表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でフルチンだった件 ~脱変態を目指したら英雄になっていた~  作者: 白峰レイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/82

第45話「保護と報酬」

東の森を抜けて、街道に戻った頃には、空が赤く染まり始めていた。


俺は前を歩きながら、ちらりと後ろを見る。


少年と少女は、少し距離を取ってついてきていた。

少女はまだ警戒している。

少年の方は落ち着いてるというか。


ガキっぽくない。


「なあ」


俺が声をかけると、少年が顔を上げた。


「なんであんなとこで襲われてた」


少年は少しだけ黙った。

考えてる。言う内容を選んでる感じだ。


やがて、静かに口を開いた。


「……僕たちはパルマの商人の息子と娘だ」


少女が小さく俯く。


「王都へ向かう途中だった。父の商会が恨みを買っていて……その相手が、闇ギルドを使った」


「親は?」


「殺された」


短い返事だった。


風が吹く。


俺は前を向いたまま、内心で眉をひそめる。


パルマの商人。

王都へ向かっていた。

そこまで聞いた時点で、引っかかる。


なら、俺の顔を知らないのはおかしい。


パルマでのゴブリンキングの件は、街中の人間が知ってる。

俺がレグナに来て数日は経っているから、後からパルマを出たことになる。


(……嘘か)


少なくとも、全部は本当じゃない。


でも、今それを暴いたところで意味はない。


「……ふーん」


俺はそれだけ言って、それから続けた。


「で……名前は?」


少年は少しだけ間を置いてから答えた。


「……ルーク」


少女も、遅れて口を開く。


「私は……リアです」


(それも本当か怪しいな)


まあ、今はいい。

呼び名があるなら十分だ。


「ルークとリア、な」


少し歩いてから、今度は別のことを聞く。


「お前ら、金持ってるのか?」


リアがびくっとして、ルークを見る。


ルークは少し黙ってから答えた。


「……ほとんどない」


「ほとんどって?」


「銀貨が数枚だけだ」


俺は眉をひそめた。


追われてる。

金もない。

頼れる相手も、たぶん今はいない。


「……なら、しばらく面倒見てやる」


リアが顔を上げる。


「え……?」


「狙われてるなら、その辺に放るわけにもいかねえだろ」


俺はため息を吐いた。


(クエストもあるしな)


