003 或いはそれは冒険の中(3)
松明が並んでいるだけの空間、それ以外の灯りは無いような薄暗さが目の前に広がる。ダンジョン内部、洞窟の中という理解はあるものの一点だけ異質な部分があった。
「舗装、しているんだ」
通路となっている道は硬い土で整えられ、歩く彼等が進みやすくさせていた。ダンジョンという悪環境の中の異質さ、そこに集中する視線を見てフランは軽く口を尖らせる。
「ええ、このダンジョンは最下層まで攻略を終えていますからね。未攻略へ向かう時のために、松明以外の灯りは残していませんが訓練以上の事は起こらないようにしてあります」
イジける様子にシオンは小さく溜め息を吐いて笑みだけ返した。聞いて欲しかっただけ、そんな乙女心を見透かしながらも面倒に感じた等と本音を言える訳もない。
とはいえ、彼女の説明が分かりやすかったのは事実である。内心で「ありがとう」と呟き、腰に差す剣を抜く。
その様子にフランもニコリと微笑んで剣を手に取った。カラという音、少し先の前方から聞こえたそれにシオンは構えた。
「おや、ゴブリンでしたか」
そんな彼の覚悟も虚しく、剣を鞘に戻したフランが立っていた。その速度は彼の目で追えるものではない。
瞬きすらも、一秒という時間すらも余分と思わせるような攻撃は見事言う他無いものであった。エルザとの戦闘ですらも見せなかった速度にシオンは頭を強く掻く。
「やるね」
「貴方の付き人ですから」
フランはただフンと小さく鼻を鳴らした。
当たり前とでも言いたげな姿にシオンは苦笑するがフランは気にした様子もなく先に進む。煙となって消えたゴブリン、その場に落ちている魔石すらも見えていない姿に余計にシオンは苦笑いを強くさせるが、一つ溜め息を吐くだけで後をついていった。
「あら、またですか」
そんな事を言いながら現れる敵を狩るだけの連続は彼のよく知るレベリングと何ら変わりない。先輩ゲーマーにレベルを上げてもらう時のような、もっと言えばラストアタックすらも必要のない状況にシオンは戦う意思を失っていた。
その間にしていた事とすれば、捨て置かれるだけの魔石やナイフを拾うだけである。凡そ、三十分程度の行進、その中で倒したゴブリンの数は魔石と同等の百を優に超えている。
拾う価値の無いゴミ、そんな事は重々と承知した上で回収していたのは手持ち無沙汰の解消のためでしかない。とはいえ、未だに狩りに勤しむ彼女の後を着きながらステータスを弄っていたシオンはニヤリと笑った。
魔石一つにつき五百円、十個のみ落ちたゴブリンのナイフに至っては一つにつき三千円で売却が可能となっていたのだ。そのニヤケは廃棄するだけのゴミにすらも多少なりとも価値があると分かったからだろう。
「どうか致しましたか」
「いいや、宝の山を捨てているなってね」
シオンが手に取る魔石を見て、フランはウゲェと嫌な表情を見せた。ゴブリン、見た目だけで人に不快感を与える害虫よりも邪悪な存在である。その血に塗れた魔石は女性である彼女からすれば畏怖するべきものでしかない。
「ゴブリンの魔石なんて売る方が金がかかる代物ですよ。ナイフだって多少の魔鉱石が含まれているでしょうが、分解する方が手間と金のかかる作業ですし」
魔石、それ自体には高い価値があった。
彼が手に、身に着けている魔道具の素材となる物である。だが、そこまでの価値があるだけの魔石は高ランクの魔物からしか落ちはしない。
魔物には、冒険者と同じくランクというものが存在する。最上位のSSSから人外の証とされるS、人の中での最上位の強さであるAから最下級のFまで、計九段階の中で彼が着ける魔道具は最低でもSランク以上の魔石から作られている。
対して、ゴブリンは最下級のFランク。確かに中にある魔力を取り出す事が出来れば多少の価値くらいはあっただろう。だが、彼女の口にした魔鉱石の抽出と同様に必要な技術力は極端に高まっていく。
値段に表すのならば五百円の代物から魔力を抽出するのに必要な金額は十万と少し、魔鉱石であれば三千円に対して五十万は必要となる程である。
ただし、それは言葉通りであった場合に限る。
「それが俺じゃなかったら、な」
「……そうでしたね。私の主は不思議な人でした」
事実としてはただ売るだけ、とはいえ、フランの目に映るシオンは不思議で済まない程の存在である。そして同様に彼女の口にした事を成し遂げてしまえそうな程の存在だと確信していた。
「少しは、レベルが上がりましたか」
「デートだと思っていたんだけどな。この後は街で茶でも飲む……どうやら、俺の勘違いだったみたいだ」
シオンの手を取り背負うフランの速度は一段と速かった。元からの目的地である五階層、本来であれば六時間はかかる目算が二時間で済む程に。
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