↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人助けでポイントを稼いだら、最強ヒーローになっていた ~ネタ装備が進化する異世界譚~  作者: 白峰レイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/184

第12話「入院と別れ」

ユーリに肩を貸されながら、俺はなんとか歩いていた。


路地を曲がるたびに肋がきしみ、息を吸うだけで胸が痛む。

足も地面に着くたび、小さく痺れた。


「……っ、く……」


声にすると負けた気がして、歯を食いしばる。


ユーリが横目で見る。


「無理に強がるな。歩けないなら止まれ」


「強がってねぇ……ただ、しゃべると……痛ぇ……」


「なら、黙れ」


「……嫌だね……」


ユーリが小さくため息をついた。


その時、ふと俺を見る。


「ところで」


「……ん?」


「その格好は、一体なんなんだ?」


言われて、俺はようやく自分の状態を思い出した。


キラキラマスクに黄ばんだタンクトップ、赤いブリーフ。

手には臭い軍手、足には穴の空いた靴下。


おまけに身体は血と土で汚れている。


「……っ、やべ……」


声が掠れた。


「あっぶね……! まだこの格好だったわ……!」


俺は震える手で腰のベルトを叩く。


「解除……解除だ……!」


『変身解除します』


光が引き、元の服が戻ってきた。


布が肌に触れただけで、妙な安心感が込み上げてくる。


「……はぁ……文明……」


ユーリが淡々と言う。


「何度見ても、不思議な現象だな」


「不思議じゃねぇ……悪夢だ……」


「どちらにせよ、急ぐ」


俺は呻きながら頷き、そのまま数歩黙って歩いた。


すると、胸の奥に引っかかっていた言葉が勝手に出た。


「……バルツだっけか。あいつ、黒いモヤ出して、魔物みてぇになりやがった……ありゃ何だ」


ユーリは前を見たまま、即答した。


「魔人だ」


「……なんだそりゃ」


「瘴気に呑まれた人間だ。……だが、こんな街に現れるようなものじゃない」


俺は呻きながら歩く。


「……じゃあ俺、とんでもないところに喧嘩売ったってことか」


ユーリの声が冷える。


「これ以上首を突っ込むな。死ぬぞ」


「……俺だって突っ込みたくねえよ」


「とにかく、よく考えて行動しろ」


「……はいはい……」



ハンターギルドの灯りが見えた瞬間、膝が少しだけ軽くなった気がした。


扉を押し開けると、


「ユウヤさん!!!」


デンが真っ青な顔で駆け寄ってくる。


その横から、


「ユウヤ兄ちゃん!!」


ロウが飛びついてきた。


「ぐっ……!」


腹に直撃し、肋が悲鳴を上げる。


「いでぇ……! 離れろ……! そこ折れてる……!」


ロウが慌てて離れた。


「ご、ごめん!!」


「ごめんで骨は戻らねぇ……」


デンが俺の顔を見て、歯を食いしばる。


「……本当に……生きてて良かった」


「お前がユーリを呼んでくれたんだってな……おかげで助かった」


俺はデンの頭を撫でた。


だが、撫でた瞬間に気恥ずかしくなって手を引っ込める。


「まぁ……よくやった」


デンはきょとんとしてから頷いた。


ユーリが一歩前に出る。


「ユウヤと、ガイという少年。早く治療院へ行くぞ」


デンが言い淀む。


「でも……金が……」


ユーリは即答した。


「私が出す」


「……え」


「子供と、子供を守った者を無碍にするわけにはいかない」


俺は息を吐きながら、口だけは動かした。


「さすが勇者様……太っ腹……」


ユーリが冷たい目で俺を見る。


「口を動かす余裕があるなら、足を動かせ」


「……はい……」



治療院は、ギルドより静かだった。


薬草と消毒の匂いが漂い、白い布の向こうから水の音が聞こえてくる。


奥から出てきた回復魔術師は、


……でかかった。


胸が。


布越しでも分かる圧に、視線が勝手に吸い寄せられる。


(異世界、医療レベルも胸も高ぇ……)


「ふふ。大丈夫ですよ。ちゃんと治しますから、安心してくださいね」


柔らかい声とともに、白い布衣を整えながら回復魔術師――シエラが近づいてくる。


雰囲気は柔らかいのに、怪我を見る目だけは妙に鋭かった。


隣から、ユーリの冷えた視線が飛んでくる。


「……何を見ている」


「見てねぇ……治療を……見てる……」


「嘘だな」


「うるせぇ!」


シエラは小さく笑ってから、まずガイを寝台に寝かせた。


手をかざすと淡い光が流れ、腫れが引き、裂けた皮膚が塞がっていく。


ガイの妹、ティナが息を飲む。


「……にい、ちゃん……」


「大丈夫です。痛みも、すぐに引きますよ。怖かったですね」


シエラの言葉に、ティナの肩が少し落ちた。


次に俺の番になった。


シエラは俺を一瞥すると、表情をほんの少しだけ引き締める。


「……よく生きていましたね。ここまで来られたのが奇跡です」


「褒められた?」


「はい。頑張りましたね。ですけど――次は、こうならないようにしてくださいね」


胸元に手を当てられて、俺の意識が別方向に飛びそうになる。


(やめろ、心臓が別の意味で止まる)


