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モブの俺たちが主役カップルを裏工作でくっつけようとした結果、なぜか俺と相棒のクーデレ女子の距離がバグり始めている  作者: 比津磁界


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第38話:初デートのエンディングと、名前の呼び方

映画館を出ると、最上階の窓から見える空はすっかりオレンジ色の夕暮れに染まっていた。


「……終わったね」

「ああ。映画、後半は全然頭に入ってこなかったけどな」


俺が恨めしそうに言うと、隣の鈴木さんはメガネの奥で少しだけ目をそらし、「……ごめん。次は、ちゃんと起きとくから」と小さな声で呟いた。

そんなことを言われると、こっちまで照れくさくなって文句も言えなくなる。


前を歩くターゲット――海斗と一条さんは、エスカレーターを下りながら駅へ向かって歩き出していた。

映画の「暗闇効果」もあってか、朝のガチガチだった状態と比べると、二人の距離は目に見えて縮まっている。

一条さんが何か話しかけ、海斗が少し照れたように笑って返す。いい雰囲気だ。


(おっ、海斗のやつ、ちゃんとエスコートできてるじゃん。なんだかんだで、初デート編は無事クリアってとこか)


俺は、育成ゲームで推しキャラが成長したのを見届けたような、裏のプロデューサー目線で大満足していた。


ショッピングモールを出て、夕暮れの街を駅に向かって歩く。

俺たちも、海斗たちから一定の距離を保ちながら後ろをついていく。


朝からずっと尾行だのカモフラージュだのと気を張ってばかりだったが、こうして夕暮れの街を二人で歩いている今の時間は、なんだかすごく穏やかで、心地よかった。


「……人の恋路をストーキングしてるだけなのに、なんか、楽しかったな」


俺がぽつりとこぼすと、隣を歩く鈴木さんも、ショートヘアを揺らして小さく頷いた。


「……うん。私も、楽しかった」


少し疲れているはずなのに、彼女の横顔はどこか満足げで、俺の肩が触れそうなほど近くを歩いている。

(これ、側から見たら俺たちも完全にデートの帰り道だよな……)

そんなことを考えながら、俺はわざとらしく咳払いをして視線を前に戻した。


やがて駅に着き、改札の手前で海斗と一条さんが立ち止まった。

二人は笑顔で言葉を交わし、一条さんが小さく手を振って改札の中へ消えていく。海斗は彼女が見えなくなるまで、その場に立って見送っていた。


「……よし。見守り任務、コンプリートだな」


俺がホッとして言うと、鈴木さんが俺の方を向いて、スッと右手を差し出してきた。


「……お疲れ様、佐藤くん」

「おう。鈴木さんも、朝早くからお疲れ」


俺たちは小さく、パシッとハイタッチを交わした。

今回は恋人繋ぎに発展しなくてよかった、と内心少しだけ安堵しつつ、俺たちは海斗の邪魔にならないように駅を離れた。


すっかり暗くなった住宅街を、俺はいつものように鈴木さんを家まで送っていくために並んで歩いていた。

外灯のオレンジ色の光が、二人の影を長く伸ばしている。


「海斗のやつ、明日学校で絶対質問攻めにしてやる」

「……一条さんも、明日絶対話しかけてくると思う。ちょっと怖い」


今日一日の反省会という名の思い出話で盛り上がっているうちに、あっという間に鈴木さんの家の近くまで来てしまった。


「じゃあ、この辺で。また明日、学校でな」

「……うん。また明日」


俺が軽く手を上げて背を向けようとした、その時だった。


「……あのさ、佐藤くん」


鈴木さんが、少し言いにくそうに俺の服の袖を軽く引っ張った。


「ん? どうした? 忘れ物か?」

「……違う。あのね」


彼女はメガネのブリッジをくいっと押し上げ、少しだけ俯き加減で上目遣いになった。


「……私たち、ずっと『佐藤くん』『鈴木さん』って呼んでるけど……」

「ああ、そうだな。日本一多い名字のコンビだしな」

「……そうじゃなくて。……なんか、もう、他人行儀じゃない?」


(マジか)


俺の頭の中で、警報が鳴り響いた。

(ここでラブコメ中盤の特大フラグ、『呼び方変更イベント』発生!?)


ただでさえ合鍵を渡したり手料理を食べたりして距離感がバグっているのに、ここで名前呼びまで解禁してしまったら、俺たちの関係はどうなってしまうんだ。


「……下の名前で、呼んでもいい?」


鈴木さん――いや、彼女が、耳まで真っ赤にして聞いてくる。

そんな顔でお願いされて、断れる男子高校生がこの世にいるわけがない。


俺は顔から火が出そうになるのを必死に堪え、できるだけ平坦な声を作った。


「……まあ、いいけど。じゃあ俺も、下の名前で呼ぶからな。……えっと、あやか、だっけ」


「……うん」


彼女は小さく頷き、ギュッと両手を握りしめて、深呼吸をするように息を吸った。


「……渉、くん」


名前を呼ばれた瞬間、背筋がゾクッとして、心臓が跳ね上がった。

ただのクラスメイトから名前で呼ばれるのが、こんなにも破壊力があるなんて知らなかった。


「……おう。じゃあ、また明日な。彩鳥」

「……うんっ。おやすみ、渉くん」


お互いに慣れない名前呼びのせいで、二人の間には信じられないくらい甘くて、むず痒い空気が漂っていた。

俺たちは逃げるように背を向け、それぞれの家路についた。


主役の恋を応援するためのゴールデンウィーク。

見守り任務は無事に終了したが、俺と彩鳥のモブ同士の関係性は、海斗たち以上に甘く、決定的なところまで進展してしまっていた。

第38話をお読みいただき、ありがとうございました。


初デート編、無事(?)完結です!

海斗と一条さんの様子を見届けて満足する渉ですが、帰り道ではついに「名前呼びイベント」が発生してしまいました。


「渉くん」「彩鳥」……。ただの名字コンビから、一気に距離が縮まりましたね。モブ同士のはずが、完全にラブコメの主人公とヒロインのやり取りです。

続きが楽しみ! と思っていただけましたら、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】を一番右まで押して、応援の評価をお願いいたします!

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