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モブの俺たちが主役カップルを裏工作でくっつけようとした結果、なぜか俺と相棒のクーデレ女子の距離がバグり始めている  作者: 比津磁界


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第28話:シミュレーション崩壊と、ウインドウショッピング

隣町の大型ショッピングモールは、休日の午前中から多くの人で賑わっていた。

吹き抜けになった広大なエントランスを見上げながら、俺は軽く首を回して気合を入れた。


「よし、着いたな。さすがに広い……。これなら風間たちも知り合いに遭遇する確率は低いだろうし、仮に俺たちが見失っても、あいつらだけで十分時間は潰せるな」

「……うん。でも、まずはルートの確認。あの二人なら、どの順路で回るか」


鈴木さんも真剣な顔で頷き、入り口付近にあるフロアマップを二人で見つめる。


「ラブコメの初デートの定番といえば、とりあえずファンシーな雑貨屋とか、文房具屋あたりから攻めるのが王道だよな」

「……賛成。一条さん、可愛い小物とか好きそう。風間くんも、そういうお店なら緊張せずに一緒に入れそうだし」


もっともらしい分析を交わしつつ、俺たちは二階にある大きめの生活雑貨店へと足を踏み入れた。


店内には、カラフルなマグカップや、お洒落なデザインの文房具、アロマグッズなどが所狭しと並んでいる。

俺たちは最初こそ「あいつらならこれ選びそうだな」とか「一条さんにはこういうのが似合いそう」などと監視者としての視点で話していた。

けれど、綺麗にディスプレイされた商品を眺めて歩くうちに、少しずつその目的が曖昧になっていった。


「あ、鈴木さん。そのマグカップ、なんかいいな」

「……うん。色が綺麗」


鈴木さんが手に取っていたのは、深い瑠璃色のシンプルなマグカップだった。

そのまま隣のコーナーへ移動すると、今度は彼女の足がピタッと止まる。

視線の先には、様々なデザインのブックカバーや、しおりが並べられていた。


鈴木さんは、木製の薄い板でできた、なんとも言えないシュールな顔をした猫のしおりをじっと見つめている。


「……これ、可愛い」

「えっ? それが? なんかすごい達観した顔してるぞ、その猫」

「……そこがいい。本に挟むと、ちょうどこの顔だけ飛び出す仕組みになってる」


普段のクーデレで大人びた彼女からは想像もつかない、ちょっと変わった女の子らしい趣味。

真剣な顔でしおりを見つめる鈴木さんがなんだかおかしくて、俺は思わずふっと笑ってしまった。


「そっか。鈴木さん、そういうの好きなんだな」

「……変かな」

「いや、いいと思うよ。らしいというか」


俺がそう言うと、彼女は少しだけ口元を緩め、そのシュールな猫のしおりを買い物カゴに入れた。


その後は俺の番だった。三階の家電量販店を通りかかった時、ガジェットコーナーに並ぶ最新のワイヤレスイヤホンに俺の目が釘付けになったのだ。


「おっ、これ気になってたやつだ。ノイズキャンセリングの機能がすごいってレビューにあったんだよな」

「……佐藤くん、そういうの詳しいの?」

「まあ、音楽聴きながら作業したり、ラノベ読んだりするからさ。ちょっといいやつが欲しくて」


俺が熱心に機能の比較をしていると、鈴木さんは隣で退屈するどころか、ショーケースを興味深そうに覗き込みながら話を聞いてくれた。

「……なんか、男の子って感じがする」と小さく呟いた彼女の言葉に、俺は少しだけ照れくさくなった。


店を出てモールの中央通路を歩いている頃には、もう「風間と一条さんのシミュレーション」なんて言い訳は、俺たちの頭から完全にフェードアウトしていた。

ただ、同じクラスの女の子と、休日に買い物を楽しんでいる。

その事実だけが、心地よくそこにあった。


「……そろそろ、お昼にする?」


ふと気づけば、時計の針は正午を回っていた。

たくさん歩いたせいか、お腹も空いてきている。


「そうだな。ええと……あ、あそこのカフェとかどうだ?」


俺が指差したのは、少し開けた場所にある、明るい雰囲気の洋食カフェだった。

「風間くんなら、一条さんが気を使わないように、高すぎず入りやすいカフェを選ぶはずだ」

俺は一応、取ってつけたようなシミュレーションの言い訳を口にしてみた。


「……うん。妥当な想定だと思う」


鈴木さんも真面目な顔でそれに同意し、俺たちは店へと入った。


向かい合って席に座り、俺はオムライス、鈴木さんはトマトソースのパスタを注文した。

料理が運ばれてくると、俺たちは自然と「いただきます」をしてスプーンやフォークを手に取った。


「美味いな、これ」

「……うん。パスタも美味しい」


ご飯を食べながら、さっき見た雑貨の話や、お互いの好きなラノベの展開について話す。

ふと、目の前でパスタを巻き取って美味しそうに食べている鈴木さんの姿を見て、俺は冷静な思考を取り戻しそうになった。


(……いや待って、これ普通にただのデートじゃないか?)


休日のショッピングモールで、可愛い服を着た女の子と向かい合ってランチを食べている。

どう好意的に解釈しても、これは『ロケハン』という言葉で誤魔化せるレベルを超えている。


でも。


「……佐藤くん、どうかした?」


不思議そうに小首を傾げる鈴木さんを見ていたら、俺の中で鳴りかけていたモブの警報機は、すーっと静かになっていった。


「いや、なんでもない。……午後も、しっかり下見しないとな」

「……うん。頑張ろう」


まあ、いっか。

今はただ、目の前の彼女と過ごすこの時間が、最高に楽しい。

俺はシミュレーションという看板を内心で完全に下ろし、残りのオムライスを頬張った。

第28話をお読みいただき、ありがとうございました。

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