表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面勇装マスクド・ブレイブ ~異世界でヒーローやらされてます~  作者: 白峰レイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/56

第52話「王子と王女」

店を閉めたあと、エマとグレッグは先に帰った。


一階の灯りを落とし、戸締まりを済ませる。

表の喧騒が遠のくと、旨味亭ブレイブは急に静かになった。


二階へ上がる前に、俺はルークを見る。


「で」


短く言う。


「話すんだろ」


ルークは少しだけ視線を落とした。

いつもみたいな落ち着いた顔をしているくせに、今日はその奥に迷いが見える。


「……リアは寝たぞ」


「セシルは?」


「一緒にいる。今日はこっちに来ない」


俺は頷いた。


「ならいい」


二階の小さな卓を挟んで向かい合う。

窓の外はもう暗い。

王都の夜の灯りだけが、細く床に落ちていた。


しばらく沈黙が続いたあと、ルークが口を開いた。


「……まず最初に言っておく」


声は静かだった。


「僕たちは、ただの商人の子じゃない」


「知ってる」


俺が即答すると、ルークが少しだけ眉を動かす。


「驚かないんだな」


「商人の子にしちゃ、食い方も座り方も綺麗すぎだ。それに、リアはたまに“普通”を知らなすぎるしな」


ルークは小さく息を吐いた。


「……そうか」


それから、ほんの少しだけ間を置いて言う。


「僕は、この国の王子だ」


そこで一度言葉を切り、続けた。


「リアは、僕の双子の妹。王女だ」


俺は腕を組んだまま、短く返す。


「知ってたけど、想像より上だったな」


ルークは苦く笑った。


「僕も、こうして誰かを頼る日が来るとは思っていなかった」


部屋の空気が、少しだけ重くなる。


ルークはしばらく黙っていたが、やがて低い声で続けた。


「……最近、父様――王が倒れた」


俺は小さく眉をひそめる。


「最近?」


「ああ。民衆には大きく伏せられているけど、王宮の中はもうかなり揺れてる」


ルークは窓の外を見たまま言う。


「王が倒れた以上、次の王の話は避けられない。でも、その前に大きな問題が起きた」


「何だ」


「アルヴェルト兄様が襲われた」


その名前に、俺は少し首を傾げる。


「……アルヴェルト?」


「一番上の兄様だ」


「ああ」


そこでようやく話が繋がる。


ルークは静かに頷いた。


「本来なら、次の王になるはずだった人だ。でも兄様は、他国への視察中に何者かに襲われた。大怪我を負って、今も国外から戻れていない」


俺は腕を組み直す。


「王は倒れてる。次に王になるはずの兄も戻れない。で、その隙に別の兄が動き始めたわけか」


ルークは短く頷いた。


「……セドリック兄様だ」


「そいつが、お前らを狙ってるかもしれないってことか」


ルークはすぐには頷かなかった。


代わりに、少しだけ言いにくそうに目を伏せた。


「昔は、セドリック兄様はあんなじゃなかった」


俺は黙って聞く。


「アルヴェルト兄様とも仲がよかったし、僕たちにも優しかった。少なくとも、僕たちを消そうとするような人じゃなかった」


そこまで言って、ルークは唇を結んだ。


「でも、最近、急に様子がおかしくなったんだ。アルヴェルト兄様が大怪我を負った知らせがあったあたりから……」


部屋が静かになる。


「何があったのかは分からない。ただ、あの頃から兄様の周りにいる人間も変わった。王宮の空気も、おかしくなった」


俺は腕を組んだまま黙って聞く。


「兄様の言葉は鋭くなった。前なら通さなかったはずの話も、通すようになった。王が倒れ、アルヴェルト兄様も戻れない。その隙に、急に発言力を強めた」


「……で、お前らが狙われた」


ルークは短く頷いた。


「ああ」


「僕は王子だ。継承から遠くても、消しておいた方がいいと思う奴はいる。リアも同じだ。王女ってだけで、利用しようとする貴族は出てくる」


「なるほどな」


「アルヴェルト兄様が戻れない今、僕たちは“念のため消しておくべき存在”になった」


その言い方には、怒りよりも諦めが混じっていた。


俺は小さく息を吐く。


「王宮ってのは面倒くせえな」


「面倒で済むならよかった」


ルークはそう言って、懐に手を入れた。


取り出したのは、小さな革袋だった。

その中から、王家の紋章が刻まれた印と、丁寧に折り畳まれた紙が出てくる。


「父様が、最後に渡してきた」


「それは?」


「王の密書だ」


俺は目を細めた。


「中身は」


「見ないように言われた。でも、父様はこう言った」


ルークは紙を見つめたまま、低く言う。


「――これだけは奪われるな」

「――リアを連れて逃げろ」

「――アルヴェルトが戻るまで、決して姿を明かすな」


「……セドリックの名前は?」


「出ていない」


俺は少しだけ考える。


王がそんな密書を残す。

王は倒れた。

次の王になるはずの兄は不在。

残った兄は急に変わった。

その直後に、ルークとリアが狙われる。


そして今、店を見張っていたのは蛇架だ。


(……かなり大事に巻き込まれたな)


