第9話:初めての接触と贖罪の看病セット
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
ついにヒロイン・一条さんとまともに言葉を交わした渉と鈴木さん。
風で倒れた主人公を救うため、モブならではの「生活の知恵」で的確なアドバイスを送ります。
「さ、佐藤くん……? と、鈴木さん……?」
一条さんは、俺たちの名前をちゃんと覚えていた。
同じクラスとはいえ、進級してまだ二週間ちょっと。ほとんど会話らしい会話もしたことがない「ただの背景」の名前を正確に呼んでくれたことに、俺は少しだけ感動してしまった。
「奇遇だな、こんなところで。どうしたんだ、そんな慌てて。どこか具合でも悪いのか?」
俺が白々しく尋ねると、一条さんは少し言いよどんだ後、すがるような目で俺たちを見た。
「あ、あのね……私じゃなくて、友達が風邪を引いちゃって。薬を買ってあげたいんだけど、種類がいっぱいあって、どれがいいのか分からなくて……」
友達、とぼかしてはいるが、俺たちには誰のことか痛いほど分かっている。
むしろ、その風邪の原因を作った張本人が目の前にいるのだ。罪悪感で胃に穴が空きそうだった。
「なるほどね。ちなみに、その友達の症状は? 熱とか、咳とか」
「う、うん。熱が高そうで、咳もすごく苦しそうだった」
「それなら、この総合感冒薬か、こっちの喉用がいいと思うけど……でも、他人の薬を適当に選ぶのは怖いよな。鈴木さん、ちょっと店員さん呼んできてくれる?」
「……了解」
鈴木さんが小走りでレジへ向かい、白衣を着た薬剤師さんを連れてきてくれた。
一条さんが症状を詳しく伝えると、薬剤師さんは最適な薬を一つ選び出してくれた。
「これなら、熱も咳も抑えられますよ。ただ、空腹で飲むと胃に負担がかかるので、何か食べてから飲ませてあげてくださいね」
「分かりました! ありがとうございます!」
薬が決まり、一条さんはホッと胸を撫で下ろした。
だが、俺たちの「贖罪ミッション」はここからが本番だ。
「一条さん、薬の他に何か必要なものは? ご飯とか、食べられそうなものあるかな」
「あっ……そうか、ご飯……。どうしよう、何がいいのかな……」
「一人暮らしで熱出した時って、固形物はマジで喉を通らないんだよ。だから、これだ」
俺は一人暮らしの経験を活かし、ゼリー飲料のコーナーへ一条さんを案内した。
「このエネルギー補給系のゼリーと、水分補給用のスポーツドリンク。これなら寝たままでも飲める。あとは、レンジで温めるだけのレトルトのおかゆ。これくらいあれば、数日はなんとかなるはずだ」
「……あと、氷枕がない時のために、これも」
鈴木さんが、追加の冷却シートと、水に濡らして首に巻く冷却タオルをカゴに放り込む。
俺と鈴木さんの流れるようなコンビネーションに、一条さんは圧倒されたように目をパチパチさせていた。
「すごい……佐藤くんも鈴木さんも、すごく手際がいいね。本当に助かったよ、ありがとう……!」
「いやいや、同じクラスなんだし、これくらい当然だよ」
(心の中:ごめん! マジで俺たちのせいなんだ! 許してくれ!)
俺たちは内心で土下座をしながら、一条さんと一緒にレジへ向かった。
会計の時、一条さんが財布を取り出そうとした瞬間、俺は横からスッと千円札を二枚出した。
「えっ? 佐藤くん、だめだよ、私が払うから!」
「いや、いいって。同じクラスのよしみだし、薬代はお前が払うにしても、このゼリーとスポドリくらいは俺たちからのお見舞いってことで」
「……うん。早く治してほしいから」
鈴木さんも横で静かに頷く。
もちろん、これはただの親切ではない。俺たちの浅はかなトラップのせいで風邪を引かせてしまった風間への、せめてもの「慰謝料」であり「贖罪」だ。これを払わせてもらわないと、俺たちは今夜、罪悪感で眠れなくなってしまう。
「でも……本当に悪いよ……」
「気にすんなって。ほら、友達、家で苦しんで待ってんだろ? 早く持ってってやれよ」
「……うん。本当に、本当にありがとう! 佐藤くん、鈴木さん!」
一条さんは深く頭を下げると、ずっしりと重くなったレジ袋を抱き抱え、風間の待つマンションへ向かって全力で走っていった。
その後ろ姿を見送って、俺と鈴木さんはようやく長く息を吐き出した。
「……ミッション、完了。私たち、いいモブだった」
「いいモブっていうか、ただの放火魔が自分で火消しを手伝っただけだろ……」
俺たちは顔を見合わせ、苦笑いした。
とりあえず、これでなんとか致命傷は避けられたはずだ。
風間がこの看病セットで無事に回復し、一条さんとのフラグをさらに強固なものにしてくれることを祈りながら、俺たちは夕暮れの街を後にした。
第9話をお読みいただき、ありがとうございました。
スポドリとゼリー飲料を自腹で奢ることで、なんとか罪悪感(慰謝料)を清算した二人。
これで無事に、風間くんの部屋での「ヒロイン看病イベント」への橋渡しが完了しました。




