第143話「通行止め」
白金の光を引きずるように、ユウヤは東門へ向かって走っていた。
背後には、まだ巨大なブレイブヴィジョンが王都の空に浮かんでいる。
そこに映し出された自分の姿を思い出すだけで、胃の奥がひっくり返りそうだった。
王都全域に、映像付きで歌って踊る自分が流されたのだ。
「くそ……! なんなんだよ、ブレイブヴィジョンって……!」
カン。
『希望反応の拡大を確認』
『ファン数が増加しました』
「俺の精神被害も確認しろ!!」
ユウヤは走りながら叫んだ。
だが、足は止めない。
東門の方角から重い地響きが伝わってくる。
一歩ごとに石畳が震え、遠くで悲鳴と魔物の咆哮が重なった。
ユウヤは前方を睨む。
「おい、そういやさ」
カン。
『はい』
「前に使ってた火炎の舞ってあっただろ」
『火炎の舞は、システム変更の際に再構成されています』
「再構成?」
『アイドルシステムにおいて、火炎属性演出は不適合と判断されました』
「なんで!? 演出なんてどうでもいいだろうが!!」
カン。
『現在は、聖光属性および希望反応拡散型の広範囲技として使用可能です』
「……名前は?」
一瞬、間があった。
カン。
『キラキラブレイブ・ラブリーシャインです』
ユウヤは走りながら足をもつれさせた。
「名前ぇぇぇぇ!!」
なんとか体勢を立て直し、地面を蹴る。
『キラキラブレイブ・ラブリーシャインは、広範囲の敵性反応を浄化光で一掃する技です』
「強いのは分かるけど、使いたくねえよ……」
東門が見えてきた。
外壁前には、ゴブリンやウルフ、オークに加え、甲殻を持つ虫型や鎌のような腕を持つ魔物、見たこともない四足の獣まで押し寄せている。
そして、その奥では森を押し倒しながら一つ目の巨人が進んでいた。
サイクロプス。
丸太どころではない太さの腕に、家二軒分はありそうな巨大な棍棒を握っている。
その一つ目は、王都の結界をじっと見据えていた。
「……でけえな、おい……ウルト○マンかよ……」
ユウヤは思わず呟いた。
東門の騎士たちは必死に戦っていた。
ブレイブLIVEの光を浴びたことで、まだ立てている。
ハンターたちも身体に白金の光をまとい、魔物の群れを押し返そうとしていた。
だが、数が多すぎる。
倒しても次が来るせいで門前を空けられず、結界術師たちも術式を維持するだけで精一杯だった。
「くそっ、右から来るぞ!」
「オークを止めろ!」
「結界術師を守れ!」
「サイクロプスが近づいている! 門前を空けろ!」
怒号が飛び交う。
雑魚の群れを処理するだけで、東門の戦力は足止めされていた。
ユウヤはそれを見て、顔をしかめる。
「ゴブリンとやった時の比じゃねえ量だな……」
あの時は森の中で、目の前のゴブリンを倒せばよかった。
だが、今は背後に王都がある。
門を破られれば、そのまま住民たちが魔物の群れに飲まれる。
しかも奥にはサイクロプスまでいる。
「まずは邪魔な連中からだな」
ユウヤは地面を蹴った。
東門前の戦場へ、白金の光が突っ込む。
「なんだ!?」
「光……?」
「あれは……マスクドブレイブ!?」
東門の騎士たちが振り返る。
ユウヤは魔物の群れの中心へ飛び込んだ。
「おい、ベルト!」
カン。
『キラキラブレイブ・ラブリーシャイン、使用可能です』
「っち……使いたくねえ!」
『使用を推奨します』
「くそがぁぁぁ!!」
ユウヤの足元に、白金の光が広がった。
今回はステージではなく、戦場の地面そのものに光の円が描かれていく。
ユウヤの身体が勝手に軽く跳ねた。
「うわ、動くな動くな!」
足がステップを踏む。
一歩ごとに光が弾け、白金の波紋が広がっていく。
魔物たちの足元にも、キラキラした光が走った。
「まさか……踊る技か!?」
カン。
『発動してください』
「言いたくねえぇぇぇぇ!!」
ユウヤは歯を食いしばった。
だが、目の前には魔物の群れがいる。
迷っている時間はなかった。
両腕を広げ、勝手に決めポーズを取らされながら叫ぶ。
「キラキラブレイブ・ラブリーシャイン!!」
白金の光が爆発した。
