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人助けでポイントを稼いだら、最強ヒーローになっていた ~ネタ装備が進化する異世界譚~  作者: 白峰レイ


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第107話「潜入調査」

翌日。


帝都中央区。


巨大な石造りの建物を見上げながら、ユウヤは小さく息を吐いた。


「……思ったよりデカいな」


ヴァンデル商会。


急速に勢力を伸ばしている帝国有数の商会だ。


昨日の演習の件もあって、本来なら騎士団が正式に踏み込んでもおかしくない。

だが、今の騎士団にはそんな余裕がなかった。


演習で暴走した騎士たちへの事情聴取。

負傷者への対応。

被害報告。

薬の使用者の洗い出し。


特に第二、第三、第四は完全に混乱状態だった。


暴走した騎士たちの中には、正気へ戻った後に泣き崩れる者までいる。

記憶が曖昧な者も多く、事情聴取だけでも地獄らしい。


団長たちも後処理に追われ、ほとんど身動きが取れなかった。


そして、何より厄介なのは、国の上とこの商会が繋がっていることだった。


その結果――比較的自由に動ける見習いであるユウヤへ、調査役が回ってきた。


「……まあ、こうなるとは思ってたわ」


ぼやきながら、ユウヤは商会の入口へ向かう。


『第五騎士団所属見習い騎士ヒムロ』


しかもユウヤは、闘気も魔力もほとんど無い。

見た目だけなら、薬に縋りたがる半端者にしか見えない。


レオルドは、見る奴が見れば強者だと分かってしまう。

というより、余計なことを言ってボロを出しそうだから置いてきた。


ユウヤは深呼吸をして、店の扉を開いた。



店内は広かった。


魔導具。

薬品。

香料。

さらには上流階級向けらしい装飾品まで並んでいる。


普通の商会より、明らかに品揃えが良い。


以前、アルヴェルトからは、表向きは香辛料と薬草を扱う中堅商会だと聞いていたが――とてもそうは見えなかった。


「いらっしゃいませ」


奥から、一人の男が歩いてくる。


細身。

整えられた黒髪。

柔らかな笑み。


一見すると、ただの感じの良い商人だった。


だが、ユウヤはその瞬間、ほんの少しだけ目を細めた。


――何か嫌な感じがする。


言葉にするのは難しい。

だが、どこかざらつくような違和感があった。


男は笑みを崩さないまま、ユウヤを見た。


「ふむ……騎士見習いの方ですか?」


「そうだが……何で分かるんだ?」


「最近は騎士見習いの方がよく来られるんですよ。初めて見る顔ですしね」


ユウヤは面倒くさそうに返す。


「そうか……ヒムロだ。少し前に第五騎士団に入団した」


男は返事をする前に、一度だけユウヤをじっと見た。


値踏みするような視線だった。


男は柔らかく笑う。


「第五騎士団、ですか。あそこは大変だと聞きます」


「大変なんてもんじゃねえよ。訓練もキツいし、殴られたり蹴られたりなんてのはしょっちゅうだ」


ユウヤは露骨に嫌そうな顔をした。


「そんで最近、第二とか第三のやつらが妙に強くなってるって聞いてよ。何か薬があるって噂も聞いた」


男は少しだけ目を細める。


「……なるほど。そういうことでしたか」


「あの理不尽な先輩騎士どもに、少しでも仕返しできたらと思ってな」


その言葉に、男は内心で小さく笑った。


焦燥感。

劣等感。

力への渇望。


実に分かりやすい。


男は周囲を軽く確認してから、声を潜めた。


「ここでは何ですから。少し奥へどうぞ」


ユウヤはわざと少し迷うふりをしてから頷く。


「……ああ」


案内されたのは、店の奥にある小部屋だった。


表の華やかさとは違い、ここは質素だ。

だが、扉が閉まった瞬間、空気がわずかに変わった。


男は改めて笑みを浮かべる。


「確かに、あります」


ユウヤは露骨に食いついた顔をした。


「マジか!?」


「ええ。闘気も魔力も上がる。疲労回復効果まである、特別製です」


「へぇ……」


「現在、騎士団関係者限定で取り扱っています」


男は営業用の笑みを崩さない。


「特に、向上心の高い騎士の方々には好評ですね」


(向上心っていうか依存だろ……)


ユウヤは内心だけで呟いた。


だが、表情には出さない。


「それって本当に効果とかあんのか? それに副作用とかねえのか?」


男の目が少しだけ細まる。


「ほう?」


ユウヤは困ったように頭を掻いた。


「だから、ちゃんと後ろ盾あるなら安心できるなーって。変なもん掴まされて首になったらたまったもんじゃねえ」


数秒、沈黙。


やがて男は、少しだけ笑みを深めた。


「なるほど。慎重なのですね」


「せっかく死に物狂いで頑張って騎士になれたんだ。当然だろ?」


「ははは……確かにそうですね」


男はわずかに身を乗り出す。


「では、ここだけの話ですが……私たちを支援してくださっている方々の中には、騎士団強化に前向きな貴族様もいらっしゃいます」


ユウヤも少しだけ身を乗り出した。


「へぇ」


「宰相派に近い方々、と言えば分かりやすいでしょうか」


ユウヤの目がわずかに細くなる。


やはり繋がっている。


「……本当にそんな大物が?」


「疑うのも無理はありません」


男はそう言うと、懐から小さな金属製の証票を取り出した。


黒い金属板。

そこには帝国の紋章と、宰相府の認可印らしき刻印が刻まれている。


「騎士団納入業者の認可証です」


男は柔らかく笑う。


「我々は、国の方針に従っているだけですよ」


ユウヤは驚いたように目を丸くする。


「……マジかよ」


だが内心では、はっきり舌打ちしていた。


――思ったより根が深いな。


それでも、表情は崩さない。

むしろ安心したような顔を作る。


「なら安心か……」


「ええ。ですので、安心してお使い頂けます」


男は机の引き出しを開け、小瓶を一本取り出した。


薄紫色の液体。


見ているだけで、皮膚の下をざらつくような嫌悪感が走る。


ユウヤはそれを見つめながら、あえて少しだけ逡巡した。


「……高いのか?」


「見習いの方でも手が届く価格です。まずは一本、お試し頂ければ十分かと」


男は柔らかい声で続けた。


「効果を実感して頂ければ、次からは迷わず手が伸びますよ」


(言い方が完全に終わってんだろ……)


ユウヤは内心で舌打ちした。


だが、表では素直に釣られたふりをする。


「……じゃあ一本だけ」


「ありがとうございます」


男が小瓶を差し出す。


ユウヤはそれを受け取り、わざと軽く振って見せた。


「第五でも、興味あるやつには話しとくわ」


その瞬間だった。


男の笑みが、ほんの少しだけ深くなる。


「ええ。ぜひ、お願いします」


その目を見た瞬間。


ユウヤの背中を、ぞわりと嫌な感覚が走った。


――こいつ。


やっぱり、ただの商人じゃねえ。


しかも、あの認可証。


宰相派。

騎士団限定販売。

国公認同然の流通。


騎士団は動かせない。

下手に報告すれば、先に証拠を消される可能性すらある。


「……」


ユウヤは表情を崩さないまま、小瓶を懐へしまった。


(動くなら早い方がいいな……)


男はそんなユウヤの内心など知らず、穏やかな笑みを浮かべていた。


「またいつでもお越しください、ヒムロ様」


ユウヤも適当に手を振る。


「ああ」


商会を出たユウヤは、そのまま帰るふりをしながら、建物の裏路地へ回り込んだ。

そして、裏口をじっと見た。

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