第12話 外の世界
翌朝、直人たちは建物の外へ出ることを決めた。
理由は単純だった。
水と薬が足りない。
このまま閉じこもっていれば、次の鐘を待たずに全員が危険にさらされる。
「目的は、近くの薬局と商店です」
直人は集まった人々に説明した。
「必要なものを確保したら、すぐに戻ります。無理な戦闘はしません」
「外には、まだ凶暴化した人間がいるかもしれないぞ」
管理人が言った。
「分かっています」
直人はうなずいた。
「だから、全員で動くのではなく、少人数で行きます」
美咲の父親は、まだ長い距離を歩ける状態ではなかった。
美咲は残ることになった。
「気をつけてね」
美咲は直人に言った。
「必ず戻ります」
そう答えたものの、直人には確信がなかった。
外へ出ると、街の様子は想像以上にひどかった。
道路には放置された車が並び、店の窓は割れている。
信号は消えたままだ。
遠くで、サイレンのような音が聞こえた。
人影は少なかった。
しかし、誰もいないわけではない。
路地の奥で、こちらを見ている人がいた。
直人が目を向けると、その人物はすぐに姿を消した。
「……見られているな」
同行していた男がつぶやいた。
直人は返事をしなかった。
薬局に着くと、棚の多くは空になっていた。
それでも、消毒液や包帯、鎮痛薬がいくらか残っていた。
「持てるだけ持ちましょう」
直人たちは必要な物資を集め始めた。
そのとき、店の奥から物音がした。
「誰かいるんですか?」
返事はない。
同行者が警戒しながら奥をのぞいた。
「……何だ、これ」
そこには、小さな紙片が落ちていた。
紙には、太い文字でこう書かれていた。
『鐘が鳴る前に、地下へ行け』
直人は紙を拾い上げた。
「地下……」
美咲が聞いた声と同じ言葉だった。
「誰が書いたんでしょう」
同行者が尋ねた。
「分かりません」
直人は紙の裏を確かめた。
何も書かれていない。
しかし、紙の端には、乾いた血のような赤黒い染みがついていた。
そのとき、店の外で叫び声が上がった。
「おい! そこにいるのか!」
直人たちは一斉に振り返った。
入口の向こうに、数人の男たちが立っていた。
一人が、直人の持つ袋を指さした。
「薬を持っているな。それを置いていけ」
「これは、けが人のために必要なんです」
「俺たちにも必要だ」
「分けられる分があれば、相談します。でも、全部渡すわけにはいきません」
男たちの表情が変わった。
直人は、相手の手元に目を向けた。
棒を持っている者がいる。
刃物らしきものを握っている者もいた。
戦えば、負けるかもしれない。
だが、薬を失えば、建物にいる人々が危険にさらされる。
直人は袋を抱え直した。
「……話し合いましょう」
その言葉が、相手に届くかどうかは分からなかった。
それでも、直人は一歩も引かなかった。
そして、その瞬間。
男たちの背後にある壁に、奇妙な印が描かれていることに気づいた。
円の中に、一本の縦線。
その形は、直人が治療のときに見た光の模様と、よく似ていた。




