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モブの俺たちが主役カップルを裏工作でくっつけようとした結果、なぜか俺と相棒のクーデレ女子の距離がバグり始めている  作者: 比津磁界


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第65話:イルカと、隣のヒロイン

土曜日の朝。俺の部屋の小さなダイニングテーブルには、彩が手早く作ってくれた和食の朝ごはんが並んでいた。


「だし巻き卵、ちょっと甘かったかな」

「いや、めっちゃ美味い。俺、これぐらい甘い方が好きだし」


味噌汁をすすりながら、向かいに座る彩を見る。

エプロン姿のクラスメイトが俺の家で朝飯を作っているというバグみたいな状況にも、正直かなり慣れてしまった。というか、居心地が良すぎる。


食後、俺たちは並んでアパートを出た。

休日の朝から、一緒に目的地に向かう。

端から見たら完全に休日のカップルだ。いや、付き合ってないけど。


「……なんか、変な感じだな」

「何が?」

「いや、これから他人の告白を見に行くのに、俺たちが一緒に家を出てるのがさ」

「ふふ、確かに」


彩が小さく笑う。その笑顔を見ているだけで、なんだか今日はいい日になりそうな気がした。



目的地の駅前広場。待ち合わせ時間の少し前に到着した俺たちは、少し離れた柱の陰からターゲットを探した。


「あ、いたよ。時計の下」

彩が指差した先には、俺たちのメインカップルの姿があった。


海斗のやつ、相変わらず前髪を下ろしてオーラを消そうとしてるけど、元々が長身で顔の作りもいいから普通に目立ってしまっている。

隣に立つ一条さんに至っては、気合の入った白のワンピース姿で、すれ違う人たちの視線を完全に釘付けにしていた。


「おー、やってるな。絵に描いたような美男美女だ」

「一条さん、すごく可愛い。気合入ってるね」


プロデューサー目線で感心しながら、俺たちはこっそりと二人の後をつけ始めた。



水族館の中は、休日ということもあって家族連れやカップルでごった返していた。


「うわ、マジですごい人……」

前の二人を見失わないように歩くのが精一杯だ。

人波に飲まれそうになっていると、ふいにパーカーの裾をクイッと引かれた。


振り返ると、彩が俺の服の裾をギュッと掴んでいた。


「……渉くん、はぐれる」

上目遣いでそう言われ、俺の心臓がトクンと跳ねる。


「お、おう。はぐれないようにな」

その直後、向こうから団体客の波がどっと押し寄せてきた。


「っと、危ねえ」

俺はとっさに彩の肩を抱き寄せ、押し寄せる人を避けながらスルスルと人混みを抜けて壁際へと移動した。

こういう時の空間把握能力や反射神経には、昔から謎の自信がある。


至近距離で顔を見上げた彩が、少しだけ目を丸くしていた。

「……渉くん、意外と頼りになる」

「モブだからな。人混みで気配を消して避けるのには慣れてるだけだ」


照れ隠しで適当なことを言うと、彩は「ふーん」と小さく笑って、俺の腕から離れ……ずに、今度はそっと俺の手を握ってきた。


「はぐれないように、でしょ?」

言い訳のようなセリフとは裏腹に、繋がれた手にはしっかりと力がこもっていた。



尾行任務のはずだったが、いつの間にか俺たちは普通に水族館を満喫していた。


「渉くん、見て。あっちのペンギン、めっちゃ可愛い」

「本当だ。あいつ、ずっと同じところぐるぐる泳いでるな」


遠くのイルカショーの水しぶきを眺めたり、お土産コーナーで変な魚のぬいぐるみを見つけて笑い合ったり。

メインカップルが水槽を見ている隙に、俺たちは完全に自分たちのペースで休日を楽しんでしまっていた。


歩き疲れたところで、館内の小さな売店で休憩することにした。

彩が買ってきたのは、イルカの形をした長いチュロスだった。


「これ、美味しい。渉くんも一口食べる?」

彩が、自分がかじったばかりのチュロスを差し出してくる。


「え、いや、それって……」

「ん?」

小首を傾げる彩。

まさか間接キスになることすら気づいてないのか、それともわざとなのか。

クーデレの考えていることは時々マジで分からない。


「……じゃあ、一口」

俺は少し離れた場所をかじった。サクサクしている。

でも、それ以上に心臓がうるさくて、味なんてほとんど分からなかった。


ふと前方に目をやると、巨大な水槽の前で海斗と一条さんが並んで何かを話していた。

青い光に照らされた二人のシルエットは、誰が見ても完璧な王道ラブコメのワンシーンだ。


「順調そうだね」

隣でチュロスをかじりながら、彩が微笑む。


「そうだな」

返事をしながら、俺はふと気づいてしまった。


『プロデューサー』としてメインカップルを見守りに来たはずなのに。

俺の視線はさっきから、青い光を反射する彩の黒縁メガネや、チュロスを食べる小さな口元、俺と繋いだままの右手ばかりを追っていた。


海斗と一条さんの恋の行方よりも、隣にいるこいつの一挙一動の方が、ずっと俺の心を揺さぶってくる。

モブの分際で、俺は完全に、隣のヒロインに見惚れていた。



気がつけば、海斗たちが館内の奥深くにある展示エリアへと足を踏み入れていた。


照明がぐっと暗くなり、円柱型の水槽の中で無数のクラゲがフワフワと漂っている。

幻想的で、どこか非日常的な空間。

ラブコメにおける、告白のド定番スポットだ。


空気が一変したのを感じ取り、俺と彩も少し離れた暗がりへと身を潜めた。

大きな水槽の陰。

すぐ隣には彩がいて、お互いの肩が触れ合っている。

暗いせいで、余計に彩の存在を強く感じる。


前方で、一条さんがふと立ち止まった。

そして、ゆっくりと海斗の方へ向き直る。


張り詰めたような、静かな時間が流れる。

俺のパーカーの袖を掴んだ彩の手が、きゅっと強くなった。


彩が少し背伸びをして、俺の耳元に顔を寄せる。

かすかな吐息と、シャンプーの甘い匂いが鼻腔をくすぐった。


「……始まるよ」


小さく囁かれたその声とともに、いよいよメインヒロインの告白が幕を開けた。

第65話をお読みいただき、ありがとうございました。

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