第141話「王都のアイドル」
「……変身!」
ユウヤが叫ぶと、ベルトが眩い光を放った。
足元から広がった白金の光が、その身体を包み込んでいく。
白を基調とした衣装に金色の装飾、長いコート、胸元のブローチ。
さらに、どこからともなく紙吹雪まで舞い始めた。
「紙吹雪出すな!!」
ユウヤが叫ぶと同時に、足元へ光のステージが展開された。
外壁上の騎士たちが、ぽかんと口を開ける。
「な、なんだ……?」
「この光は!?」
「神々しい……」
カン。
『名乗りを開始します』
「なんで!?」
ユウヤの身体が勝手に動いた。
右手を胸に当て、左手を空へ伸ばす。
くるりと回ると、足元の光が弾けた。
「みんなのハート、受け取ったよっ♪」
南門周辺が静まり返った。
ユウヤの顔が死ぬ。
だが、身体は止まらない。
「今日も君だけのヒーローになるからねっ!」
なぜか魔物たちまで、困惑したように動きを止めている。
「この世界に舞い降りた奇跡のアイドル!」
ユウヤの身体が勝手に決めポーズを取る。
「アイドル勇装・マスクドブレイブ!!」
光が弾け、紙吹雪が舞い、謎の歓声のような音まで鳴った。
王都南門には魔物の唸り声だけが響いている。
ユウヤは数秒固まったあと、両手を膝についた。
「おぇぇぇぇ……」
レオルドが感心したように頷く。
「やはりいいですね……」
「何が!?」
レオルドはアイドルモビリティから静かに降り、片手を胸に当てた。
「私は、イケメンAランクハンター・レオルド!」
風が吹いた。
レオルドの金髪が無駄に輝く。
「この国の女性たちには、指一本触れさせません!!」
女性騎士と女性ハンターの何人かが、一瞬だけ見惚れた。
男性騎士たちは何とも言えない顔をする。
アルヴェルトが額を押さえた。
「……君たち、よくこの状況でふざけられるね……」
ユウヤがレオルドを指差して叫ぶ。
「こいつと違って俺はふざけてねえ!!」
「殿下もやってみては? 爽快感があります」
「やらないよ!!」
レオルドは真剣な顔でユウヤを見る。
「では、ユウヤ。あの歌と踊りをお願いします」
「嫌に決まってんだろ!!」
即答だった。
カン。
『ブレイブLIVEの使用を推奨します』
「いやだ!!」
ユウヤは誰もいない空間に向かって叫ぶ。
アルヴェルトが眉をひそめる。
「まだ何かあるのかい?」
レオルドは王都の外へ視線を向けた。
南側にはまだ大量の魔物が残り、外壁の結界へ爪を立て、牙を剥いて押し寄せている。
「ユウヤ、あの力があれば何とか出来る気がします!」
「もうアレは俺の精神が持たねえ!!」
アルヴェルトも静かにユウヤを見た。
「ユウヤ」
その声から、先ほどまでの軽さが消えていた。
「この国を守る力があるのなら、皆に貸してくれ」
ユウヤは言葉に詰まった。
王都を見る。
外壁上では騎士たちが震える手で剣を握り、弓兵は矢を番えたまま空のワイバーンの群れを見上げている。
魔術師は青ざめた顔で杖を握り、ハンターたちも戦力差を理解しながら逃げずに立っていた。
門の内側では住民たちが祈り、泣いている子供を母親が抱きしめている。
南門だけではない。
王都全体が限界に近かった。
ユウヤは舌打ちする。
「……ああ、くそ」
それから、ベルトに向かって怒鳴った。
「やりゃいいんだろ、やりゃあ!!」
カン。
『ブレイブLIVEを開始します』
「お、おい、まだ心の準備が……」
ユウヤの足元に、光のステージが広がった。
王都の結界前に、戦場には不釣り合いなほど眩しい舞台が現れる。
いつの間にか手には白金に輝くマイクが握られ、足元から光が弾けた。
紙吹雪が舞い、どこからともなく明るすぎる伴奏が鳴り始める。
「また身体が勝手にぃぃぃぃ!!」
ユウヤの身体が動き出した。
ステップを踏み、腕を振り、くるりと回ってマイクを口元へ運ぶ。
「僕はみんなのヒーロー♪
闇に震える夜だって♪
キラキラ笑顔で救うよっ♪」
白金の光が、南門周辺へ広がった。
最初に変化を感じたのは、外壁上の騎士だった。
「……剣が軽い?」
震えていた手が止まる。
別の弓兵が矢を番えた。
「力が……戻ってくる」
その矢じりに、淡い光が宿る。
魔術師の一人が目を見開いた。
「魔力が、戻るどころか……溢れる……?」
門前にいたハンターも、自分の足を見下ろす。
「身体が軽い。何だこれ……!」
治療班の女性が負傷兵へ手をかざすと、いつもより強い癒やしの光が溢れ、傷の塞がる速度が明らかに上がった。
