第40話:まかないと、モブ御用達のカジュアル服
十二時。
予定通り、俺の午前シフトが終了した。
更衣室でエプロンを外し、私服に着替えてホールに戻ると、海斗は案内した隅の席でスマホの画面を食い入るように見つめていた。
画面には『高校生 デート 春服』という検索結果がズラリと並んでいる。
「待たせたな、海斗」
「あ、佐藤。お疲れ様」
声をかけると、厨房から顔を出した店長が、ふわりと湯気を立てるお皿を二つ、カウンターに並べた。
「まかない食べていきなよ。二人分作っといたからさ」
「えっ、マジですか!ありがとうございます」
うちの店長は本当に人がいい。
俺は遠慮なくオムライスを受け取り、海斗の向かいの席に座った。
「えっと……俺までいいの?」
「気にすんな。うちの店長の気まぐれだから。ほら、冷めないうちに食おうぜ」
俺がスプーンを手に取ると、海斗も申し訳なさそうに、でも少し嬉しそうに手を合わせた。
男二人で、向かい合ってまかないのオムライスをかき込む。
「……美味しい」
「だろ? ここのオムライス、結構人気なんだぜ」
「うん。……佐藤のバイト先、すごくいいところだね」
海斗が少しだけ口元を緩めて笑った。
普段、教室では絶対に誰とも関わろうとしない海斗が、こうして俺に対して自然な顔を見せている。
なんだかんだ、ただのクラスメイトから少しだけ『友達』に昇格したような気がして、悪くない気分だった。
腹ごしらえを終えた俺たちは、店長にお礼を言って店を出た。
電車に乗り、一駅隣の駅で降りる。
向かったのは、昨日海斗と一条さんが行ったような巨大なショッピングモールではなく、駅前にある手頃なカジュアルブランドの大型店舗だ。
「えっと……ここでいいの? なんか、もっとお洒落な店に行かなくていいのかな」
「アホか。いきなりハイブランドとかクセの強い服着ていったら、絶対一条さん引くぞ。高校生なんだから、まずは無難で清潔感のある服が一番なんだよ」
漫画やドラマだと、いきなり裏路地のセレクトショップに入って全身コーディネート、みたいな展開になるが、現実は違う。
こういう手頃な店で、体型に合ったシンプルな服を選ぶのが正解だ。
俺は自分の服を物色するフリをしながら、海斗の服を見繕っていく。
(……というか、俺も明後日の尾行に向けて、彩の隣を歩いても浮かない服を買わなきゃいけないんだよな)
昨日の彩の服装は、派手じゃないのにどこか目を引く絶妙な可愛さだった。
俺がヨレヨレのパーカーなんか着て行ったら、それこそ不釣り合いだ。
「よし、海斗。とりあえずこれ着てみろ」
俺が海斗に押し付けたのは、何の変哲もない白の無地カットソーに、少しだけ羽織れる薄手のネイビーのカーディガン、そして黒のテーパードパンツ(足首に向かって細くなるズボン)という、無難コーデだ。
「うん、わかった」
海斗は言われるがまま、試着室へと入っていった。
待つこと数分。
シャッ、とカーテンが開く音がした。
「……佐藤、どうかな。サイズは合ってると思うんだけど……」
試着室から出てきた海斗を見て、俺は思わず言葉を失った。
(……は?)
なんだこれ。
ただの手頃なカジュアル服だぞ。
俺が着たら「休日の大学生(地味)」になるだけの服だ。
だが、海斗が着ると全く違った。
180センチ近い高身長、すらりと長い手足。
服のサイズがぴったり合っているせいで、彼のスタイルの良さがこれでもかと際立っている。
しかも、着替える時に邪魔だったのか、いつも重たく下ろしている前髪を少し横に流しており、その隙間から、端正すぎる鼻筋と涼しげな目元が覗いていた。
(……チートだろ。これが、主人公補正ってやつかよ……!)
隠れイケメンの設定は知っていたが、いざこうしてまともな服を着た彼を目の当たりにすると、同じ男子高校生として絶望的なまでのスペックの差を感じざるを得ない。
「佐藤……? やっぱり、変かな。なんか落ち着かないんだけど」
当の本人は、自分のルックスの破壊力に全く気づいていないらしく、首を傾げて不安そうにしている。
「……いや、完璧。完璧すぎる。そのままモデルのオーディション行けるレベルだわ」
「えっ? いやいや、そんなことないって。ただの無地の服だし……」
「お前のその無駄にいいスタイルなら、無地が一番映えるんだよ。絶対に惚れ直すって。とりあえずそれ、全部買っとけ」
俺がため息混じりに太鼓判を押すと、海斗は「そ、そうかな……」と照れくさそうに笑いながら、着てきた服を持ってレジへと向かった。
(やれやれ。主人公のお着替えイベント、無事クリアだな)
俺もついでに、彩の隣を歩くための無難なシャツとスラックスをカゴに入れ、海斗の後を追ってレジに並んだ。
第40話をお読みいただき、ありがとうございました。




