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異世界でフルチンだった件 ~脱変態を目指したら英雄になっていた~  作者: 白峰レイ


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第44話「東の森の襲撃」

レグナ東の森は、王都の外れとは思えないほど静かだった。


街道から少し外れただけで、人の気配が薄くなる。

風が木々を揺らす音と、鳥の声。

それだけだ。


「……ほんとにこんなとこで襲われてんのかよ」


俺は舌打ちしながら、ベルトから出た矢印を追った。


『クエスト : 東の森の少年少女を救え』


クエストが出てるってことは、すでに何かが起きてる。

でも、森は妙に静かだった。


嫌な静けさだ。


足を速める。


少し進んだところで、ようやく異音が聞こえた。


――バキッ。


枝が踏み折られる音。


続いて、短い悲鳴。

子供の声だ。


「……っ!」


俺は反射で走った。


木々の間を抜ける。

枝が顔に当たる。構わず進む。


そして、開けた場所に出た瞬間――状況が見えた。


少年と少女が二人。

その前を塞ぐように、フードを被った三人組。


全員、剣持ち。


少年は十歳前後。

少女も同じくらいか、少し下か。

どっちも泥はついているが、服の質が妙にいい。森にいるには場違いだった。


三人組のうち一人が低く剣を構えている。

もう一人は横へ回り込み、最後の一人は少し後ろで機をうかがっていた。


逃がさない配置だ。


(……ただの追い剥ぎじゃねえな)


俺は木陰から飛び出した。


「おい」


三人の視線が一斉にこっちへ向く。


その瞬間――


『観測されました』

『変身可能です』


「よし」


俺は一歩前へ出た。


「大人三人でガキ二人囲むとか、趣味悪すぎんだろ」


返事はない。


フードの奥、顔は見えない。

でも、殺気だけははっきり分かった。


「……分かりやすい悪党なら助かるんだけどな」


俺はいつものように腕を振り上げる。


「変身」


光が弾ける。


そして――いつものように、寒い。


「……」


「……」


「……見るな!!」


反射で股間を隠しながら叫んだ。


少女が目を見開く。

少年は一瞬だけ眉をひそめた。


でも今はそれどころじゃない。


『装備データ不足』

『外装:未適用』


「知ってるよ!!」


俺は歯を食いしばって、一歩前に出た。


「俺は――」


名乗ろうとした、その瞬間。


一人が地面を蹴った。


速い。


「っ!」


真正面から剣が来る。


俺は半歩下がって躱した。

刃が鼻先を掠める。


(待たねえのかよ!?)


二人目が横から詰める。

三人目は、まっすぐ子供たちの方へ。


「おいおいおい、性格終わってんな!!」


俺は少年と少女の前に滑り込み、剣を蹴り上げた。

金属がぶつかる甲高い音。


重い。


しかも、一人ずつじゃない。


正面を受けた瞬間、横から二撃目が飛んでくる。

そのさらに奥で、三人目が隙を探している。


(連携してやがる……!)


ただ強いんじゃない。

“護衛ごと殺す”動きに慣れてる。


俺は二人をかばったまま、じりじり下がる。


「お前ら、俺から離れるな!」


少女が小さく息を呑んだ。


「……え」


「いいから下がれ!」


少年は黙って少女の腕を引いた。

判断が早い。


でも、相手も早い。


右から剣。

左からもう一本。

しゃがんで避けた瞬間、三人目の蹴りが腹に刺さった。


「ぐっ……!」


吹き飛びそうになる。

でも後ろには二人がいる。


耐えるしかない。


「このっ……!」


俺は足を踏ん張って、蹴ってきた男の足を払う。

体勢が少し崩れたところに拳を打ち込む。


鈍い感触。


でも浅い。


すぐに二人目が剣で牽制してくる。


(くそ、名乗る暇がねえ……!)


今のままだと身体能力強化は変身分だけ。

名乗りを通せば、ここから一段上がる。


でも、その一瞬が作れない。


正面の剣をいなし、横薙ぎをかがんで避ける。

木の幹に刃が食い込む音。


背後で少女が小さく悲鳴を呑んだ。


やばい。

じりじり押されてる。


一人ならまだ何とかなる。

でも、守りながら三人相手はキツい。


「……チッ」


俺は歯を食いしばった。


(なりふり構ってる暇はねえ)


正面の男がまた踏み込んでくる。


その瞬間、俺は叫んだ。


「あっ! レオルド!!」


ぴくり、と一人の視線が揺れる。


(かかった!)


