てくる。
その下に出てきた値段は大金貨一枚と金貨五枚という文字であった。その言葉に冷や汗が流れる、喉が異様に乾いてしまう。だから、何度も何度も下から漏れ出す唾液を意識して彼は飲んだ。
「……これ一つで、か」
上部に新しく現れたカウンター。
そこには正しく15,000,000円と記載されており、確かに売れた事だけを彼に実感させる。横にも異世界の通貨で大金貨:1、金貨:5と書かれている状況は、異世界でありながら不思議と懐かしさを覚えさせた。
この世界には銅貨と銀貨、そして金貨が流通しているとシオンは記憶していた。その三種類に小さな粗悪な物、普通の物、大きく純度の高い物として分かれている。
純度の高い大金貨一枚が一千万、通常の金貨一枚が百万の値が付いているのだ。全てを売るか、そのような考えが過ぎったが払って改める。
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