↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人助けでポイントを稼いだら、最強ヒーローになっていた ~ネタ装備が進化する異世界譚~  作者: 白峰レイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/188

第41話「スープの販売」

朝のレグナは騒がしかった。


俺たちが露店を出したのは南市場の端だ。


中心部ほどではないが人通りは十分にあり、グレンやパルマとは比べものにならない。


エマが木箱を並べ、グレッグが鍋の火加減を見る。


俺は器を並べながら、通りから店がどう見えるかを確認した。


用意した鍋は二つ。


一つは、鳥の骨と干しきのこで作った旨味スープ。


もう一つは、そこにトマルとオニアを入れた赤い旨味スープだ。


赤い方には、エマの薬草も少しだけ使ってある。


オレガノみたいな爽やかな香りがして、薬草入りだから身体にもいい。


これが今日の売りだ。


鍋から湯気が立ち、いい匂いが漂っている。


「……最高の匂いだな」


俺が言うと、グレッグが鍋を覗いたまま鼻を鳴らした。


「匂いだけならな」


「縁起でもねぇこと言うな」


エマは鍋の横に薬草を並べながら、小さく笑った。


「その前に、値段を決めませんか?」


「そうだった」


俺は鍋を見る。


「いくらがいい」


エマは少し考えてから答えた。


「鳥の方は大銅貨三枚。赤い方は薬草を使ってるので、大銅貨四枚くらいでしょうか」


「スープだけで四枚か……ちょっと強気だな」


「王都ですし、薬草入りですから」

「安すぎると逆に怪しまれます」


「……なるほどな」


グレッグが口を挟む。


「匂いだけなら銀貨でも取れそうだけどな」


「調子に乗るな」


「冗談だよ」


冗談に聞こえねえんだよ、この料理人。


「じゃあそれでいく」

「鳥が三枚、赤が四枚だ」


エマが頷く。


「はい」


俺は通りへ目を向けた。


「で、値段だけじゃ弱い。目立たせたいな」


「看板ですか?」


「だな。看板作るか」


俺は木の板と炭を持ってきた。


エマがぱっと振り向く。


「いいですね! 文字があった方が、立ち止まってもらえます」


「任せろ」


さらさらと書く。


試食無料

先着三名

薬草入り 旨味スープ


書き終えて板を立てると、エマとグレッグが揃って黙った。


「……どうした」


エマが板を見たまま言う。


「ユウヤさん。それ、何て書いてあるんですか?」


「は?」


グレッグも眉を寄せた。


「見たことねえ字だな」


俺は自分で書いた文字を見て、ようやく気づいた。


(……日本語ダメじゃん)


反射的にベルトを叩く。


カン。


(読めるようにしてくれてるなら、書けるようにもしろよ……)


