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人助けでポイントを稼いだら、最強ヒーローになっていた ~ネタ装備が進化する異世界譚~  作者: 白峰レイ


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第49話「従業員募集」

慌ただしくも、一週間ほどが経った。


旨味亭ブレイブは、ありがたいことに連日売上を維持し続けていた。


俺たち五人も、最初の頃よりはずっと動けるようになった。

グレッグは厨房、エマは会計と接客、ルークは厨房補助、リアは配膳と片付け。

それぞれの役割も、ようやく形になってきた。


……だが、忙しさだけは変わらない。


昼営業が終わった時点で全員ぐったり。

夜営業まで終われば、もう立ってるだけで精一杯だ。


その日も、最後の客を見送ったあと、俺たちは一階で半分死んでいた。


「無理だな」


グレッグが空の鍋を見ながら言う。


「このままじゃ過労死だ」


「縁起でもねえな」


「事実だろ」


グレッグは真顔だった。


「厨房もホールも、あと一人……いや、二人欲しい。このままで営業し続けるのは無理だ」


エマも帳面を抱えたまま頷く。


「はい。このままだと、誰かが倒れてもおかしくないです」


リアが不安そうに目を瞬かせる。


「そんなに……ですか?」


「そんなにだ」


グレッグが即答した。


「今はなんとか回ってるだけだ。誰か一人でも欠けたら、その日の営業ごと崩れる」


ルークが静かに言う。


「じゃあ、増やすしかないな」


「そういうことだ」


俺は椅子に沈んだまま、天井を見上げた。


鍋は空。

器は山。

足は棒。


「……じゃあ、募集するか」


エマが少し顔を上げる。


「従業員、ですか」


「ああ。厨房もホールも、どっちも少しは触れるやつが欲しい」


グレッグが鼻を鳴らした。


「そりゃ贅沢だな」


「欲しいだろうが」


リアがおずおずと聞く。


「給金って、ちゃんと払うんですよね」


「当たり前だろ。何だと思ってんだ」


「よ、よかった……」


エマが苦笑する。


「リアさん、ユウヤさんでもそこはちゃんとしますよ」


「“でも”ってなんだ」


「そこ、引っかかるんですね……」


俺は立ち上がった。


「よし。明日、昼営業終わったら面接だ」



翌日。


旨味亭ブレイブの入口には、小さな募集札が貼られていた。


従業員募集

給金応相談

厨房・ホールどちらも手伝える者歓迎


本当はもっと気の利いた文面にしたかったが、そんな余裕はなかった。


そして昼営業後。

面接の時間になった。


一階の端の席に、俺、エマ、グレッグ。

少し離れたところにルークとリア。


「なんか……緊張しますね」


リアが小さな声で言う。


「お前が面接受ける側じゃねえだろ」


「でも、初めてなので……」


「俺も初めてだよ」


「雇う側ですよね?」


「そうだけど初めては初めてだろ」


グレッグが腕を組む。


「いいから始めろ。仕込みもあんだよ」


「分かってるよ」


俺は息を吐いた。


「じゃあ、一人目」


エマが頷いて扉を開ける。


そして入ってきたのは――当然みたいな顔をしたレオルドだった。


「帰れ」


「まだ座っていません」


「座る前に帰れ」


レオルドは当然みたいに椅子に座った。


「応募理由は、レグナ麺が美味しいからです」


「食う側で来い!!」


リアが肩をびくっと跳ねさせる。

ルークは無言で目を逸らした。


グレッグが心底嫌そうな顔をした。


「Aランクハンターが何しに来てんだよ」


「仕事です」


「ハンターの仕事があるだろうが!」


エマが一応、真面目に聞く。


「どうして、ここで働こうと?」


レオルドは一切迷わなかった。


「レグナ麺が美味しいからです」


「帰れ」


満場一致だった。


「待ってください。私は時間も守れますし、規律もあります」


「厨房は?」


俺が聞く。


「見たことはあります」


「……じゃあ、金の計算は?」


