第118話「ブレイブLIVE」
白金色の炎が、夜の帝都を眩しく照らしていた。
竜の頭上へ跳んだユウヤは、そのまま迷いなく拳を振り下ろす。
「……キラキラブレイブパンチ」
ものすごく嫌そうに、吐き捨てるように言った。
次の瞬間、白金色の炎を纏った拳が竜の首元へ叩き込まれる。
轟音。
今まで誰の攻撃でもまともに傷付かなかった鱗が、大きく砕けた。赤黒い血が夜空へ飛び散り、巨竜が初めてはっきりと苦鳴を漏らす。
「俺達も行くぞ!!」
ヴォルクハルトが叫ぶ。
その声に、広場の空気が一気に変わった。
レオルドが地を蹴る。緑の閃光が竜の首筋を走り、続けてヴォルクハルトの大剣が振り下ろされる。グレゴールの重い一撃が前脚を打ち、ベルグが笑いながら顎へ拳を叩き込んだ。さらにイルゼの魔法が翼の動きを阻害し、騎士たちも一斉に攻め込む。
今までは、まるで壁を殴っているような感触だった。
だが、今は違う。
確かに、押している。
「よし……!」
ユウヤは追撃へ移る。
「ブレ……キラキラブレイブキック!!」
半ばやけくそで放った蹴りが、竜の翼の付け根へ叩き込まれる。白金色の炎が爆ぜ、巨竜の巨体がわずかに傾いた。
今なら行ける。
誰もが、そう思った。
だが、その瞬間だった。
竜の赤い瞳がぎらりと光る。
次の瞬間、巨竜は大きく翼を広げた。
轟ッ――!!
暴風が吹き荒れる。
広場の石畳がめくれ上がり、騎士たちがまとめて吹き飛ばされた。ユウヤも反射的に腕で顔を庇うが、それでも視界を奪われる。
「っ……!」
竜はその隙を突くように、一気に上空へ舞い上がった。
「なっ!?」
ヴォルクハルトが顔を上げる。
巨竜は高く、高く飛ぶ。建物の屋根を越え、塔の上を越え、地上の剣も拳も届かない位置まで、一瞬で離脱していた。
レオルドが舌打ちする。
「逃げる気ですか……!」
「逃げるわけないだろ!! こっちの攻撃が届かない上空から攻撃する気だ!あの化け物!」
ライナーが叫ぶ。
上空で竜は大きく旋回し、その赤い瞳で広場を見下ろしていた。明らかに、地上戦をやめたのだ。こちらに有効打が出ると判断して、届かない位置から一方的に焼き払うつもりなのだろう。
そして、その狙いを示すように。
竜の喉奥で、再び赤黒い光が膨れ上がっていく。
「おい、待て!!」
ユウヤが上を睨み、思わず叫ぶ。
「勝てる流れだったじゃねえか!!」
あまりにも正直な本音だった。
だが、竜は当然待たない。
空の高みから、ゆっくりとブレスの照準を合わせ始める。その光景を見た騎士たちの顔から、再び血の気が引いた。
地上から届かない。
もう一度あれを撃たれれば、今度こそ広場どころでは済まない。
その時だった。
腰のベルトが、乾いた音を鳴らす。
カン。
『ブレイブLIVEの使用を推奨します』
「……あ?」
ユウヤの表情が固まる。
『ブレイブLIVEの使用を推奨します』
「すげぇ嫌な予感しかしねえんだが……」
表示が浮かぶ。
『ブレイブLIVE』
『歌と踊りにより味方全体へ聖属性を付与』
『闘気及び魔力を上昇させます』
沈黙。
ユウヤは表示を見つめた。
もう一度見た。
さらに見た。
「ぜってぇやらねぇ!!」
即答だった。
『推奨します』
「しねぇよ!!」
『推奨します』
「嫌だ!!」
『勝率を計算中』
表示が切り替わる。
『現在の勝率』
『12.4%』
「低っ!?」
思わず叫ぶ。
『ブレイブLIVE使用時』
『87.3%』
「……」
ユウヤが黙った。
『味方全体の死亡リスクが大幅に低下します』
その一文だけが、やけに重く見えた。
視線の先では、レオルドが肩で息をしている。
ヴォルクハルトの鎧は傷だらけで、グレゴールの大盾も限界だ。
イルゼは杖を支えにして立っており、ベルグは笑ってはいるが、全身が血で染まっていた。
『ご一緒にブレイブLIVEはいかがですか?』
「ポテトはいかがですか、みたいに言うんじゃねえ!!」
ユウヤがブチ切れる。
「大体なんだよ!! LIVEって!!」
『ブレイブLIVEを発動すれば、味方全体の闘気・魔力・聖属性適性を大幅に上昇させます』
『勝率の向上が見込めます』
「見込めるじゃねえ!! 確定で勝たせろや!!」
『確率は87.3%です』
「微妙に現実的なんだよ!!」
上空で竜が低く唸る。
喉奥の光は、もうかなり大きくなっていた。
時間がない。
『味方全体の死亡リスクが大幅に低下します』
また同じ一文が表示される。
「……ちっ」
ユウヤは舌打ちした。
「……分かったよ」
顔が引きつっている。いや、引きつるとかそういう次元ではなく、魂が嫌がっている顔だった。
『ブレイブLIVEを補助するため、ブレイブステージを展開します』
「は?」
次の瞬間だった。
ゴゴゴゴゴゴ……。
広場の地面が揺れ始める。
「な、何だ!?」
「地面が……!」
騎士たちがざわめく。
石畳が押し上げられ、広場の中央がせり上がっていく。
やがて現れたのは――
巨大なステージだった。
無駄に豪華な照明。
意味もなく輝く足元の装飾。
舞い上がる紙吹雪。
空中へ浮かぶ、謎の光球。
そして、その中央には。
一本のマイクが、やたら神々しく立っていた。
「なんだこれぇぇぇぇ!!」
ユウヤの悲鳴が夜空に響く。
周囲の騎士たちも完全に固まっていた。
「は?」
「何だ……あれ……」
「キラキラしてる……」
ベルグだけは腹を抱えて笑っている。
「がははははは!! 最高に目立ってんじゃねえか!!」
レオルドは真面目な顔だった。
「輝いてますね」
「うるせぇ!!」
ヴォルクハルトでさえ一瞬言葉を失い、イルゼは額を押さえ、ライナーは何とも言えない顔でステージを見ていた。
だが、そんな周囲の反応などまるで気にせず、ベルトは容赦なく告げる。
『ブレイブLIVEを開始します』
ユウヤの顔から、さっと血の気が引いた。
ステージ中央のマイクが発光する。
「待て」
マイクが飛んでくる。
「待て」
ユウヤの手に収まる。
「待て」
照明が点灯する。
「待てぇぇぇぇぇぇ!!!」




