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モブの俺たちが主役カップルを裏工作でくっつけようとした結果、なぜか俺と相棒のクーデレ女子の距離がバグり始めている  作者: 比津磁界


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第32話:カモフラージュ特訓

手料理のぺぺたまを綺麗に平らげ、食後の麦茶を飲みながら、俺たちはローテーブルの上に明日の見取りフロアマップを広げていた。


「風間たちがお昼を食べるなら、この三階のフードコートか、もしくは一階のレストラン街だよな」

「……うん。見守るなら、レストラン街の方が柱や観葉植物が多くて、身を隠しやすい」


俺たちはペンを片手に、真面目な顔で作戦を練っていた。

明日の本番、風間と一条さんの初デートを影からサポートし、完璧なハッピーエンドへと導く。

それが俺たちの使命だ。


しかし、フロアマップを睨んでいた鈴木さんが、ふいに難しい顔をしてペンを置いた。


「……佐藤くん。一つ、重大な懸念事項がある」

「懸念事項? なんだ?」

「……ショッピングモールって、ショーウィンドウとか、大きな鏡がたくさんある。もし風間くんたちが不意に振り返ったり、ガラス越しに私たちと目が合ったら……尾行がバレて、任務は失敗する」


鈴木さんの言葉に、俺はハッと息を呑んだ。

確かにその通りだ。あいつらが服屋の鏡で合わせ鏡をした瞬間、後ろの柱の陰に隠れている俺たちがバッチリ映り込んでしまう危険性は大いにある。

見つかったら最後、「なんでついてきてるの!?」と気まずい空気になり、初デートをぶち壊してしまうかもしれない。


「やばいな……。そうなったら、どう言い訳してもストーカー確定だぞ」

「……だから、バレないための『緊急カモフラージュ』が必要」


鈴木さんはメガネのブリッジをクイッと押し上げ、至極真面目な顔で言った。


「もし目が合いそうになったら、瞬時に『周りが気を遣って目を逸らしたくなるようなバカップル』のフリをして、自分たちの顔を隠すの」

「ば、バカップルのフリ!?」


思わず大きな声が出た。

周りが目を逸らしたくなるようなバカップルって、要するに、公共の場でイチャイチャしている痛いカップルのことだろ。


「……これは任務。失敗は許されない。……今から、練習しよ」

「いや、練習って――」


俺が制止する間もなく、鈴木さんはスッと立ち上がり、俺の隣へと移動してきた。

そして、そのまま俺の右腕に、両腕でギューッと強く抱きついてきたのだ。


「えっ、ちょ、鈴木さ……っ!?」


俺の声が、変な風にひっくり返った。

無理もない。グレーのパーカー越しとはいえ、彼女が俺の腕に強くしがみつき、顔を俺の肩口にグリグリと埋めてきたのだ。

その瞬間、俺の右腕に、昨日おんぶをした時に感じた『アレ』――女の子特有の、ふわりとした柔らかい感触が、容赦なく押し当てられた。


(……っっっ!! だから、意外とあるんだってば!!)


俺の脳内は瞬時にショートし、顔から火が出そうになった。

心臓が警鐘を鳴らし、全身の血液が沸騰したように熱くなる。


「……佐藤くん」


腕に抱きついたまま、鈴木さんが上目遣いで俺を見上げてきた。

その顔は、彼女自身も真っ赤に染まっている。明らかに無理をしているのに、彼女は真面目なトーンを崩さずに指示を出してきた。


「……佐藤くんも、ただ突っ立ってたら不自然。……私の顔を、愛おしそうに覗き込んで。そうすれば、佐藤くんの顔も下を向いて隠れるから」

「なっ……愛おしそうに、って……!」

「……早く。ターゲットにバレる」


理不尽な急かし方に、俺は半ばヤケクソになって、彼女の言う通りに顔を伏せた。

腕に抱きつく鈴木さんの顔を、覗き込むようにして見つめる。


「……っ」


お互いの顔が、数センチという距離まで近づいた。

キスする直前のような、とんでもない至近距離。彼女の少し速くなった呼吸が、俺の首筋にふわりとかかる。

メガネの奥の、透き通るようなガラス玉みたいな瞳に、限界まで動揺している俺の顔が映っていた。


「……どう? これなら、顔、見えないでしょ」

「み、見えないけど……これ、心臓が持たない……っ」

「……完璧。これで、絶対バレない」


俺の悲鳴のような抗議をスルーして、鈴木さんは真っ赤な顔のまま「完璧」と言い張った。


そこから先は、謎のスパルタ特訓の始まりだった。


俺たちが少し離れてマップを見ている状態から、鈴木さんが突然「ターゲット、振り返った!」と合図を出す。

すると、彼女が瞬時に俺の腕に飛びついて抱きつき、俺が慌てて彼女の顔を覗き込む――という、謎の反復練習だ。


「ターゲット、振り返った!」

「うおっ!?」

「……佐藤くん、反応遅い。もっと自然に覗き込んで。それじゃただ驚いてるだけ」


「ターゲット、振り返った!」

「はいっ!」

「……今度は近い。顔がぶつかる」


(これ、絶対に見守り任務より心臓に悪いだろ……!!)


何度も何度も腕に抱きつかれ、その度にあの柔らかい感触と甘い香りに脳を揺さぶられ、至近距離で見つめ合う。

モブの平穏な日常は、完全に破壊されていた。


十回ほど反復練習を繰り返し、俺が「もう勘弁してくれ、息が続かない……」とソファーに倒れ込んだ時。


鈴木さんはまだ俺の右腕を軽く両手で握ったまま、少しだけ息を弾ませて隣に座っていた。


「……これだけ練習すれば、明日は完璧」

「……そうだな。俺の寿命が縮んだこと以外は、完璧だ」


俺が疲労困憊で呟くと、鈴木さんは小さく「ふふっ」と笑った。

そして、握っていた俺の腕の袖口を、指先できゅっと軽く引っ張った。


「……明日の本番も」

「ん?」

「……ちゃんとこのまま、私に合わせてね」


「……ああ。任せとけって」


俺が苦笑いしながら答えると、鈴木さんは満足そうに目を細め、再び俺の腕に頭を預けてきた。


明日はいよいよ、ゴールデンウィーク本番。

主役たちの恋の行方ももちろん気になるが、俺のモブとしてのアイデンティティは、隣にいるこのクーデレ女子のせいで、すでに風前の灯火となっていた。

第32話をお読みいただき、ありがとうございました。


ガラス越しにバレるのを防ぐための「緊急回避カモフラージュ」!

というのは建前で、ただ渉にくっついてイチャイチャしたいだけの鈴木さんでした。

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