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人助けでポイントを稼いだら、最強ヒーローになっていた ~ネタ装備が進化する異世界譚~  作者: 白峰レイ


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111/134

第111話「束の間」


演習の後始末は、予想以上に長引いていた。


暴走した騎士たちは全員拘束。

薬の使用者は隔離。

事情聴取、被害報告、残っていた薬の回収。


訓練どころではない。


兵舎は、どこも重苦しい空気に包まれていた。

当然、見習いたちの訓練も全面中止になった。


そんな中。


ユウヤとレオルドは、騎士団本部を出てアルヴェルトのいる酒場へ向かっていた。


「今日くらい一日中寝ようかと思ってたのによ……」


ユウヤがぼやく。


その横で、レオルドはいつも通り真面目な顔をしていた。


「仕方ありません……ユウヤが色々とやらかしましたから」


「……てめえもだろうが」


「ユウヤの方が目立ってたでしょうに……」


「お前が原因でバレたんじゃねえか!」


レオルドは少しだけ考えた。


「……恐らく、私は悪くありません」


「……ダメだこりゃ」


やがて二人は、帝都の外れにある酒場へ辿り着いた。


扉を開く。


昼を過ぎた店内はそこそこ賑わっていたが、奥のカウンターではアルヴェルトが腕を組んで立っていた。


二人の姿を見るなり、アルヴェルトは大きく息を吐く。


「やっと来たね」


「忙しかったんだよ」


「顔を見れば分かるよ。相当面倒なことになってそうだ」


アルヴェルトは二人を奥の席へ座らせた。


「それで?」


真顔になって続ける。


「騎士団はどうだったんだい?」


レオルドが真顔で答えた。


「正体がバレました」


アルヴェルトが固まる。


「……えっ?」


「騎士団長達に知られています」


「えっ??」


「私達がレグナで追われる身になっていることも」


「えっ???」


アルヴェルトの動きが止まる。


数秒。


完全停止。


そして勢いよく立ち上がった。


「待って待って待って!」


「何があったんだい!? 君たち、数日前に見習い騎士になったばかりだよね!?」


ユウヤも頷く。


「そうなんだよな……」


「そうなんだよな……じゃないよ!」


レオルドはさらに続けた。


「あとユウヤは第五騎士団のボスになりました」


沈黙。


「……ん?」


アルヴェルトが聞き返す。


「第五騎士団のボスです」


さらに沈黙。


「ごめん」


アルヴェルトが額を押さえた。


「ちょっと何を言ってるのか分からないんだけど」


「安心しろ」


ユウヤが真顔で言う。


「俺も分からん」


アルヴェルトはしばらく天井を見つめ、それから深くため息を吐いた。


「……分かった。とりあえず順番に話してくれるかい」


そこから、ユウヤはこれまでの出来事をまとめて話した。


大規模演習。

ヴァンデル商会。

帝都外れの集落。

地下研究施設。

蛇架第十席ガレス。

回収した研究資料。


そして――魔人化薬。


話が進むにつれて、アルヴェルトの顔から呆れが消えていく。


「魔王の血を加工して薬にしていた、だって……?」


「ああ」


ユウヤが頷く。


「しかも、投与開始から三十日前後で完全魔人化だとよ」


レオルドも静かに続けた。


「既にかなりの人数が服用している以上、残された時間はほとんどありません」


アルヴェルトは無言で額を押さえた。


「蛇架の連中の狙いは、レグナだけじゃなかったってことだね……」


「だろうな」


ユウヤは椅子へもたれかかる。


「騎士団の中も今はぐちゃぐちゃだ。しばらくは演習も訓練も中止らしい」


アルヴェルトは二人を見た。


「で、君たちは?」


「しばらく自由だ」


ユウヤが言う。


「正確には、自由に見えて面倒事待ちだな」


「それを自由とは言わないよ」


アルヴェルトが呆れたように返した、その時だった。


入口の扉が開いた。


「やっほー」


明るい声と共に入ってきたのは、カレンだった。


軽い足取りで店内に入ってきたかと思うと、すぐにレオルドを見つけて目を輝かせる。


「あ、レオルドくんいるじゃん。ラッキー」


