表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でフルチンだった件 ~脱変態を目指したら英雄になっていた~  作者: 白峰レイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/82

第71話「真封印解除」

怪物の腕が、なおもユウヤを押し潰そうと力を込める。


石床がひび割れ、腕の下で砕けていく。

交差させた両腕に、嫌な痛みが走った。


重い。

呼吸が削られる。肺が潰れる。

このままなら、先に骨がいく。


――だが。


右目を覆う眼帯だけが、逆に熱を増していた。


じり、じり。

焼けるような感覚。

まるで「今だ」と急かしてくる。


ユウヤの口が、ゆっくり開く。


「……我が右眼に刻まれし枷よ」


眼帯の奥で、何かが脈打つ。


怪物が咆哮する。圧が、さらに増す。

ユウヤの口元が、血を滲ませたまま歪んだ。


「今こそ砕けろ――真封印解除」


カン。


『漆黒の眼帯(真封印解除)を発動します』

『反転解放、開始』

『黒焔属性は氷獄属性へ反転強化されます』


その瞬間だった。


眼帯が弾けるように外れる。


露わになった右目は、青紫に淡く光っていた。

その光が広がるように、凍てつく冷気が全身を一気に駆け巡る。


熱ではない。逆だ。

骨の芯まで冷える温度――なのに、不思議と痛みだけが遠のいていく。


怪物の腕に触れていた部分から、白い霜が走った。


「……っ?」


怪物の赤い目が揺れる。


次の瞬間、ユウヤの身体から蒼白い冷気が爆ぜた。


怪物の腕を覆っていた黒い瘴気が、一瞬で凍りつく。

ばき、ばき、と嫌な音。


メルキオの声が、初めて露骨に乱れた。


「瘴気が……凍る?」


ユウヤは、そのまま下から両腕を押し上げる。


今までびくともしなかった巨腕が、凍った瘴気ごと軋みながら持ち上がった。


「馬鹿な……!」


ユウヤが立ち上がる。

砕けた床の穴から、ゆっくりと。


床へ転がった眼帯を踏み越え、青紫の右目だけが冷たく怪物を射抜いていた。


怪物が右腕を振り上げる。

振り下ろす。


ユウヤは動かない。


腕が届く寸前、蒼白い冷気の膜が広がった。


鈍い音。


怪物の腕が、そのまま空中で凍りつく。


「がっ……!?」


肘から先が、黒い瘴気ごと白く固まっていく。

筋肉の膨張も、魔石の脈動も、一瞬だけ止まった。


ユウヤの口が、勝手に調子づいていく。


「フッ……ようやく理解したか。貴様の“壁”など、凍土の前では無力だ」


床を蹴る。


速い。

さっきまでとは別物の加速。


一瞬で怪物の懐へ潜り込み、胸の前まで踏み込む。


瘴気が膨れ上がる。核を守るため、黒い壁のように広がる。

――だが、今度は違う。


蒼白い冷気が、それを先に固めた。

ぱき、ぱき、と乾いた音。


瘴気の壁が、氷の殻みたいに砕け散る。


「……砕けた!?」


メルキオの目が見開かれる。


ユウヤの拳が、真っ直ぐ突き込まれる。


「氷獄ブレイブパンチ!!」


今度は届いた。

瘴気を凍らせて“通した”。


怪物の巨体が大きくのけぞる。


「がぁああああっ!!」


追撃。


肘。膝。拳。

打ち込むたび、冷気が内部へ流れ込む。


胸の奥を走る黒い筋が、一本ずつ凍りついていった。


怪物が咆哮し、両腕を振り回す。

だが、振るうたびに腕が凍り、ひびが入り、動きが鈍る。


ユウヤはその合間を縫って跳び上がった。

怪物の肩へ着地。そこからさらに頭上へ。


「凍てよ――氷獄輪舞ひょうごくりんぶ


ユウヤを中心に、蒼白い冷気が円を描いて爆ぜる。

粘りつくような氷の霧が、怪物の全身へ一気に絡みついた。


腕。胸。肩。背中。

そして、瘴気そのものへ。


黒い瘴気が逃げる間もなく白く固まり、砕け落ちていく。


メルキオの顔から、とうとう余裕が消えた。


「止めなさい! 核まで凍れば――」


ユウヤは氷の嵐の中、見下ろす。


「どうした、ゴブリンの長よ。先ほどの暴威はその程度か」


怪物が暴れる。

だが動くほど、冷気は深く食い込み、関節が軋む。

胸の魔石の脈動すら、次第に鈍くなる。


