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モブの俺たちが主役カップルを裏工作でくっつけようとした結果、なぜか俺と相棒のクーデレ女子の距離がバグり始めている  作者: 比津磁界


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第27話:電車内の視線と、モブなりの配慮。

午前九時半。

俺たちは予定通りアパートを出発し、駅へと向かう道を歩いていた。


「本番で後ろから見守るなら、これくらい距離を開けた方がいいよな」

「……うん。あの二人、周りが見えなくなりそうだから、少し離れてても大丈夫だと思うけど。近すぎるとバレる危険がある」


最初はそんな風に、あくまで「任務の打ち合わせ」らしい会話を交わしていた。

しかし、道幅の広い歩道を並んで歩いているうちに、いつの間にか話題は共通の趣味であるラノベの方へとシフトしていった。


「そういえば、昨日貸したあの新刊のシリーズ、どうだった?」

「……読んだ。すごく面白かった。ヒロインが自分の気持ちを自覚するシーン、最高だった」

「だろ!? あそこで主人公が助けに来る展開もめちゃくちゃ熱かったよな!」

「……うん。主人公のあの台詞、鳥肌立った。やっぱりハッピーエンドの波動を感じる」


俺が熱く語ると、鈴木さんも普段のダウナーな表情を少しだけ崩し、目を輝かせて頷いてくれる。

部屋で服を褒めてドギマギしていた空気はどこへやら。

好きなものの話になれば、俺たちはあっという間にいつもの「気の合うオタク友達」に戻ることができた。

この居心地の良さこそが、俺が彼女との関係を壊したくない一番の理由だった。


他愛のない話で盛り上がっているうちに駅に到着し、券売機で切符を買う。

改札を抜け、目的のショッピングモールがある十駅先へ向かう下り電車に乗り込んだ。


今日は創立記念日の振替休日で、世間一般では平日の午前中だ。

車内は通勤ラッシュをとうに過ぎており、乗客はまばらだった。

俺たちは空いていた七人掛けのロングシートの中央あたりに、並んで腰を下ろした。


ガタン、ゴトンと、電車が等間隔の揺れと音を刻み始める。

さっきまでのようにラノベの話を続けようと鈴木さんの方を向いた時、俺はある「異変」に気がついた。


(……なんか、やたらと見られてるな)


視線の主は、同じ車両に乗っている何人かの乗客――特に、向かいの席や斜め前に立っている男性陣だった。

彼らの視線は、俺の隣に座る鈴木さんに向けられていた。


無理もない。

淡いベージュのオフショルダーから覗く、華奢な肩と白い鎖骨。

そして、タイトな黒のミニスカートから伸びる、スラリとした脚。

そんな気合の入った可愛い服を着た美少女が乗ってくれば、目を引くのは当然だ。


しかし、その視線は、隣にいる俺から見ても少し無遠慮で、居心地の悪いものだった。

ふと隣を見ると、鈴木さんは膝の上で両手をギュッと握り合わせ、俯いていた。


「……鈴木さん?」


俺が小声で呼ぶと、彼女の肩がビクッと跳ねた。

よく見ると、彼女の細い肩は小刻みに震えている。


普段の彼女は、学校では指定の制服のボタンをきっちり留め、猫背で本を読み、気配を消したモブ女子だ。

こんな風にお洒落をして出かけるのは、なかなか無いのだろう。彼女は、見知らぬ他人からこんなに露骨な視線を向けられることに、全く慣れていないのだ。


(しまった……。俺が「似合ってる」なんて言ったから、無理してそのまま着てこさせてしまったのかも……)


自分の配慮の足りなさに気づき、俺は密かに舌打ちをした。

同時に、ジロジロと無遠慮な視線を向けてくる周囲に対して、静かな怒りのような、強い保護欲のような感情が湧き上がってきた。


俺はゆっくりと立ち上がり、鈴木さんの前に立った。


「……鈴木さん。ちょっと、移動しようか」


俺が優しく声をかけると、鈴木さんは不安げな瞳で俺を見上げ、小さく頷いて立ち上がった。

俺は彼女を連れて、車両の端――ドアのすぐ横にある、壁際の隅の席へと移動した。


「ほら、こっちの壁側に座りな」

「……うん」


鈴木さんが一番端の壁際にごく小さくなって座るのを確認し、俺はそのすぐ隣に、少しだけ浅く腰を下ろした。

そして、自分の背中と肩幅を使って、通路側や向かいの席からの視線を完全にブロックするように、彼女を隠すような体勢をとった。


「……これで、ちょっとはマシだろ」


俺が前を向いたまま小声で言うと、隣から「……ふぅっ」と、強張っていた息を吐き出す音が聞こえた。

俺という防波堤によって他人の視線から守られ、ようやく安心できたのだろう。


「……ごめん。……ありがとう、佐藤くん」


消え入りそうな声で、鈴木さんが呟いた。

「気にするな」と返そうとした、その時だった。


ちょいっ、と。

俺が羽織っているネイビーのジャケットの裾が、軽く引っ張られた。


視線だけを横に向けると、鈴木さんが壁に寄りかかるようにして身を縮めながら、指先で俺のジャケットの裾をギュッと強く握りしめていた。

顔は俯いていて表情は見えないが、その小さな手からは「離れないで」という無言のSOSと、俺に対する確かな信頼が伝わってくる。


(……っ!! なんだこれ、可愛すぎるだろ!!)


俺の脳内で、理性のストッパーが盛大な音を立てて弾け飛んだ。

さっきまでの「気の合うオタク友達」という余裕は一瞬で消え去り、顔から火が出そうになるのを必死に堪える。


「……き、気にすんな。到着までまだ少しあるから、寝ててもいいぞ」


声が裏返らないように気をつけながら、俺は前を向いたままそう答えた。

ジャケットの裾を握る彼女の指先に、ほんの少しだけ力がこもったのが分かった。


十駅という道のりが、これほどまでに長く、そして心臓に悪いと感じたのは初めてだった。

ガタン、ゴトンという電車の揺れに合わせて、裾を掴まれた部分から彼女の体温が伝わってくるような気がして、俺はずっと気が気じゃなかった。


やがて、「次は、〇〇〜」という車内アナウンスが流れ、電車が目的の駅のホームへと滑り込んだ。


「着いたぞ。行くか」

「……うん」


電車を降り、改札を抜ける。

外の空気を吸うと、電車の中での異様な緊張感がふっと解けていくのを感じた。

鈴木さんも、俺の隣で少しだけホッとしたような表情を見せている。


「ここからショッピングモールまでは、歩いて十分くらいだな」

「……うん。風間くんたちなら、きっとこの一番大きなメインストリートを歩くはず」

「そうだな。じゃあ、俺たちも同じルートを歩いてみよう」


歩き慣れない場所だが、スマホの地図アプリを見なくても、目的地はすぐに分かった。

メインストリートを少し歩いた先に、巨大な複合商業施設――隣町の大型ショッピングモールが堂々とそびえ立っていたからだ。


「……見えた。あれだな」

「……すごく、大きい」


目の前に広がる巨大な建物を見上げて、俺は小さく息を吐き、気合を入れ直すように自分の頬を軽く叩いた。


「よし。ここからが下見の本番だな」

「……うん。完璧なシミュレーション、しよう」


俺たちは顔を見合わせ、小さく頷き合った。

ハッピーエンド至上主義のモブ二人による、主役たちを見守るための『下見という名のデート』の舞台へ、俺たちは足を踏み入れた。

第27話をお読みいただき、ありがとうございました。


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