ユウヤを中心に眩い光の波が広がり、キラキラと輝く粒が戦場全体へ降り注ぐ。
名前のふざけ具合とは裏腹に、威力だけは洒落になっていなかった。
ゴブリンの群れがまとめて吹き飛び、ウルフは光に弾かれて地面を転がる。
オークの巨体まで宙に浮き、数体まとめて外壁前から叩き出された。
虫型の魔物の甲殻にも白金の光が走り、次々と砕け散っていく。
東門前を埋めていた魔物の群れが、一気に削り取られた。
騎士もハンターも、武器を構えたまま固まっている。
「な、なんだ今のは……」
「光が……魔物だけを……」
「一掃した……?」
ユウヤは両手を膝につき、肩で息をする。
「はぁ……はぁ……」
体力を大きく消耗したわけではない。
削れたのは精神だった。
「どこがラブリーなんだよ……」
だが、そのおかげで東門前には空間が生まれた。
ユウヤは息を整えると、騎士たちへ振り返る。
「おい、お前ら!」
「マスクドブレイブ……」
「反逆者が、なぜ……」
「いや、今俺たちを助けたのは……」
ざわめきが広がる。
ユウヤは構わず叫んだ。
「西へ行け!」
「西だと?」
ひとりの騎士が眉をひそめる。
「ここを放棄しろというのか!」
「放棄じゃねえ! ここは俺が引き受ける!」
ユウヤは東門の外を指差した。
まだ魔物は残り、サイクロプスもこちらへ迫っている。
それでも言い切った。
「アルヴェルトが戻ってきてる!」
騎士たちの表情が変わった。
「アルヴェルト殿下が……?」
「生きておられたのか?」
「本当なのか!?」
ユウヤは彼らを睨む。
「本当だ。南門でクリスが確認してる。アルヴェルトは今、西へ向かった」
ハンターの一人が西の空を見る。
そこにはワイバーンの群れと、その奥に巨大な竜の影があった。
「西が一番ヤバい。ワイバーンの群れに、竜みてえなデカブツまでいる。アルヴェルトとクリスとゼインが向かった。けど、人手が足りねえ」
騎士たちは顔を見合わせる。
「だが、東門は……」
「だから言ってんだろ」
ユウヤは拳を握った。
白金の光が、その拳に宿る。
「ここは俺に任せろ」
すぐには返事がなかった。
ひとりの若い騎士が、迷いながら口を開く。
「しかし……あなたは……」
ユウヤは少しだけ顔をしかめた。
「指名手配犯だって言いたいのか?」
騎士は答えられなかった。
すると、別のハンターが言った。
「今、俺たちを助けたのは誰だ」
その声が門前に響く。
「少なくとも、魔物を王都に入れようとしてる奴じゃねえ」
別の騎士も剣を握り直した。
「南門でも、マスクドブレイブが魔物を押し返したと聞いた」
「この光も、この人の力だろ」
東門の者たちは互いに顔を見合わせた。
迷っている時間はない。
年配の騎士が叫ぶ。
「東門守備隊、半数は西へ向かう! 結界術師の護衛は最低限残せ!」
ハンターの一人も続く。
「動ける奴は西だ! ワイバーン相手なら弓と魔術が要る!」
「負傷者は門内へ!」
「残る者は結界術師を守れ!」
東門が一斉に動き始めた。
騎士とハンターたちが次々に西へ走っていく。
ブレイブヴィジョンの光を受けた身体には、まだ動くだけの力が残っていた。
ユウヤはその背中を見送る。
「頼んだぞ」
地面が大きく揺れた。
ドン。
サイクロプスが、一歩進んだ。
魔物の群れが左右へ割れ、巨大な一つ目がユウヤを見下ろす。
先ほどラブリーシャインで削ったはずの魔物も、森の奥からまた新たに現れていた。
ゴブリンやオーク、獣型に虫型。
数はまだ多い。
西へ向かう騎士たちの足音が遠ざかり、東門前にはユウヤと最低限の守備隊、結界術師たちだけが残った。
その奥で、サイクロプスが棍棒を握り直す。
ユウヤは息を吐いた。
「……すげえ迫力だな」
サイクロプスが低く唸り、門の上に残った騎士たちが身をすくめる。
ユウヤはゆっくりと拳を鳴らした。
「けど、まあ」
白金の光をまとったまま、一歩前へ出る。
「まとめて相手してやるよ」
魔物の群れが一斉に動き出した。
ユウヤは拳を構える。
「来いよ」
口の端を上げた。
「こっから先は、通行止めだ」