レオルドは少しだけ考えてから、真顔で答えた。


「一桁の足し算と引き算であればできます」


空気が止まる。


「駄目だこいつ」


「駄目ですね」


エマが即答し、リアもおずおず頷いた。


「……駄目だと思います」


ルークが静かに締める。


「論外だな」


「だな」


レオルドは少しだけ残念そうな顔をした。


「不採用ですか」


「満場一致でな」


「なるほど。では、客としてまた来ます」


「そっちだけにしとけ」


ようやく退室したあと、俺たちは全員同じように深く息を吐いた。


「一人目からこれかよ……」


「もう疲れましたね……」


「まだ何も始まってねえのに、もう疲れたわ」



二人目は、姿勢からして終わっていた。


入ってきた瞬間から目が死んでいる。

椅子にもたれるみたいに座って、欠伸までしている。


「名前は?」


「デルクっす」


「志望理由は?」


「近いからっす」


「……そうか」


グレッグが低い声で聞く。


「厨房できんのか」


「火ぃ使うの、熱いんで苦手っす」


「ホールは?」


「重い皿はちょっと」


「じゃあ何ができんだよ」


「……愛想笑い?」


「ないな」


満場一致だった。


デルクが不満そうに立ち上がる。


「こんな厳しいと思わなかったっす」


「仕事舐めんな」


グレッグが吐き捨てると、男は舌打ちしながら出ていった。


エマがこめかみを押さえる。


「近いから……」


「逆に清々しかったな」



三人目で、空気が変わった。


扉が開いて入ってきた瞬間、俺は眉をひそめた。


「……でけえな」


肩幅が広い。

身体も分厚い。

でも顔は妙に爽やかだ。


男は勢いよく頭を下げた。


「トムです!!」


声がでかい。


「志望理由は?」


「働きたいからです!!」


「厨房は?」


「食堂で手伝ってたことがあります!」


「ホールは?」


「できます!」


「……いいじゃねえか」


俺が少し前向きになった、その時だった。


トムが俺の方をじっと見つめてくる。

そして急に目が見開かれた。


「――あっ!!」


嫌な予感がした。


「……どうした」


トムは身を乗り出した。


「やっぱり!!」


「何がだよ」


「俺、パルマで見たんです!!」


「は?」


「マスクド・ブレイブさんの戦いを、南門で実際に!!」


「違う」


「いや、絶対そうですよね!? 王都にいるって聞いて追いかけてきたんです!!」


「俺はユウヤだ」


トムはもう止まらなかった。


「それで店の前の看板見た瞬間、稲妻が走りました!! “ブレイブ”って入ってる! 絶対マスクド・ブレイブさんだって!!」


「なんで看板から正体割れてんだよ……」


トムの目は本気だった。


「何度も俺たちのためにボロボロになっても、戦って……! ゴブリンキング相手に、あの姿で立ってたの、今でも忘れられないんです!!」


「違う」


「しかもパルマじゃ、もう歌までできてるんですよ!!」


「歌?」


「はい!! それに、もうパルマじゃなくて、ソイヤの街に改名するらしいです!!」


「なんでだよ!!」


リアが完全に引いていた。


「す、すごい人なんですね……」


エマは困惑している。


「レオルドさんも言ってましたけど、ユウヤさんって本当に……」


「その話はするな」


ルークは無言で目を逸らした。


俺は額を押さえる。


「……お前、働きに来たんだよな?」


「もちろんです!! でもできれば、あの時の変身の決めポーズをもう一度――」


「帰れ」


「ええっ!?」


「帰ってくれ!!」


トムは最後まで未練がましかった。


「握手だけでも!!」


「いやだ!!」


「サイン――」


「字が書けねえんだよ!!」


「そこも本物っぽい!!」


「うるせえ!! 帰れ!!」


トムが出ていったあと、店の中に妙な静けさが落ちた。


グレッグがぽつりと言う。


「……ソイヤの街」


「忘れろ」


「無理があります」


エマが肩を震わせた。


「歌まであるんですね……」


「聞きたくねえよ、そんなもん」


