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モブの俺たちが主役カップルを裏工作でくっつけようとした結果、なぜか俺と相棒のクーデレ女子の距離がバグり始めている  作者: 比津磁界


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第43話:形だけの見守り任務と、満員電車の密着

午後のショッピングモールは、完全にカップルのためのテーマパークと化していた。


海斗と一条さんは、雑貨屋でペアのキーホルダーを見たり、映画館のロビーでパンフレットを広げたりと、順調にラブコメの王道イベントを消化している。

向かいのカフェで優雅に……いや、ただ単にお茶をしていた俺たちも、適度な距離を保ちながらその背中を追っていた。


だが、ぶっちゃけ俺の意識はさっきから、ターゲットの二人ではなく隣を歩く相棒にばかり向いていた。


「なあ、あの子、メガネだけどすげえ可愛くね?」

「ほんとだ。でも隣のやつ、なんか普通だな」


すれ違う男たちのそんなヒソヒソ話が、嫌でも耳に入ってくる。

いつもの黒縁メガネはそのままだが、今日のお洒落な私服と髪型のせいで、絶妙なギャップが生まれているらしい。

周りが放っておくわけがない。


俺自身は昨日買ったばかりの無難な服を着ているが、中身は筋金入りのモブだ。

こんな可愛い女の子の隣をドヤ顔で歩けるようなメンタルなんて持ち合わせていないから、無性に居心地が悪くて落ち着かない。


「……渉くん。クレープ、食べる?」

「え?」


考え事をしていると、いつの間にかクレープ屋の列に並んでいた彩が、チョコバナナクレープを俺の目の前に差し出してきた。


「一口、どうぞ。糖分補給」

「あ、サンキュ……って、これお前がさっき口つけてたやつじゃん」

「……うん。ダメ?」


上目遣いで首を傾げられる。


(ダメじゃないけど、それ『間接キス』っていう立派なラブコメイベントだからな)


俺は周りの男たちの嫉妬混じりの視線に冷や汗をかきながら、端っこを少しだけかじった。


さらに、「……人が多くて、はぐれそうだから」というこれまた聞き飽きた言い訳と共に、彩が俺の腕に自分の腕をそっと絡めてくる。

俺は海斗たちの様子なんて、三分に一回くらいしか確認できないまま、ただひたすらに自分の心臓の音をごまかすのに必死だった。



夕方。

買い物を終えた海斗たちが駅へ向かうのを確認し、俺たちも同じ電車に乗り込んだ。

全員同じ最寄り駅だから、帰るルートも全く一緒だ。

バレないように、海斗たちとは少し離れた車両のドア付近に陣取る。


連休中の夕方の電車は、想像以上に混雑していた。


「うおっ……」

駅に停まるたびに人の波に押し込まれ、俺と彩はドア横の狭いスペースに追いやられた。

「……っ」

小柄な彩が、周りの大人たちに潰されそうになっている。


「わりぃ、ちょっと我慢してろ」


俺は咄嗟に彩をかばうように壁に両手をつき、彼女のスペースを確保した。

俺の腕の中に、彩がすっぽりと収まる形になる。


「……ありがと、渉くん」


見上げてくる彩の顔が、信じられないくらい近い。

黒縁メガネの奥の瞳とバッチリ目が合う。

至近距離からシャンプーの甘い匂いがダイレクトに香ってきて、俺の頭はおかしくなりそうだった。


「気にするな。」

俺が照れ隠しで軽口を叩くと、彩は小さく笑った。

そして、電車の揺れに合わせて、コテンと俺の胸元に頭を預けてきた。


「……任務、お疲れ様」

「お、おう。お疲れ」


モブの分際で、こんな甘すぎるシチュエーションを享受していいわけがない。

俺は顔に集まる熱をごまかすように、ただひたすらに窓の外を流れる夕焼けを見つめていた。



地元の駅に着き、俺たちは海斗たちの少し後ろを歩きながら尾行を続けた。

やがて、海斗と一条さんが並んで、俺の住むアパートの真向かいにある大きめのマンションに吸い込まれていくのが見えた。


「よし、あいつら無事に帰ったな。今日も上手くいったようでよかったな」

「……うん。大成功だったね」


俺たちは小さくハイタッチを交わした。

そのまま、少し先にある彩の家まで送るため、夕暮れの住宅街を二人で歩く。

アパートの前で立ち止まり、「またね」と手を振る彼女の姿は、どう見ても普通の恋人同士の別れ際みたいだった。


そして、翌日。


カラン、とドアベルが鳴った。


「いらっしゃいませー」


俺は駅前にあるバイト先のカフェで、いつものようにエプロン姿で声を張り上げた。

連休のシフトをこなす、ただの平凡な日常。

昨日の満員電車での密着を思い出して、一人でカウンター裏で悶々としていた時だった。


入口の方へ顔を向けた俺は、そのままピタッと固まった。


そこに立っていたのは、昨日と同じように私服姿で、少しだけ口角を上げている彩だった。


(……え? なんで?)


約束なんてしていない。

驚いて声が出ない俺を見て、彩は楽しそうに目を細めた。


「……渉くん。おすすめのコーヒー、ある?」


俺の平穏なモブ生活に、ヒロインは容赦なく侵食してくる。

どうやら俺の日常は、俺自身のラブコメイベントによって完全に狂わされようとしていた。

第43話をお読みいただき、ありがとうございました。

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