ユウヤは肩から飛び降り、正面に着地した。


「前回は……よくも我を見せしめにしてくれたなぁ」


青紫の右目が、冷たく光る。


空中に、蒼白い“刃”が生まれた。

一本、二本、三本――次々と。


メルキオが息を呑む。


「氷を……武器に?」


「返礼だ」


ユウヤが指を払う。


氷剣が一斉に射出された。


腹へ。肩へ。脚へ。

刺さるたび、冷気が爆ぜ、瘴気ごと凍り固まる。


怪物がのけぞる。踏ん張れない。


「ならば――今宵は貴様が、凍獄の底で磔となれ」


さらに、氷槍。


右腕。左腕。脇腹。肩。

突き刺さるたび、動きが削がれ、黒い瘴気が白く割れて落ちた。


「やめろ! やめなさい!」


メルキオの声が裏返る。


ユウヤは聞かない。

最後に、胸の一点だけを見据える。


どくん、と足掻くように脈打つ核。


ユウヤの拳が引かれる。


「穿て――」


「氷獄ブレイブパンチ!!」


轟音。


拳が凍りついた瘴気の殻を粉砕し、核へ突き刺さった。


黒い魔石が、ひび割れる。


どくん。どくん。どく――

そこで鼓動が止まった。


次の瞬間。


蒼白い亀裂が、怪物の全身へ走る。

腕、肩、胴、顔。

黒い筋ごと、氷のひびが駆け抜けた。


怪物の巨体が崩れ、膝をつき――


粉々に砕け散った。


氷片と黒い瘴気が霧のように舞い、広間に静寂が落ちる。


ユウヤは息を吐き、鉄扉へ向かった。


「眠れる王子と王女よ。今、我が――」


そこで、広間の奥がぞろりと蠢く。


研究用の歪な魔物が、次々と現れた。

腕が長い。顔が崩れている。動きが不自然だ。

生きているというより、動かされている失敗作。


「実験体……!」


メルキオが後退しながら言う。


「研究区画に踏み込むということは、こういうことです。王を壊されるとは想定外でしたが……」


実験体が群れで飛びかかる。


だが、今のユウヤはハイになったままだ。


「跪け」


冷気が走る。

最前列が凍る。蹴り砕く。破片が散る。


右、左、後ろ。

来るたび凍る。触れた瞬間に崩れる。


圧倒――そのはずだった。


けれど、冷気がわずかに薄れた。


嫌な予感。


その直後、ウィンドウが弾けた。


『警告:発動限界時間 60秒』

『警告:終了後、強制変身解除されます』

『警告:反転反動により、24時間の変身不可状態へ移行します』


「もう60秒!? 短すぎんだろ!?」


次の瞬間、全身から一気に力が抜けた。


蒼白い冷気が霧散する。

装備がほどける。

青紫の右目の光も、すっと消える。


ユウヤは膝をついた。


「が……!」


肺が潰れたみたいに苦しい。

視界が揺れる。

指先ひとつ動かない。


メルキオが、静かに息を吐く。


「……どうやら時間制限があったようですね」


口元が、薄く歪む。


「圧倒的でしたが、永続しない力だった。ええ、十分です。十分に観察できました」


実験体が一斉に飛びかかった。


今のユウヤには迎え撃てない。

腕で顔を庇う。


衝撃。爪。牙。重み。


一体なら払えた。二体でも何とかなった。

だが三、四、五と重なれば無理だ。


肩を噛まれる。腕を引かれる。背中へ圧がのしかかる。


黒い外套の男たち――メルキオの配下が現れる。


「確保しろ」


メルキオの声。


「彼は研究室へ。王子と王女はそのまま別室に」


ユウヤは最後の力で手を伸ばした。

鉄扉まで、ほんの少し。


だが、その手は途中で止められる。


背後から押さえ込まれ、腕を捻られ、喉元へ刃が当たる。


「離せ……!」


声は掠れていた。


メルキオが砕けたキングの残骸を一瞥し、ユウヤへ視線を戻す。


「いい研究材料が手に入りました」


意識が遠のく。


鉄扉の向こう――ルークとリアがいるはずの場所だけが、やけに遠い。


そこで、後頭部に強い衝撃が走った。


視界が揺れ、膝が完全に落ちる。


最後に見えたのは、氷片の霧と、なお立っているメルキオの影。


そして、ユウヤの意識は、ルークとリアに届かないまま闇へ沈んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