ユーリが低く言った。


「……集中しろ」


シエラは苦笑しながら、淡々と状態を確認していく。


「肋骨にひびが入っています。腕は筋を傷めています。出血も多いです。

 本来なら、一ヶ月は安静にしていただきたい状態ですね」


「一ヶ月!?」


「はい。普通なら、です」


シエラが俺の腰にあるベルトをちらりと見る。


「そのベルト……微量の魔力が、ずっと流れているみたいです」


「は?」


「その魔力が治癒を促進し続けています。だから生きてここまで来られたのでしょうね」


(お前、そんな機能あったのかよ……)


シエラは続ける。


声は優しいままだが、言っていることは重い。


「完治は早まると思います。ですが――無理をしたら、治るものも治りません。

 あなたは、いざという時に、後先考えない顔をしています。そういう方ほど危ないんです」


俺は言い返したかったが、言葉が出ない。


ユーリが俺を見て釘を刺す。


「聞いたな。もう危険に首を突っ込むな」


「……善処……」


シエラが、ふわっと笑った。


「善処ではだめです。約束してください。守らないと、次は怒りますからね」


「……はい……」


「はい、よくできました。では、治療を続けますね」



三日後。


「……すごい回復能力です。もう退院できそうですね」


シエラがにこやかに言う。


俺は布団を掴んだ。


「いや、まだ痛い」


「どこが?」


「お腹が痛い!!」


「肋骨でしょう」


「そう! 肋骨も!!」


ユーリが隣で無言のまま、冷めた目をしている。


(やめろ、その目は効く)


シエラがため息を吐いた。


「……嘘ですね」


「嘘じゃない!」


「顔が元気ですよ?」


俺が食い下がろうとすると、シエラは諦めたように首を振り、他の患者の元へ行った。


ユーリが呆れたようにこっちを見る。


「で、なんで退院しないんだ?」


「入院中、飯出るし……格安宿より環境いいし……」


「本音は?」


俺は一瞬だけ迷って、正直に言った。


「……シエラさんがいるし」


ユーリが即座に言った。


「最低だな」


「褒め言葉?」


「違う」


俺はそこから、さらに一日粘った。


そして翌日。


五日目も居座ろうとしたが、シエラがついにキレた。


「他にも怪我人はいるんです!! 退院してください!!」


「っ、はい!!」


追い出された。


扉の外で、ユーリが淡々と言う。


「当然の結果だ」


「冷てぇ……」


ユーリはフードを直しながら告げた。


「一応伝えておくが、私はこの街を出る」


「え?」


「目的がある。あの魔人についても、少し調べる必要がある」


淡々とした口調だったが、その目には迷いがなかった。


俺は少しだけ口を開きかけて、やめる。


今の俺じゃ、ついて行っても足手まといだ。


「いろいろと、ありがとな。マジで」


ユーリは一瞬だけ間を置いて言った。


「礼なら、生きて返せ」


「はいはい。生きて返す」


ユーリは踵を返し、そのまま歩いていった。



宿も金も仕事も必要なので、俺は結局ハンターギルドに戻った。


受付カウンターにはミレイがいる。


俺を見るなり、少しだけ困った顔をした。


「……マスクド・ブレイブさん」


「ユウヤだ! まず名前を覚えろ!!」


「そうは言われましても、登録名が……」


俺は深呼吸する。


(ここでキレたら負けだ。毎回負ける)


ミレイが咳払いした。


「勇者ユーリ様から伝言です。『気にかけてやってくれ』と」


「……ったく、あいつは」


ミレイは業務に戻りながら言う。


「改めて説明します。ハンターにはランクがあります。

 F、E、D、C、B、A、S。上がるほど依頼も報酬も危険度も上がります。

 マスクド・ブレイブさんはFランクになります」


「ユウヤだ! ……ここで一番上のやつは?」


「Dランクの方が一人います。小さな街ですから」


俺は周囲を見回した。


「今さらだけど、この街って名前あるんだよな?」


「グレンの街です。ここはグレン支部」


「今知った……」


ミレイが続ける。


「最近、ゴブリンが増えています。

 増えすぎると上位個体が出現する可能性が上がります」


「やめろ、嫌な話だ」


「間引きのため、魔石の買取を上げています。

 魔石一つにつき、大銅貨五枚です」


「……五枚? それ、どのくらい?」


ミレイは慣れた調子で答える。


「銅貨十枚で大銅貨一枚。大銅貨十枚で銀貨一枚。銀貨十枚で金貨一枚です」


「金貨より上もあんのか?」


「白金貨がありますが、今のマスクド・ブレイブさんには、まだ縁がありませんね」


「ユウヤだ! あと地味に煽んじゃねえ!」


ミレイはにこりと微笑んだ。


「ゴブリンなら、魔石は胸の中心にあります。取り出してから納品してください」


「解体込みかよ……」


「それでは、いってらっしゃいませ。マスクド・ブレイブさん」


「ユウヤだ!!」


俺の叫びが、ギルドの天井に虚しく響いた。


でも、稼がなきゃ死ぬ。


俺はベルトを叩く。


「……頼むから、次は普通の仕事寄越せ」


ベルトは何も答えなかった。


(答えろよ)


俺はため息を吐いて、扉を押した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。