その瞬間、レオルドの背筋が妙に伸びる。


「カレンさん」


カレンはそのまま席の近くまで来ると、レオルドを見下ろしてにっと笑った。


「今ヒマ? ちょい付き合ってよ」


ユウヤがぴくりと眉を動かす。


レオルドは一瞬固まったあと、真顔で聞き返した。


「前回に続き、デートのお誘いという解釈でよろしいでしょうか」


「何その堅い言い方。ウケるんだけど」


カレンは肩を揺らして笑う。


「ただの買い物だし。でも一人で行くのダルいし、レオルドくんいたからちょうどいいなーって」


レオルドの表情が、ほんの少しだけ分かりやすく明るくなった。


本人は隠しているつもりだった。


全く隠せていなかった。


「なるほど。では、ご一緒します」


「うん、素直で助かる」


「お前、嬉しそうすぎんだろ……」


ユウヤが呆れたように言う。


カレンはレオルドの腕を軽く引く。


「じゃ、行こっか」


「はい」


そのまま二人は酒場を出ていった。


しばらく沈黙。


ユウヤは扉の方を見たまま、小さく呟く。


「……あいつ、今ので三日は機嫌いいだろ」


アルヴェルトが苦笑する。


「単純だからね」


その時だった。


カウンターの奥から、低くよく通る女の声が飛んだ。


「アルー! そろそろ開店準備するわよ」


ユウヤが振り向く。


そこに立っていたのは、この酒場の店主ミレナだった。


腕まくりしたまま、いかにも忙しそうな顔でこちらを見ている。


「ついでにあなたも手伝って」


「は?」


ユウヤが間抜けな声を出す。


ミレナは容赦なく続けた。


「いいじゃない。暇そうだし」


「いや、俺は報告に来ただけで――」


「ご飯も付けるわよ?」


ユウヤは騎士団で出されるまずい食事に我慢の限界だった。


「……食う」


「じゃあ働きなさい」


理不尽だった。


ユウヤは露骨に顔をしかめる。


「何で俺だけこんな目に……」


「カレンが金髪のバイトの子を連れて行っちゃったし」


「レオルド、バイト扱いなのかよ……」


アルヴェルトが横で肩をすくめる。


「まあ、頑張って」


「他人事みてえに言いやがって……!」


だが、結局断れなかった。


数分後。


ユウヤはエプロンを着せられ、配膳用の盆を持たされていた。


「はい、二番テーブルに酒三つ!」

「三番、皿下げて!」

「そっちの料理、早く運んで!」


「何で俺が酒場の手伝いなんか……!」


「口より手を動かしなさい!」


「くそっ……!」


ユウヤは不機嫌そのものの顔で酒を運ぶ。


客の一人が顔を上げる。


「おっ、新人か?」


「違う」


「愛想わりぃな!」


「元々だ」


別の席では皿を下げろと呼ばれ、さらに奥では料理まで運ばされる。


完全に雑用だった。


ミレナはそんなユウヤを見て、少しだけ口元を上げる。


「アンタ、意外と動けるじゃない」


「一応、店持ってるからな……」


ブレイブ亭のことが頭をよぎる。


「あいつら無事に生きてるよな……」


そんなことを考えながら、ユウヤは働いた。


ほんの少し前まで、帝国の裏で魔人化薬の研究施設が動いていた。

騎士団の中では、まだ混乱が続いている。


それでも今この瞬間だけは、妙に平和だった。


だが――


その夜。


帝都郊外の隔離施設では、別の異変が起きていた。


石造りの廊下。

鉄格子。

拘束具。

薬を服用し、暴走した騎士たちが隔離されている病棟。


見張りの騎士が、重い扉の前で小さくあくびを噛み殺した。


その時。


奥の独房から、妙な音が聞こえた。


ガリ。


ガリガリ。


何かを引っ掻くような音。


見張りの騎士が顔をしかめる。


「おい……何だ?」


返事はない。


ただ、暗闇の中で何かが動いた。


次の瞬間。


鉄格子の隙間から伸びた腕が、見張りの首を掴んだ。


「がっ!?」


紫色の血管が浮き出た腕。

人間のものとは思えない力。


騎士は為す術もなく鉄格子へ叩きつけられた。


警鐘が鳴るより早く、奥の独房でも次々に音が響く。


鎖が軋む。

鉄が歪む。

呻き声が重なる。


そして――


最初の鉄格子が、内側から引き裂かれた。


夜の隔離施設に、悲鳴が響いた。


暗闇の奥で、赤い目が開いた。

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