「ただし、ずっと面倒見られるとは思うなよ。落ち着くまでだ」


ルークは俺を見た。


「……なぜ、そこまでする」


「うるせえ。助けちまったからだよ」


それ以上は聞いてこなかった。



宿に戻ると、エマが入口で固まった。


「……え?」


グレッグは鍋を洗っていた手を止めて、露骨に嫌な顔をした。


「厄介事の臭いがする。帰れ」


「言い方」


俺は二人を前に押し出した。


「説明は後だ。こいつら腹減ってるみたいだから、とりあえず食わせてやってくれ」


リアが少し身をすくめる。

ルークは黙って周りを見ていた。


エマはすぐにしゃがんで、目線を合わせた。


「大丈夫ですよ。すぐ用意しますね」


グレッグが鼻を鳴らす。


「俺がな」


「はい、グレッグさんが」


「最初からそう言え」


その時だった。


受付の女が、俺を見るなり姿勢を正した。


「ユウヤ様。レグナ支部ギルドより、お戻りになりましたらお越しいただきたいと、言付けを預かっております」


「……今かよ」


「急ぎのようでした」


タイミング悪すぎだろ。


俺はため息を吐いて、エマとグレッグを見る。


「悪い。俺、ちょっとギルド行ってくる」

「こいつら、先に食わせといてくれ」


エマが頷く。


「分かりました」


グレッグは嫌そうな顔のまま、もう鍋に火をかけていた。


「さっさと行け。戻ってくる頃には食わせといてやる」


「助かる」


俺はルークとリアに目を向ける。


「逃げるなら好きにしろ。けど、次に追われても助けられるとは限らねえからな」


ルークは一瞬だけ黙ってから言った。


「……残る」


リアもすぐに頷いた。


「わ、私も……」


「よし。じゃ、任せた」


俺は踵を返して宿を出た。



レグナ支部ギルドは、夜になっても妙に明るかった。


受付で名前を言うと、すぐに奥へ通される。


ギルド長室の扉を開けると、ヘルガが腕を組んで立っていた。


相変わらずの圧だ。

部屋にいるだけで空気が重い。


「来たか」


「来たよ。で、何だ」


ヘルガは机の上の書類を軽く叩いた。


「お前の報酬の正式査定が終わった」


俺は少しだけ姿勢を正した。


「南門防衛、ゴブリンキング討伐、ジェネラル級の排除、民間被害の抑制――その全てを踏まえて、本査定が出た」


「……で?」


「追加で白金貨四十枚。仮払いした白金貨を合わせると、白金貨五十枚だな」


「は?」


思わず間の抜けた声が出た。


ヘルガは淡々と続ける。


「本来なら、もっと上がっていた。ゴブリンキングの魔石が残っていれば、それだけでも査定は数倍にもなったはずだ」


「何十倍?」


「だが現物はない。加えて、今は国の状況も不安定だ。王都も、金の出し方にだいぶ神経質になっている」


俺は眉をひそめた。


「……つまり、だいぶケチられてるってことか」


「言い方は悪いが、そういうことだ」


「こんだけ死にかけて白金貨五十枚か……」


ヘルガはそこで、もう一枚の書類を机に置いた。


「それと、ランクも上がる」


「……あ?」


「Dランクのままは無理だ。今日付で、お前をBランクに昇格させる」


「は!?」


今度は本気で声が出た。


「また、そんな飛ぶのかよ」


「ゴブリンキングとジェネラル級を討伐した時点で飛び級は当然だ。むしろ魔石が残っていれば、もっと面倒な話になっていた」


「面倒ってなんだよ」


「お前を王都に縛りつける理由が増えるという意味だ」


「今でも十分縛ろうとしてるだろ……」


ヘルガは腕を組んだまま言う。


「ただし、経験も少なく、不安定な要素が多い。よって、王都ギルド監督下での特例昇格だ」


「やっぱ条件付きじゃねえか」


「不満か?」


「……何か嫌な予感がする」


ヘルガは小さく鼻を鳴らした。


「……勘がいいな。Bランクからは指名依頼が来ることもある」


「指名依頼?」


「ギルドから直接回す案件だ。場合によっては、貴族から高報酬の依頼が来ることもある」


俺は眉をひそめた。


「……それって拒否できるのか?」


ヘルガは少しだけ間を置いた。


「……場合による」


「場合によるってなんだよ」


「相手と内容次第だ。断れる依頼もある。断りにくい依頼もある」


「それ、昇格っていうか面倒ごとが増えただけじゃねえか?」


「高報酬には高報酬の理由がある。世の中、うまい話ほど面倒だ」


「そんなことだろうと思った……」


「それでもBに上がる価値はある」


「まあ、金は好きだしな」


ヘルガは机の引き出しから袋を二つ出した。

片方は見覚えのある重さ。

もう片方が、さらに重い。


「受け取れ」


袋を持った瞬間、腕が沈む。


重い。

笑えるくらい重い。


「……こんなに貰っていいのかよ」


「貰う権利があるから貰える。不満か?」


「いや、ない」


即答した。


あるわけない。


ヘルガは俺をじっと見る。


「それと、所在をはっきりさせろ。お前は王都ギルドの監督下になる。それを使って家を借りるなりしろ」


「監督って言い方は好きじゃねえな」


「気に入る必要はない」


拠点か。


確かに露店だけじゃ、いろいろと限界がある。

今は特に、あの二人もいる。


「……分かった」


俺は袋を腰に括りつけた。


「じゃあな」



宿へ戻ると、エマとグレッグ、そしてルークとリアが一階にいた。


リアは空になった器を両手で持っている。

ルークも、二杯目まできっちり食ったらしい顔をしていた。


グレッグが俺を見るなり眉をひそめた。


「遅かったな」


「まあな」


俺はそのまま、机に袋を二つ置いた。


どん、と重い音が鳴る。


エマが振り向く。


「ユウヤさん?」


グレッグも眉を寄せる。


「なんだそれ」


「報酬」


俺は袋の口を開いた。


白金貨が、鈍く光る。


エマもグレッグも固まった。


「……は?」


「……え?」


リアも目を見開いている。

ルークだけは表情を崩さなかったが、目つきが少し変わった。


俺は何でもないことみたいに言った。


「白金貨五十枚」


「ご、五十!?」


「お前何したんだよ!!」


グレッグが素で叫んだ。


俺は椅子に腰を下ろしながら答えた。


「街を一個救ったんだよ」


「なんだそれ!?」


「これでもケチられてんだぞ」


エマがまだ信じられない顔で袋を見ている。


「白金貨五十枚って……お店、持てますよ?」


その言葉に、俺は袋を指で叩いた。


「それだ」


グレッグが腕を組む。


「それって?」


「これだけ元手があれば、店構えられねえか?」


一瞬、空気が変わる。


エマの目が、商人のそれになった。


「……できると思います」


「あるのか」


「たぶん。明日、商業ギルドで物件の情報を聞いてみましょう。王都で店を出す人向けの仲介や紹介もあるはずです」


グレッグが鼻を鳴らす。


「金ができた途端、話が早えな」


「今までは露店しか選べませんでしたから」


「まあ、それはそうだな」


俺はルークとリアを見る。


「宿にずっと住み続ける訳にもいかねえしな。だったら、まとめて確保した方が早い」


リアが小さく息を呑んだ。


ルークは静かに俺を見ている。


「……俺たちもいいのか?」


「行く場所ねえんだろ、お前ら」


「……」


「だったら、ある程度落ち着くまでそこで寝泊まりしろ。細かいことは、明日決める」


エマは、ほっとしたように笑った。


「じゃあ、明日は商業ギルドですね」


俺は頷いた。


「よし。それでいく」


袋の白金貨が、机の上で重たく光っている。


露店から始まった商売。

事情がありそうな子供が二人。

そして、五十枚の白金貨。


めちゃくちゃだ。

でも、こういう時に限って人生は前に進む。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