リアは真顔で聞いてくる。


「マスクド・ブレイブさんって呼んだ方がいいんですか?」


「よくない! ユウヤだ!!」


ルークが静かに言った。


「少なくとも、働く気だけは本気だったな」


「そういう問題じゃねえんだよ……」



四人目で、ようやく空気が締まった。


扉が開いて、入ってきた女を見た瞬間、俺は思わず眉をひそめた。


「……なんでメイド服なんだよ」


黒と白の、いかにも“それ”な服。

頭には小さな飾りまでついている。


でも、ふざけた感じはなかった。

姿勢が綺麗で、動きにも無駄がない。


女は一礼した。


「以前、この格好で働いておりましたので」


声は落ち着いている。

年は二十代前半くらいか。


「名前は?」


「セシルと申します」


「志望理由は?」


セシルは少しだけ目を伏せた。


「以前は貴族家に仕えておりました。ですが、その家が潰れてしまい、職を失いました。給仕、掃除、洗濯、簡単な厨房補助までなら一通りできます」


エマが姿勢を正す。


「……それは、本当ですか?」


「メイドとして当然です」


答え方に無駄がない。


グレッグが腕を組んだまま聞く。


「料理は?」


「主担当ではありませんでした。ですが、仕込み補助と配膳補助は慣れております」


「客に愛想は振れるか?」


「必要な分だけ」


「悪くねえな」


グレッグがぼそっと言った。


俺はまだ少し引っかかりながら聞く。


「その格好で働く気か?」


「問題があるでしょうか」


「……目立つ」


「なら、エプロンの下に着ます」


「そこ譲らねえのかよ」


セシルは少しだけ首を傾げた。


「仕事着ですので」


リアが小さく呟く。


「なんか……すごい人ですね」


ルークは無言でセシルを見ていた。


エマが柔らかく言う。


「試しに、お茶を出してもらってもいいですか?」


「承知しました」


セシルはすっと立ち上がった。


音が少ない。

歩き方も綺麗だ。


グレッグが小さく言う。


「……すげえな」


「見りゃ分かる」


少しして出てきたお茶は、温度もちょうどよく、置き方まで丁寧だった。


エマが少し驚いたように言う。


「すごい……」


「メイドとして当然の嗜みです」


「……メイド半端ねぇな」


俺は腕を組んだ。


「……採用でいいよな?」


エマが頷く。


「はい。即戦力だと思います」


グレッグも短く言う。


「ようやくまともなのが来た」


リアがほっとしたように笑った。


「よかった……」


ルークは静かに言った。


「仕事はできる。今のところは、それで十分だろ」


「珍しく前向きだな」


「事実を言っただけだ」


セシルは深く頭を下げた。


「ありがとうございます」



面接が全部終わった頃には、夕方だった。


「……疲れた」


俺が椅子に沈む。


グレッグが鼻を鳴らした。


「働くより気疲れするな」


「面接ってこんな疲れるのかよ……」


エマが帳面を見ながら言う。


「候補としては、セシルさんだけですね」


「だな」


「メイド服だけどな」


「もうそこはいいんじゃないですか」


エマが苦笑する。


「仕事ができるなら」


リアが少しだけ嬉しそうに言った。


「私、あの人ちょっと好きです」


「早ぇな」


「でも……安心する感じがしました」


ルークは静かに言う。


「余計なことも言わない。ちょうどいいと思う」


「……まあ、一人でも増えるなら助かるか」


そう呟いて立ち上がる。


「よし。じゃあ明日から、試しに入ってもらう」


グレッグが頷いた。


「使えりゃ助かる」


エマも笑う。


「少し、楽になりますね」


リアはほっとしたように息を吐いた。

ルークは何も言わなかった。


俺は入口の方を見た。


看板、店、借金、客、仕込み。

やることはまだ山ほどある。


でも、人が増えるだけで、少しだけ先が見える。


――旨味亭ブレイブに、新たなメンバーが加わった。


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