俺はその瞬間、思いきり地面を蹴り上げた。


乾いた土が舞う。


「っ!?」


目を細めた男の懐に潜り込む。


「悪ぃな!」


股間に、思いきり蹴りを叩き込んだ。


「ぐぇっ!?」


男が折れる。


その身体をそのまま肩で押し込み、横から来ていた二人目にぶつけた。


二人がもつれる。


三人目が舌打ちして前へ出る。


でも、もう遅い。


俺は一気に距離を取った。

二人を背に回し、息を吸う。


「俺は、闇を払い光を照らす!

 恐れを越えて、救いを掴む!

 仮面勇装――マスクド・ブレイブ!!」


『名乗り成功』

『身体能力強化:27倍(基礎)』

『名乗りボーナス:16倍(加算)』

『合計:身体能力強化 43倍』


世界が軽くなる。


「――っしゃ!」


目の前の男が剣を振り下ろす。


遅い。


踏み込む。

懐に入る。

拳を腹に叩き込む。


「ブレイブパンチ!!」


男の身体がくの字に折れた。

そのまま蹴りで横へ飛ばす。


二人目が横から斬りかかる。

今度は余裕すらある。


手首を打ち、剣筋を逸らす。

返す拳で顎を跳ね上げる。


三人目が後ろへ下がった。


(こいつ、頭回るな)


距離を取って、何かを腰から抜く。


小瓶。


「っ、危ねえ!」


投げてきた。


俺は反射で後ろを向き、二人を抱き込むようにかばった。


瓶が地面に叩きつけられる。


割れる音。


次の瞬間――


「……煙!?」


白い煙が一気に広がった。


臭いは薄い。

爆発もしない。


ただの煙幕だ。


「くそっ……!」


俺は煙を払って前へ出る。

でももう遅い。


三人の気配は、森の奥へ散っていた。


逃げた。


「チッ……!」


追うか、一瞬迷う。

でも背後に二人いる。


ここで離れるのはまずい。


俺は歯を食いしばって立ち止まった。


『クエストクリア』

『東の森の少年少女を救え』

『ヒーローポイント8を獲得しました』

『前借り残高:35』


「……とりあえずは大丈夫か」


思わず呟いた、その瞬間。


カン。


またベルトが鳴る。


「は?」


新しいウィンドウが開く。


『クエスト : 少年と少女を保護せよ』

『行き場のない二人を保護せよ』

『報酬:ヒーローポイント4』


「まだ続くのかよ……」


俺はため息を吐いて、ベルトを軽く叩いた。


カン。


光が引く。


ようやく、いつもの姿に戻った。

ボロい服の感触が戻ってきて、少しだけ安心する。


「よし……」


咳払いして、二人の方を振り向く。


少年と少女は、少し離れた場所に立っていた。


怯えてる――ように見えて、少年の目は妙に落ち着いている。

少女の方は本気で怖がってるらしい。俺と目が合うと、びくっと肩を揺らした。


そりゃそうだ。


さっきまで、フルチンの男が命がけで助けに来てたんだから。


「……今のは忘れろ」


少女が真っ赤になった。


「わ、忘れられるわけないでしょう!」


「だよなぁ……」


少年が、そこで初めて口を開いた。


「……助けてくれたことには感謝する」


落ち着いた声だった。

年齢のわりに、妙に整っている。


俺は眉をひそめた。


「お前、ガキのくせにやけに冷静だな」


「……君が、やたら騒がしいだけだ」


「言うじゃねえか」


少女が少年の袖を掴む。


「お、お兄さま……」


(お兄さま?)


一瞬だけ引っかかった。


服もいい。

言葉も妙に整ってる。

森にいるには、場違いすぎる。


でも今はそれより先だ。


俺は二人を見て言った。


「事情は後だ。とりあえずここ離れるぞ」

「また追ってこられたら面倒だ」


少年が一瞬、何かを考えるように黙った。

それから、短く頷く。


「……分かった」


少女はまだ不安そうだったが、やがて小さく頷いた。


俺は森の奥を睨む。


煙幕で逃げた三人組。

ただのゴロツキじゃない。

あの動きは、完全に“仕事”だった。


(なんなんだよ、お前ら……)


ベルトのウィンドウが、まだ視界の端に残っている。


『少年と少女を保護せよ』


「……ほんと、休ませてくれねえな」


そう呟いて、俺は二人を連れて森を後にした。

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