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モブの俺たちが主役カップルを裏工作でくっつけようとした結果、なぜか俺と相棒のクーデレ女子の距離がバグり始めている  作者: 比津磁界


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第69話:遠回りした一週間と、私が一番帰りたかった場所

彩視点です!

私、鈴木彩は、自他共に認める「めんどくさい女」だ。

物事を理屈で考えてしまうし、変に疑い深い。

素直に「嬉しい」とか「好き」とか言えばいい場面でも、心の中でぐちゃぐちゃと言い訳を並べて、可愛げのない態度をとってしまう。


そんな私のめんどくささが、この一週間、最悪の形で発揮されていた。


事の始まりは、月曜日の昼休み。

一条さんから、無事に風間くんと付き合うことになったと報告を受けた時のことだ。

別れ際、中庭を去ろうとする私に、学年一の美少女は顔を寄せ、耳元でこう囁いた。


『鈴木さんも、頑張ってね』


その一言で、私は悟った。

恋愛初心者だと思っていたメインヒロインに、私の気持ちはとっくにバレていたのだ。


渉くんのことが、好きだ。

一緒に朝の通学路を歩く時間も。

私の作ったご飯を「美味い」と平らげてくれることも。

並んで座り、肩が触れ合う距離でくだらない作戦会議をするのも。

全てが心地よくて、彼と一緒にいる時間が、いつの間にか私の日常の中心になっていた。


でも、だからこそ怖かった。

メインカップルをくっつけるという「口実」がなくなった後、私たちはどうなるのか。

私の中にあるこの大きな感情は、ただ一緒にいる時間が楽しかっただけの「錯覚」なんじゃないか。

そして何より――渉くんは、私がいなくなっても平気なんじゃないか。


だから私は、自分から距離を置いた。

自分の気持ちを検証するための、最低でめんどくさい試し行動。


火曜日。朝の待ち合わせに行かないだけで、足取りがこんなに重いなんて知らなかった。

水曜日。教室で彼が読書している姿を盗み見ては、目が合いそうになって慌てて逸らす。一緒に帰れない帰り道は、景色が色褪せて見えた。

木曜日。一人の部屋に帰ると、どうしようもなく彼に会いたくて、気づけばベッドの上で膝を抱えていた。


距離を置いてみて、はっきりと分かった。

錯覚なんかじゃない。

私は、佐藤渉という男の子が、どうしようもなく好きなだ。


でも、自分から距離を置いた手前、どうやって元に戻ればいいか分からない。

スマホの画面を見つめながら、私は連絡先一覧にある一つのアイコンをタップした。

裏工作の連絡用にと、元々交換してあった一条さんの連絡先。

月曜日のあの一言を思い出し、彼女には全てお見通しなのだと観念して、私はすがるような思いでメッセージを送った。


『少し、相談してもいいかな』


すぐに通話がかかってきた。

私は、自分のめんどくさい行動と、ぐちゃぐちゃになった気持ちを正直に打ち明けた。

気持ちの整理がつかなくて1週間様子を見てみたこと。

でも、やっぱりどうしようもなく好きなこと。


「……客観的に見て、私、どうしたらいいと思う?」


情けない声で尋ねる私に、電話の向こうの一条さんは、カラカラと明るく笑った。


『どうするも何も、一つしかないよ』

「一つ……?」

『自分の気持ちを、まっすぐ伝えること! 鈴木さん、告白しちゃいなよ!』


そのストレートすぎる言葉に、私は思わず目を見開いた。

理屈でもなんでもない、ただの感情のぶつけ合い。

でも、それが一番正しくて、一番強いのだと、彼女は身をもって証明している。


「……そっか。そうだね」

『うん。鈴木さんなら大丈夫。応援してるからね』


電話を切った後、私は大きく息を吐き出した。

モブのくせに、主人公みたいな決心をしてしまった。でも、もう迷いはなかった。



翌日、金曜日の放課後。

私は下駄箱から少し離れた場所で息を潜め、渉くんが学校を出るのを待っていた。

やがて、少し猫背で、重たい前髪を揺らしながら歩く彼が現れた。

私は見つからないように距離を取り、こっそりとその後を尾行する。


彼がアパートの外階段を上り、自分の部屋に入っていくのを見届けてから。

私は、1階にあるカフェのドアを開けた。


カランコロン、とドアベルが鳴る。


「いらっしゃい。……あら、鈴木さん」


カウンターの奥でグラスを拭いていたマスターが、私を見て少し驚いたような顔をした。


「こんにちは。……お久しぶりです」

「久しぶりだね。最近、全然来なかったじゃない」

「あ、はい……ちょっと、いろいろ事情がありまして」


適当にお茶を濁してカウンター席に座ると、マスターは苦笑いしながらコーヒーを差し出してくれた。


「実はさ、最近ワタルのやつが全然仕事に身が入ってなくてね。オーダーは間違えるし、皿は割りそうになるし、上の空なんだよ」