「回復魔法が、強まってる……!」
避難していた住民たちにも温かな光が届く。
泣いていた子供が母親の服を掴んだまま、顔を上げた。
「マスクドブレイブ……」
誰かが呟く。
「かっこいい……」
「なんだ、あの踊りは……」
「目が引き寄せられる……」
「暖かい……」
南門周辺にいる者たちの身体へ、白金のオーラが薄くまとわりついていく。
レオルドの身体からも凄まじい闘気が膨れ上がった。
彼は自分の手を握り、満足そうに頷く。
「やはり素晴らしい力です」
「俺の尊厳と引き換えにな!!」
ユウヤは間奏のタイミングで踊りながら叫んだ。
やがて伴奏が止まり、紙吹雪も光となって消えていく。
ユウヤは肩で息をしながら、マイクを投げ捨てた。
「二度とやらねえ……!」
カン。
『必要に応じて再使用を推奨します』
「うるせえ!!」
レオルドが剣を抜いた。
「では、行きましょう」
ユウヤも拳を握る。
南側には、まだ大量の魔物がいる。
だが、災害級はいない。
今のユウヤとレオルドなら、突破できる。
「まずはここを片づけるぞ!」
ユウヤが地面を蹴った。
白金の光が弾ける。
一瞬でウルフの群れの前に飛び込み、拳を振り抜いた。
「キラキラブレイブパンチ!!」
光をまとった拳が、魔物の群れをまとめて吹き飛ばす。
ウルフが宙を舞い、ゴブリンがまとめて転がり、オーク数体が地面へ叩きつけられた。
南門の騎士たちが声を上げる。
「続け!」
「今なら押せるぞ!」
弓兵が光を帯びた矢を放つ。
矢は結界の外で軌道を伸ばし、複数の魔物を貫いた。
魔術師の火球もいつもより大きく膨れ上がり、ゴブリンの群れを吹き飛ばす。
ハンターたちは身体能力を増した脚で駆け、門前に迫った魔物を次々に斬り伏せていった。
レオルドも風をまとい、剣を一閃する。
見えない刃が広がり、オークの群れがまとめて薙ぎ払われた。
「私も技名が欲しいですね……」
レオルドは真剣な顔で剣を構える。
「レオルドスラッシュ!!」
風の斬撃が巨大な灰熊を真っ二つにした。
ユウヤが振り返って叫ぶ。
「そのまんまじゃねえか!!」
「分かりやすさは大切です!」
「そういう問題か!?」
言い合いながらも、二人は止まらない。
ユウヤが群れの中心へ飛び込み、拳と蹴りで魔物を吹き飛ばす。
レオルドは風の刃で広範囲を薙ぎ払い、騎士団とハンターがその隙を埋めるように前線を押し上げていった。
南側の魔物は、明らかに押し返され始めていた。
「南門前、開きます!」
騎士の叫びが響く。
ユウヤは最後に、巨大な蜂型の魔物へ飛びかかった。
「おらぁ!!」
光をまとった拳が、アーマーホーネットの腹部を撃ち抜く。
蜂型の魔物はぐるぐる回転しながら吹き飛び、遠くの魔物の群れへ突っ込んで崩れた。
レオルドが残念そうに見送る。
「蜂蜜が……」
「あいつが持ってる訳じゃねえだろ!!」
南門前に、わずかな空間が生まれた。
そこだけは、魔物の圧力が明らかに弱まっている。
外壁の上では騎士たちが息を呑み、住民たちもその光景を見つめていた。
つい先ほどまで反逆者として手配されていた男が、派手な格好で歌って踊りながら、今は王都を守っている。
「あの人……指名手配されてたよね?」
「でも、俺たちを助けてくれた……」
「マスクドブレイブ……」
「救世主だ……」
「いや、本人はアイドルと言っていたな……」
「アイドル……ってなんだ?」
「英雄だろ」
南門周辺に、少しずつ声が広がっていく。
カン。
ユウヤの耳に音が鳴った。
『戦闘貢献を確認』
「ん?」
『ブレイブLIVEによる希望反応を確認』
「おい、まさか」
『ファン数が増加しました』
ユウヤの目の前に表示が浮かぶ。
『現在ファン数:12430人』
ユウヤは目を見開いた。
「増えすぎだろ!?」
『ファン数が10000人を突破しました』
『追加装備を解放します』
「お?」
『ブレイブビジョン』
『巨大な光の映像装置を展開し、ブレイブLIVEの歌・踊り・演出を広範囲へ中継します』
ユウヤは固まった。
そして、遠くに広がる王都を見る。
南門周辺だけでは足りない。
北にはフェンリル、西には竜の影、東にはサイクロプスがいる。
王都全体にLIVEの効果を届けるなら、この装備は必要だった。
必要なのだが。
ユウヤは頭を抱えた。
「ありがてえけど……」
それから、全力で叫ぶ。
「もう一回やらねえと意味ねえじゃねえか!!」




