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モブの俺たちが主役カップルを裏工作でくっつけようとした結果、なぜか俺と相棒のクーデレ女子の距離がバグり始めている  作者: 比津磁界


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第52話:女の子の部屋でやることと、モブの逃避先

着替えを終えた彩は、「これに決まり」と選んだ服をハンガーにかけ直し、クローゼットにしまった。

パーテーションの奥から戻ってきた彼女は、少しゆったりとしたスウェット生地の部屋着姿だ。


服選びが終わり、部屋にふっと静寂が訪れる。

すると急に、自分が今「女の子の部屋で二人きり」だという事実が押し寄せてきて、俺はそわそわと落ち着かなくなってしまった。

視線をどこに向けていいのかわからず、無駄に床のクッションの端っこをいじったりしてしまう。


(だめだ、完全に挙動不審になってる。モブの俺に密室イベントはハードルが高すぎる……)


そんな俺を見かねたのか、彩は小さく笑いながら小さなキッチンへ向かい、マグカップを二つ持って戻ってきた。


「はい、紅茶。これでも飲んで落ち着いてください」

「お、おう……サンキュ」


温かいアールグレイを一口飲むと、少しだけ肩の力が抜けた。

彩は俺のすぐ隣のクッションに座り、自分のマグカップに口をつける。


「で、この後何しようか」

「何って……何すればいいんだ?」

「え?」


彩はマグカップを置き、少しだけ身を乗り出して俺の顔を覗き込んできた。

黒縁メガネの奥の瞳が、いたずらっぽく細められる。


「女の子の部屋に来たらやることって、一つしかないでしょ?」


(女の子の部屋でやること!? )


俺の脳内データベースが激しくエラーを吐き出し、パニックで変な汗が出てくる。

俺が完全にフリーズしていると、彩はクスクスと笑いながら、後ろの本棚から一冊の文庫本を取り出した。


「決まってるじゃん。明日のペアルックに向けて、神シーンの予習」

「あ、ああ……なるほど。本、ね」


俺たちが敬愛するS先生の小説、第三巻。

彩は本を開くと、なぜか俺の肩にピタリと自分の肩をくっつけるようにして座り直した。


「一緒に読も」

「……近くないか?」

「一つの本を読むんだから、これくらい普通でしょ」


(いや、普通じゃない。完全にゼロ距離)


朝の布団の中で嗅いだ、あの少し甘くていい匂いが至近距離から漂ってくる。

彩の細い指がページをめくるたび、俺の鼓動が無駄に早くなる。

活字を目で追ってはいるものの、内容なんて一ミリも頭に入ってこない。


(だめだ、これ絶対わかっててやってる。モブをからかって遊んでるだけだと思いたいけど……心臓が持たない)


数ページ進んだところで、彩がこてん、と俺の肩に頭を預けてきた。


「ちょっ、おまっ……」

「……明日、楽しみ」


肩に重みを感じながら下を向くと、彩が上目遣いで俺を見ていた。

その表情は、いつものからかうような余裕のある顔じゃなくて、年相応の女の子らしい、少し照れたような顔だった。


「……お、おう。そうだな」


俺は顔から火が出そうになるのを必死にごまかしながら、それだけ絞り出すのが精一杯だった。



夕方。

なんとか無事に(理性を保ったまま)彩の部屋を辞去し、俺は自分のアパートへと帰還した。


「……疲れたぁ……」


玄関の鍵を閉めるなり、そのままベッドにダイブして深い深いため息をつく。

朝の添い寝パニックから始まり、女の子の部屋でのファッションショー、そしてゼロ距離の読書タイム。ただのモブの休日としては、明らかに処理能力を超えている。


明日は午後から、ペアルックのベースとなる俺の服を探しに行くお買い物デートだ。


(明日も絶対に振り回されるんだろうな……)


でも、と俺はスマホのシフト表を確認する。

明日の午前中、俺はカフェのアルバイトが入っている。


(……よかった。明日の午前中はバイトだ。ひたすらグラス洗って、コーヒー淹れて接客してればいいんだ。労働が癒やしに感じる日が来るなんてな……)


完全にラブコメ疲れを起こしている自分のメンタルに苦笑しながら、俺は明日の平和な労働時間だけを心の支えにして目を閉じた。

第52話をお読みいただき、ありがとうございました。

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