第15話 許さないという答え
地下から戻った直人たちを待っていたのは、思いがけない知らせだった。
治療を受けた女性が、再び男に詰め寄っていたのだ。
「あなた、何を考えているの?」
女性の声は震えていた。
「謝れば済むと思っているの?」
男は何も言わなかった。
彼は、千尋を探すために動き出そうとしていた。
しかし、その前に、向き合わなければならない人がいた。
「……すみませんでした」
「だから、謝らないで!」
女性は涙を流していた。
「弟は、まだ歩けないの。あの子は何も悪くなかったのに、あなたに殴られた」
男は深く頭を下げた。
「分かっています」
「分かってない!」
女性は叫んだ。
「あなたは、自分の娘を探すことができる。でも、私の弟は、あの日のことを忘れられない。夜になると、まだ震えているのよ!」
男は顔を上げられなかった。
直人は、二人の間に割って入ることができなかった。
何を言っても、誰かを傷つける気がした。
やがて、女性は涙を拭いた。
「私は、あなたを許さない」
男の肩が揺れた。
「……はい」
「いつか許せるかもしれない。でも、今は無理。あなたがどれだけ反省しても、私が受けた痛みは消えない」
女性は背を向けた。
男は、その場に立ち尽くしていた。
直人は、そっと近づいた。
「……大丈夫ですか」
「大丈夫なわけがないだろう」
男は、乾いた笑いを漏らした。
「許してもらえると思っていたわけじゃない。でも、目の前で言われると……」
言葉が途切れた。
「俺は、何をすればいい?」
直人は答えを探した。
謝罪を続ければいいのか。
償いをすればいいのか。
それとも、何も求めずに相手の怒りを受け止めるべきなのか。
「……分かりません」
直人は正直に言った。
「でも、許してもらえないからといって、償うことをやめていいわけではないと思います」
男は、ゆっくりとうなずいた。
「そうだな」
その夜、男は自分から申し出て、負傷者の世話を手伝った。
水を運び、床を拭き、必要な物を配る。
女性は彼に礼を言わなかった。
それでも男は、何も言わずに働き続けた。
直人は、その姿を見ていた。
罪を犯した人間が、何かをする。
その行為を、周囲が認めるとは限らない。
だが、認められないからといって、何もしなくていいわけでもない。
直人は、自分の手を握りしめた。
その瞬間、強いめまいが襲ってきた。
「……っ!」
視界が暗くなる。
膝が崩れた。
「直人さん!」
美咲の声が遠くに聞こえた。
直人は床に手をついた。
指先が冷たい。
呼吸が浅い。
治療を使いすぎたのだろうか。
それとも、別の何かが起きているのか。
美咲が直人の手を握った。
「しっかりして!」
そのとき、彼女の手が淡く光った。
直人の冷え切った指先に、わずかな温もりが戻った。
美咲は息を呑んだ。
直人もまた、彼女の手を見つめていた。
今度は、二人ともはっきりと見た。
美咲の光は、直人の光とは違う。
傷を塞ぐための光ではなかった。
まるで、何かをつなぎ止めるような光だった。