返事はない。


知ってた。


「……悪い。なんか癖で」


「癖で知らない文字を書く人、初めて見ました」


「俺もだよ」


グレッグが板をひったくった。


「貸せ。俺が書く」


「頼む。ちゃんと読めるやつでな」


グレッグは勢いよく炭を走らせる。


ガリガリガリガリ。


書き終え、満足げに板を置いた。


今度は俺が黙った。


「……おい」


「なんだ」


「汚くて読めねえ」


「うるせえ」


エマが小さく手を挙げた。


「……私、書きます」


結局、エマの字が一番綺麗だった。


板には、すっきりとこう並んだ。


薬草入り 旨味スープ

鳥旨味 三枚/赤旨味 四枚

体にもいい

先着三名 試食無料


「よし」


俺は頷く。


「これでいける」


グレッグが鍋を混ぜながら言った。


「ん? 試食ってなんだ?」


「最初の一杯が売れりゃ流れができる。だから三人までタダで飲ませるんだよ」


俺は空の器を指で弾いた。


「小さい器もねえし、とりあえずそれくらいで様子見だ」


エマが真面目に頷く。


「最初の三人だけ……ですね」


「そう」


俺は通りを見る。


匂いにつられて足を止める奴は、すでに何人かいた。


だが、看板と鍋を交互に見ながら匂いを嗅ぐだけで、誰も買おうとはしない。


赤いスープが珍しいのか、薬草入りなのが怪しいのか。


時間だけが過ぎていく。


「……サクラするってのはどうだ」


エマが首を傾げた。


「さくら?」


「客のふりして演技するんだよ。『うまっ!』って言って注目してもらう」


言った瞬間、エマが即座に首を振る。


「そんなのダメです! そもそも私たち、ずっとここにいるからバレちゃいますよ」


「だよな」


俺もすぐ頷いた。


「商売は信用が命だ。最初にそれ捨てたら終わる」


エマがほっと息をつく。


「はい。絶対ダメです」


「だったらやることは一つ。呼び込みしかねえ」


エマが息を吸った。


「薬草入りの旨味スープです! 体にもいいです! 試食、先着三名無料です!」


さっきより足を止める人は増えた。


それでも、店まで来る奴はいない。


「薬草入り……?」

「体にいいって、本当か?」

「なんか嗅いだことない匂いだな……」

「赤いスープって大丈夫か?」


そんな声は聞こえてくる。


興味はあるらしい。


あと一歩が出ない。


「……まあ、そうなるよな」


俺がぼそっと言った時だった。


「先着三名とは、先に着いた三名ということですね」


聞き覚えのある、やけに澄んだ声。


振り向く。


レオルド・フォン・アルヴェイン。


相変わらず無駄に整った顔。

相変わらず無駄にいい服。

相変わらず無駄に理屈っぽい。


「つまり、私はまだ間に合うということです」


「お前か」


レオルドは軽く一礼した。


「先日は失礼しました。謝るべきことを謝るのは、大事なことです」


「急にまともだな」


「まともだから謝っているのです」


「そうかよ」


レオルドの目が鍋へ向く。


「香りが気になっていました。試食を希望します」


エマがぎこちなく頭を下げた。


「レ、レオルド様……」


「では、いただきます」


レオルドには躊躇というものがなかった。


グレッグが器に赤い方を注ぐ。


「熱いぞ」


レオルドは一口すすった。


そのまま動きが止まる。


もう一口。


周りにいた人たちまで、レオルドの反応を見ていた。


やがて、レオルドがゆっくり口を開く。


「……美味です」


それを聞いた途端、周囲から声が上がった。


「レオルド様が……?」

「美味いって言ったぞ」

「本当に薬草入りなのか……?」


レオルドが器を置く。


「購入します。二種類とも」


「試食して即買いかよ」


「これは毎日でも飲みたいです。毎日でも飲みたいということは、毎日飲んでいるということではありません」


「どっかで聞いたことあるようなこと言うんじゃねえ!!」


エマが慌てて売り用の器を用意する。


「鳥の方と、赤い方ですね」


「はい。比較する自由があります」


「自由って言いたいだけだろお前」


レオルドは迷いなく銀貨を一枚置いた。


「お釣りをお願いします」


「そこはちゃんとしてるんだな」


「金銭は明確であるほど健全です」


「その意見だけは全面的に正しい!」


そのやり取りを見ていた客が、一人前へ出た。


「……じゃあ俺も、赤いの」

「俺は鳥の方」

「薬草入りって、本当に体にいいのか?」


エマの声がすぐに商売用へ切り替わる。


「はい! 香り付け程度ですが、お腹にやさしい薬草が入ってます!」


レオルドの後に並んだ客がスープを口にした。


「うまっ!! これ、マジで美味いぞ!!」


思わずといった様子で目を見開く。


「一杯、ください!」

「こっちも!」


そこからは早かった。


「来たぞ! 次! 器寄こせ!」


グレッグが叫ぶ。


「はいはい、戦争だな!」


俺も器を並べながら呼び込みに回る。


「鳥は優しい! 赤は香りが強い! 赤い方は薬草入り! 体にもいいぞ!」


鍋の中身がどんどん減り、その分だけ大銅貨が袋へ入っていく。


スープを飲んだ客の反応も悪くない。


ちゃんと、この世界でも旨味は通用するらしい。


レオルドが二杯目を飲み終え、爽やかに言った。


「では私は帰ります。明日も来る自由があります」


「来なくていい自由もあるぞ!」


「それは明日、考えます」


「ほんとに変なやつだな……」


レオルドは笑って去っていった。


その頃には、店の前の列も途切れなくなっていた。



昼過ぎ。


鍋がほとんど空になった頃、俺は壁にもたれた。


「……かなり売れたな」


エマが汗を拭きながら頷く。


「こんなにたくさんのお客さんが来るなんてびっくりしました」


俺は売上袋の口を開き、中を覗いた。


鳥の旨味スープは大銅貨三枚。


赤い薬草入りは大銅貨四枚。


試食で三杯タダにした分を引いても、袋には銀貨と大銅貨がずっしり入っている。


「……大銅貨二百十二枚」


思わず口元が緩んだ。


(初日で二万超えか。かなりいいな)


エマが目を丸くする。


「そんなに……!」


グレッグが鍋をかき混ぜながら鼻を鳴らした。


「そりゃ売れただろ。あんだけ並んでりゃな」


「ただ――」


俺は袋を軽く揺らす。


「薬草が少し高い分、見た目ほど丸儲けってわけでもねえ」


エマが頷いた。


「はい。スープは回しやすいですけど、単価はそこまで高くできませんから……」


「だから、次だ」


俺は指を一本立てる。


「次はパスタで勝負しよう」


エマが瞬きした。


「……ぱすた?」


「……もしかして、パスタ知らない?」


グレッグが即答する。


「そんな料理聞いたことねえな」


「マジかよ……小麦粉で麺を作って茹でるやつだぞ?」


「麺ってなんだ? 小麦粉はパンに使うもんだろ」


「……パンにしか使われてないのかよ」


エマが列を捌きながら、こっちを見る。


「何か思いついたんですか?」


「ああ。次は旨味のあるソースを使った主食で勝負する」


グレッグが鍋を混ぜながら、少しだけ笑った。


「パンじゃない主食か……面白ぇ」


「だろ」


俺はまだ残っている客の列を見る。


「エマ、販売頼む。グレッグ、今日は閉めたら小麦粉買いに行くぞ。研究だ」


エマが小さく笑って頷いた。


「はい。任せてください」


グレッグも口角を上げる。


「やってやるよ」


俺は残った客の注文を捌きながら、次に作る料理のことを考え始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。