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モブの俺たちが主役カップルを裏工作でくっつけようとした結果、なぜか俺と相棒のクーデレ女子の距離がバグり始めている  作者: 比津磁界


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第34話:見守りスタート! 初動のカモフラージュ

午前八時。

俺は心地よい眠りの中にいたが、ふわりと漂ってきた香ばしい匂いで目を覚ました。

コーヒーの香りと、パンが焼ける匂いだ。


「……ん?」


ゆっくりと目を開け、寝ぼけ眼でリビングの方へ向かうと、そこには驚きの光景があった。

俺の部屋のキッチンに、エプロン姿の鈴木さんが立っていたのだ。


「お、おはよう……鈴木さん。いつから…?」

「……おはよう、佐藤くん。……合鍵、使わせてもらった」


彼女は少し照れくさそうに笑いながら、焼き上がったトーストと目玉焼きをテーブルに並べた。

俺を起こさないように静かに入ってきて、朝食まで作って待っていたらしい。

……なんだこの、同棲生活の朝みたいなシチュエーションは。


「今日の格好、気合入ってるな」

「……今日はいよいよ本番だから。……変かな?」


今日の彼女の私服は、白のゆったりしたニットに、少し短めの黒のスカパン。頭にはお洒落なベレー帽を被り、顔には大きめの伊達メガネをかけている。

「目立たないけれど、いざとなったらお洒落なカップルに見える」という、昨日の練習に基づいた絶妙なコーディネートだ。


「いや、すごく似合ってるよ。可愛い!……よし、食ったら行くか」


俺たちは素早く朝食を済ませ、九時過ぎにアパートを出た。

駅へ続く一本道の途中の曲がり角で、俺たちは息を潜めて、主役の二人が現れるのを待った。


九時三十分。予定通り、向かいのマンションから風間が出てきた。

少しだけセットされた髪と、無難にまとめた私服。

遠目から見ても、彼がガチガチに緊張して肩が上がっているのが分かる。

続いて現れた一条さんは、淡いパステルカラーのワンピースに白いカーディガンという清楚な装いだ。

帽子を目深に被って少し変装気味だが、隠しきれない美少女オーラが漂っている。


(……始まったな)


俺と鈴木さんは無言で頷き合い、一定の距離を保って後ろについていく。

同じ電車の同じ車両、少し離れたドア付近に陣取り、二人の様子をこっそりと観察した。


風間は吊り革を握る手が不自然なほどこわばっている。

一方の一条さんは、そんな彼を見て少しおかしそうに、でもすごく嬉しそうに微笑んでいた。


「……一条さん、リラックスしてるみたい」

「……ああ。風間の緊張も、なんか微笑ましく見てる感じだな。……いい雰囲気じゃないか」


俺たちは、我が子の初めてのおつかいを見守る親のような心境で、ニヤニヤしながら二人の後を追った。


十駅先の大型ショッピングモールに到着すると、二人はまず二階の大きな雑貨屋へと向かった。

俺たちも少し距離を開け、適当な商品を手に取りながら、あくまで「買い物を楽しむ普通の客」を装って店内に入る。


「あいつら、ペアのストラップとか見てるぞ。頑張れ、風間……!」

「……佐藤くん、あっち。……鏡のコーナー」


鈴木さんの指摘通り、二人は姿見や小さな手鏡が並ぶ、視界の開けたコーナーへと足を踏み入れた。

ここは死角が少ない。俺たちが陳列棚の陰からひょっこり顔を出せば、鏡越しに目が合ってしまう可能性が高い。


その時だった。

風間が何かを思い出したように、不意に、勢いよく俺たちの方へと後ろを振り返ったのだ。


「やば……っ!」


俺が身を隠す間もなかった。その瞬間。


ギュッ、と。


右腕に、ものすごい力で鈴木さんが抱きついてきた。

そのまま彼女は、俺の胸元に顔をぐいぐいと埋め、俺のカーディガンの袖を両手で強く握りしめる。


(……きた、緊急回避のカモフラージュ!)


俺は反射的に、彼女の肩を抱き寄せ、その頭を愛おしそうに覗き込むポーズを取った。

お互いの顔が触れそうなほどの至近距離。腕には、彼女の息遣いと体温がダイレクトに伝わってくる。


「……あれ?」


振り返った風間の視線が、俺たちを一瞬だけ捉えた。

俺は心臓が口から出そうになりながらも、彼女を見つめる『周りが見えていないカップル』を必死に演じ切る。


風間は俺たちの方を数秒見た後、「おっと……」と少し気まずそうに頬を掻き、すぐに慌てて一条さんの方へと向き直った。

どうやら、イチャついているカップルを直視してしまって気まずくなっただけで、俺たちだとは全く気づいていないようだ。


「……ふぅ。……行ったぞ」


俺が小声で言うと、鈴木さんは真っ赤な顔のまま、俺の腕にしがみついて答えた。


「……練習の成果。……完璧」


完璧なのはごまかし方か、それともこの密着度か。

腕を離さず、俺の体温を確かめるようにくっついている鈴木さんの様子に、俺は変な汗をかきそうになっていた。


(これ、風間たちにバレない代わりに、俺の理性が持たないやつだ……)


主役たちをくっつけるための見守りは、初動から早くも限界スレスレのドキドキを俺に与えていた。

第34話をお読みいただき、ありがとうございました。


合鍵で先に入って、朝食のトーストを作って待っている鈴木さん……。ただのクラスメイトのはずが、もう完全に同棲カップルの休日です。

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