「えっ……」

「二人、何かあったの?」


マスターの真っ直ぐな問いかけに、私は心臓が跳ね上がり、視線が思いっきり泳いでしまった。

嘘をつくのは苦手だ。

ましてや、人生経験豊富な大人の前では。


「な、何も……! ご心配をおかけするようなことは、何もないです……っ」

「……ふーん?」


マスターはニヤリと笑い、それ以上は追及してこなかった。

私はコーヒーを一口飲み、心を落ち着かせてから、今日ここに来た最大の目的を口にする。


「あの……明日、渉くんのバイトは入ってますか?」

「うん? ああ、明日は午前中だけ入ってるよ」

「……分かりました。ありがとうございます」


情報を手に入れ、私は席を立った。

お金を払おうとしたが、サービスだと言って受け取ってもらえなかった。

帰り際、ドアノブに手をかけた私に向かって、マスターが背中越しに声をかけてきた。


「頑張ってね」


完全に、全部バレている。

私は耳まで熱くなるのを感じながら、振り返らずに小さく頭を下げた。


「……はい、頑張ります」



そして迎えた、決戦の土曜日。


朝、鏡の前に立つ。

綺麗に切り揃えられた真っ黒なショートヘア。メガネの奥の瞳。

何度見ても地味なモブ女子の造形だけれど、今日はせめて少しでも可愛く見られたくて、以前、一緒に買い物に行った時に彼が「似合ってる」と言ってくれた服を選んだ。


リビングに向かうと、洗濯物を畳んでいたお母さんが私を見て、少しだけ目を丸くした。


「あら、お出かけ? 随分気合入ってるじゃない」

「別に……普通だよ」

「ふーん。……まあ、頑張ってきなさいな」


ニヤリと笑うお母さんの顔は、昨日のマスターと全く同じだった。

私は逃げるように玄関のドアを閉めながら、小さく毒づいた。

大人って、本当に怖い。

全部お見通しなんだから。


渉くんのアパートに着くと、私は1階のカフェの窓から見えないよう、裏口の方へぐるりと回って外階段を上った。


2階の角部屋。

ポケットから、彼から預かっていた合鍵を取り出す。

この1週間、彼に返すタイミングも、使う勇気もなかった冷たい金属。


ガチャリ、と鍵を開け、ドアノブを回す。

薄暗い玄関。彼と同じシャンプーの匂いと、少しだけ男の子っぽい部屋の空気。


「……ただいま」


誰に言うでもなく呟いた。

ずっと、ここに来たかった。

この部屋に帰ってきたかった。

私にとって、ここがどれだけ安心できる居場所になっていたのかを、痛いほど実感する。


時計を見る。渉くんのバイトが終わるまで、あと少しだ。

私は持参したエプロンを身につけ、冷蔵庫の中身を確認した。

昨日、彼がスーパーで買っておいたらしい豚肉と野菜がある。


(よし……)


私は包丁を握り、彼の大好物である生姜焼きの準備を始めた。

トントン、トントンと、静かな部屋に小気味よい音が響く。

出汁の匂いが広がり、お湯が沸く。

もうすぐ彼が帰ってくる。

そう思うだけで、胸の奥がギュッと締め付けられるように苦しくて、でも、たまらなく幸せだった。


やがて。

外階段を上ってくる、聞き慣れた足音が近づいてきた。


ガチャリ。

ドアが開く音。玄関で、彼の足音がピタリと止まったのが分かった。

私のスニーカーを見て、きっと驚いているはずだ。


リビングのドアノブが回る。

私は、大きく深呼吸をしてから、振り返った。


昼時の光が差し込むキッチン。

そこに立っていたのは、目を丸くして固まる渉くんだった。


(……ああ、やっぱり。好きだなあ)


寝癖のついた重たい前髪も、少し猫背なところも。

私を見る、その真っ直ぐで不器用な瞳も。


動悸が激しくなるのを必死に隠して、私は努めていつも通りに、ふわりと笑ってみせた。


「おかえり、渉くん。バイト、お疲れ様」


その瞬間だった。

渉くんが鞄を床に放り投げ、ものすごい勢いでこちらに向かってきたのは。


「え……渉く――」


言葉を最後まで紡ぐ暇はなかった。

彼は無言のまま、私の体を両腕で力強く、すっぽりと包み込むように抱きしめたのだ。


「……っ」


顔が、彼の胸に押し付けられる。

トクン、トクンと、彼の激しい心音が耳のすぐそばで鳴っていた。

彼の体温が、震えるような腕の力が、痛いほどに伝わってくる。


嘘でしょ。渉くんが、私を。

頭の中が真っ白になった。

でも、彼が私を抱きしめるその腕の強さが、この1週間、彼も私と同じように苦しんで、寂しがってくれていたことを雄弁に物語っていた。


理屈なんて、もうどうでもよかった。

めんどくさい検証も、言い訳も、もういらない。


私はゆっくりと、彼のがっしりとした背中に両腕を回した。

そして、絶対に離さないと誓うように、彼の服の生地をギュッと強く握りしめた。

第69話をお読みいただき、ありがとうございました。

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