でも、それを今ここで口にしても仕方ない。


「リアには、まだ全部話してないんだろ」


俺が言うと、ルークはゆっくり頷いた。


「ああ」


ルークは少しだけ目を伏せる。


「リアには、できるだけ普通に過ごさせたかった」


「無理だろ」


思わず言う。


「王女のくせに皿拭いてたぞ」


ルークの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。


「……そうだな」


それから、少し間を置いて続ける。


「それでも必要だった。リアが、ただ怯えているだけの時間じゃなくて……普通に笑える時間が」


その言葉は、妙に重かった。


俺はそれ以上茶化さなかった。


「で」


少し身を乗り出す。


「ただ逃げてるだけじゃないんだろ」


ルークは一瞬だけ迷ってから、王の密書を握りしめた。


「……ああ」


「父様は、これを守れと言った。でも本当は、それだけじゃない」


「何だよ」


ルークは小さく息を吸った。


「王宮の中にいる人間だけじゃ、もう信用できない。だから僕たちは外へ逃がされた。アルヴェルト兄様が戻るまで、生きていなきゃいけない」


「つまり、お前らが生きてること自体が切り札ってことか」


「……そうなる」


また沈黙が落ちる。


王子と王女。

倒れた王。

戻れないアルヴェルト。

変わってしまったセドリック。

王の密書。

そして、蛇架。


一気にいろんなものが繋がりすぎて、逆に頭が冷える。


「……頼む」


その言葉は、思ったより小さかった。


顔を上げると、ルークがまっすぐこっちを見ている。


「もう少しだけでいい……リアを守ってくれ」


まだ、小学生くらいの歳のくせに、覚悟を決めた目で頭を下げている。


俺は少しだけ息を吐く。


「ったく、最初からそう言え」


ルークが、わずかに目を見開く。


俺は腕を組み直した。


「王子だろうが王女だろうが関係ねえ。お前らはうちの従業員のルークとリアだ。もう他人じゃねえ」


ルークはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。


「……ありがとう」


「礼はいい。その代わり、今後は隠すな。何かあれば全部話せ」


「ああ」


「あと、リアにもちゃんと話せ。いつまでも何も知らねえまま守り切れる状況じゃねえだろ」


ルークは目を伏せた。


「分かってる」


その時だった。


カン。


腰が鳴った。


「……あ?」


視界の端に、透明なウィンドウが開く。


『クエストクリア : 二人の正体を聞き出せ』

『ヒーローポイント+5』

『前借り残高:20』


続けて、もう一枚。


『特殊クエスト : 王都で英雄たれ』

『期限:7日』

『達成条件:7日以内にヒーローポイントを合計30獲得せよ』

『※獲得したポイントは前借り返済に自動で充当されます』

『現在の前借り残高:20』

『成功報酬:ヒーローポイント10』


「……は?」


思わず間の抜けた声が漏れる。


ルークが怪訝そうに見る。


「どうした」


「いや……」


俺は頭を押さえた。


今の力じゃ守り切れないってことか。


しかも、七日。

思ってたよりずっと短い。


「……ほんと、楽させてくれねえな」


ルークは意味が分からない顔をしていたが、俺は説明する気になれなかった。


どうせ、やるしかない。


王都で人を助ける。

信頼を集める。

ポイントを稼ぐ。

で、装備を整える。


二人を守るために、小さな人助けを積み重ねろってことか。


「……7日か……時間がねえな」


誰にともなく呟く。


窓の外では、まだ王都の灯りが揺れていた。


王宮の陰謀も、蛇架の気配も、全部そこにある。


だったら、もう逃げられない。


俺は小さく息を吐いた。


「分かったよ。やってやる」


その夜は、妙に長かった。


王都に来てから、面倒ごとはずっと増え続けていた。


でも、今夜でようやく――誰を守って、何と戦うのかだけははっきりした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