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004 或いはそれは冒険の中(4)

 五階層入口付近、その扉を押したフランの表情は少しばかり重い。今までの下の階層に続く扉とは別に大きな広間が二人の目の前に広がっており、その奥にはより大きな重厚そうな扉が残っている。


 左側にある木製の扉を一度、目視した後で重厚な扉に視線を向けてフランは大きな溜め息を一つだけ吐いた。


「今日はこのくらいに致しましょう」

「先が楽しみ、の間違いじゃないのか」


 シオンの言葉にフランは満面の笑みを返す。

 二時間、その中で進んだ距離はかなりのもの。ただ歩くだけでも、いいや、普通の人であれば進めぬ距離を進んでいる。疲れの欠片も見せてはいないのはフランが多くのゴブリンを倒したからだろう。


 現に千、いいや、二千は超える敵を狩っている。

 一体一体の経験値など、端ものでしかないが塵も積もれば山となる……現に身銭、レベル共に大きくシオンは潤っていた。とはいえ、だからこそ、彼の中でも揺らぎが残ってしまう。


「全部……倒しちゃったな」

「……暇なのが悪いのです」


 職業である貴族、それ以外の何かを得られはしなかったのである。本来であれば戦う事によって得られる職業、とはいえ、一度たりとも戦闘に身を置けぬのであれば経験等は詰める訳もない。


 個人のレベル、ましてや、非戦闘職である貴族ではレベルが上がったところで価値は薄い。現にどちらもレベルが十を超えたとはいえ、全ステータスは二百程度にしか届いていないのである。


「見習い剣士すらも手に入れられないなんて……」

「むしろ……教会抜きでステータスの詳細を知れるシオン様の方がおかしいと思いますが」

「それは信頼って事で……ただ、そういう事はフランには言われたくないなぁ。君以外に同行を許す気は無いけどさ、勝手ばかりなら一人の方が楽になるだろ」


 フランの言葉にシオンは態とらしく溜め息を吐いてみせる。とはいえ、それが演技である事は彼女にもわかっていた。


 信頼している、それが事実である事は剣を交じ合わせた時から見て明白。加えて言えば、シンとの会話の中でシオンが求めた一つの中に、フランの同行を求めていたのである。


 強さ、そして信頼……騎士として、個人として求められている事実に彼女の胸が高鳴るのも当然の事なのだろう。同時に彼女の算段は彼にも分かっていた。


「次は外の魔物を狩ろう。最悪は竜を使えばどうにかなる話だ。どうにも俺は……職業というものの種類が本だけとは思えないからな」

「……さすがは次期、傲慢の主、ですね」


 その言葉にシオンは大きく溜め息を吐いて返す。

 正しいとは言えない、だが、間違いとも言えない言葉に面倒臭さを覚えてしまっただけである。フランと名乗る死神騎士、その真名は明かされながらも未だに呼べはしなかった。


 とはいえ、その重みは、フランクながらに片膝を着いて剣を捧げる彼女の姿が、騎士としてのそれでないとは彼も思えないのである。


 求められている事、対して自身の思い……天秤にかけたところで対立し続ける二つに、彼は笑みを見せて柄にかけた彼女の手を暖かく覆うしかなかった。


「着いてきたいって、思えたか」

「貴方を見た時から、ですよ。でなければ、悪名高いシオンなど、殺していましたから」


 淡々とした言葉、鞘に戻された剣には魔力が宿っていた。エルザが本気で向かった姿、そして煽るような姿に彼が命の危機を察したのは当然の事である。ただし、それは彼女が敵だという自覚があっての事。


 現に、シンの命令を受けた彼女から告げられた事実はシオンの表情を変化させるには十分だった。ルール家以前に統治のされていない自由な騎士の発言が異様に怖かったのである。


「俺なら、好きになれる、と」

「好意も当然ですが、今し方と忠義の儀の行ったばかりです。むしろ、貴方以外であれば頭を垂れるなど気持ちが悪くて、出来たものではありませんから」


 その言葉にシオンの胸がドクンと跳ねる。

 彼が無意識的に彼女を個人として見たように、彼女もまた彼を一人の個人として見ているのだ。多くの罪を犯した者、失敗と失態の中で生きた彼からすれば他の言葉以上に救いに近い言葉であり、毒薬でもある。


「信頼しているって言ったな。それを踏まえて外では手を出さないでくれ」


 ホルダーから引き抜いた得物、彼女との戦いでは使わずに、階段の場ですらも隠していた物を取り出した。その事実が彼女には嬉しく、無意識的に笑みを見せて口元を隠し聞く。


「それ、ですか」

「拳銃という名前の武具だ。知り合いの商人から買った物だが……ああ、ソイツは手練中の手練でな。恐らくはシンですらも動向が掴めない程には突拍子もない輩なんだ」

「さっすが! 貴方様です!」


 横っ腹に抱き着く彼女の力は今までよりも強い。

 牽制、彼女の力を超える存在を言い訳とした嘘を混ぜ込んだ本音……だが、それがフランにはとてつもない程に嬉しかったのだ。博識高いと自負した彼女すらも知らない得物を携える者に興味を抱かぬ訳も無かった。

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