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モブの俺たちが主役カップルを裏工作でくっつけようとした結果、なぜか俺と相棒のクーデレ女子の距離がバグり始めている  作者: 比津磁界


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第48話:モブヒロインの提案と、言い訳

午前中だけのシフトを終えた俺は、まかない代わりのサンドイッチを彩と一緒にカフェの隅の席で平らげ、そのまま二人でアパートへと帰ってきた。


「ふぅ……」

部屋に着くなり、彩は慣れた様子で部屋着に着替え、俺のベッドの横のクッションに陣取り、カバンから文庫本を取り出した。


『本を読む』。

それが、彩が俺の部屋に上がり込む時の定番の言い訳だ。

でも、さっきからページをめくるペースが明らかに遅い。

どう見ても活字なんか追っていなくて、ただ俺の部屋でダラダラ過ごす口実にしているだけなのは、もうとっくにバレている。


(まあ、別に邪魔されるわけじゃないし、いいか)


俺も適当な漫画を手に取り、床に寝転がってページをめくる。

連休最終日の午後、モブのワンルームにヒロインが居座っているというこの謎の状況にも、すっかり慣れてきてしまった自分が怖い。


「ねえ、渉くん」

一時間ほど経った頃、彩がふと本から顔を上げた。


「ん?」

「来週末のイベントのことなんだけどさ。渉くんは、私にどんな服を着てきてほしい?」

「どんな服って……」


突然の質問に、俺は漫画から視線を外した。

来週末は、俺たちが好きな小説家『S先生』のトーク&サイン会だ。

当然、前日には「俺の家でのお泊まりイベント」という爆弾も控えている。


「この数週間で、私、見守り任務とかでいろんな系統の服を着たと思うんだけど」

彩は文庫本をパタンと閉じて、俺の方をじっと見つめた。

「どれが一番、好きだった?」


「……っ」

直球すぎる質問に、俺は少しだけ言葉に詰まった。

この数週間。ショッピングモールで見守りをした時の大人っぽい服とか、俺の服を買いに行った時の少しカジュアルな感じとか。

いつも制服と黒縁メガネという地味な印象しかなかった相棒の、色んな姿を見てきた。


どれが一番好きか、なんて。


「……どれも普通に似合ってたし、選べないかな」


俺は必死に平常心を装って、一番安全で、かつ嘘偽りのない回答をひねり出した。

実際、どれも似合っていたんだから仕方ない。


すると、彩は「そっか」と少しだけ口角を上げた。まるで、俺がそう答えるのを待っていたかのように。


「じゃあさ。今週末の九日か十日に、私の家に来て服決めてよ」

「は?」

「どれがいいかわからないなら、直接見てもらえばいいし。ファッションショーするから、渉くんが選んで」


「いやいや、ちょっと待て」

俺は思わず上体を起こした。

「お前の家って……俺が女子の部屋に上がるのか?」

「うん。お母さんも『渉くんなら歓迎する』って言ってたし」


(……またお母さんの信用を盾にしやがった。ただのモブ男子が、休日に女子の部屋に呼ばれてファッションショーの審査員? ハードルが高すぎるだろ)


「……それに、あともう一個、お願いがあるんだけど」

俺が内心でツッコミを入れている隙も与えず、彩はさらに言葉を続けた。

少しだけ上目遣いになって、もじもじとクッションを抱きしめる。


「……ペアルック、したいな」

「…………はい?」


俺は完全にフリーズした。


(ペアルック。恋人同士が、同じ服や同じ小物を身につけてイチャイチャする、あのペアルックか? ……いやいやいや、ラブコメかよ! 付き合ってもないのにペアルックなんて、いくらなんでもぶっ飛びすぎだろ!)


俺の頭の中で警報が鳴り響く。

しかし、彩はあらかじめ用意していた完璧な『言い訳』を取り出した。


「だって、今度行くS先生のイベント、あの小説のサイン会でしょ?」

「あ、ああ」

「あの小説の第三巻で、主人公とヒロインがお忍びのデートをする時に、こっそりペアルックをして街を歩くシーンがある。私、あのシーンがすごく尊くて大好きだから……ちょっとだけ、真似してみたいなって思って」


「……っ!」

俺のオタクとしての魂が、その言葉に激しく反応してしまった。

S先生の代表作、第三巻の第五章。

普段は反発し合っている主人公とヒロインが、敵の目を欺くという名目でペアルックをして、そのままデートのような空気になるという、ファンの中では伝説となっている神シーンだ。


「あれの、真似……」

「うん。完全に同じ服じゃなくていいから、色とか、系統を合わせるくらいでいいの。……ダメ、かな?」


黒縁メガネの奥から、期待に満ちた瞳で見つめられる。

あの神シーンの再現。

しかも、ただのオタクのコスプレとしてではなく、一緒にイベントに行くという文脈で。

俺の中にあった「モブとしてのブレーキ」が、オタクとしての好奇心と、目の前の相棒の可愛さの前にあっさりと粉砕された。


「……完全に同じ服は無理だぞ。同じカラーのシャツとか、アウターの雰囲気を合わせるくらいなら、まあ……」

「本当!?」


彩はパァッと顔を輝かせた。


「じゃあ決まり! 九日に私の家でファッションショーしてベースの服を決めて、十日はそれに合わせる渉くんの服を一緒に買いに行く!」


「あ……」

気がついた時には、全てが彩の思い通りにスケジュールが埋まっていた。


【五月九日:彩の部屋でファッションショー】

【五月十日:ペアルックのための服を買いに行く(デート)】


女の子の部屋に上がり込み、さらには女の子とペアルックをしてイベントに行く。

俺は天井を見上げながら、深い深いため息をついた。


(……女の子とペアルックなんて、モブにはどう考えても荷が重すぎるだろ)


気がつけば俺自身の予定表が、完全にラブコメのイベントで埋め尽くされていた。

第48話をお読みいただき、ありがとうございました。

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