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モブの俺たちが主役カップルを裏工作でくっつけようとした結果、なぜか俺と相棒のクーデレ女子の距離がバグり始めている  作者: 比津磁界


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第22話:連日の訪問と、置き部屋着。

春の夜風に吹かれながらアパートに帰り着いた俺は、そのままベッドに仰向けに倒れ込んだ。

天井の木目をぼんやりと見つめながら、さっきまでお邪魔していた鈴木家の温かい食卓や、お母さんの容赦ない暴露に真っ赤になっていた鈴木さんの姿を頭の中でぐるぐると反芻する。


ブブッ、とポケットの中のスマホが短く震えた。

取り出して画面を見ると、メッセージアプリの通知が来ている。

アイコンは、無表情な猫のイラスト。鈴木さんからだ。


『今日は母がうるさくてごめん。でも、楽しかった』


短い文章だが、帰りがけに玄関で見せてくれた真っ赤な顔を思い出すと、なんだか文字の向こうで彼女が少し照れているような気がしてくる。

俺は寝返りを打ってうつ伏せになり、キーボードをタップした。


『こっちこそご馳走様。飯、めちゃくちゃ美味かったよ』


すぐに既読がつき、返信が返ってくる。


『……明日、暇? また本読みに遊びに行ってもいい?』


昨日の今日で、また俺の部屋に?

嬉しいような、でもどう接していいか分からないような複雑な気分になりつつ、俺は返信を打つ。


『午前中はバイトだけど、午後なら全然いいよ。まだ読んでないシリーズもあるしな。ただ、連日男の部屋に行って、親御さん的に大丈夫なのか?』

『遅くならなければいいって。佐藤くんなら安心だからって言ってた』


安心って、どういう意味だ。

俺に男としての魅力がないと思われているのか、それとも別の意味での信頼なのか。

一人で勝手にドギマギしながらも、俺は『じゃあ明日、待ってる』とだけ返してスマホを閉じた。

とにかく、明日も彼女が来るなら準備が必要だ。

俺は財布だけを掴み、夜のコンビニへと向かった。

少し多めのジュースと、ポテトチップスやチョコレートなどのお菓子をカゴに入れながら、自分が少し浮かれていることに気づいて、ため息を吐いた。


翌日、日曜日。

俺は昨日と同じように、一階の『カフェ・シュガー』で九時からバイトに入っていた。

休日のカフェは、昨日とは打って変わって朝から忙しかった。

モーニング目当ての客や、遅めの朝食をとる家族連れなどで席が次々と埋まっていく。


「ごめん渉、11番テーブルにブレンド二つ追加ね!」

「了解です、薫さん!」


カウンターの中とフロアを慌ただしく行き来しているうちに、時計の針は午前十一時を回っていた。

カランカラン、とドアベルが鳴り、俺は「いらっしゃいませ」と声をかけて入り口へ振り向く。


そこに立っていたのは、昨日とはまた違うテイストの、クールで大人びた私服を着こなす鈴木さんだった。

袖がダボッとしたシルエットの、少し目を引くデザインの柄シャツ。

ボトムスは、深いスリットの入ったロングスカートに見えるが、歩くたびに内側の黒いショートパンツが覗く『スリットスカパン』というやつだ。

足元は昨日と同じ黒のショートブーツで締めている。


(……結構、服の種類持ってるんだな。昨日とはまた違うけど、これも可愛い服……めっちゃ似合ってるじゃん)


俺は小さく息を呑みながら、思わずその姿に見惚れてしまった。

特に、彼女が歩くたびにスリットからチラチラと見える、白くて細い生足。

目のやり場に困ると分かっているのに、綺麗だと思ってしまい、つい目で追ってしまいそうになる。


「……おはよう、佐藤くん」

「お、おう。いらっしゃい。今日も窓際でいいか?」

「……うん」


案内しながら、ふと彼女が肩に下げているキャンバス地のトートバッグが、昨日よりも明らかに大きいことに気がついた。

(……なんかデカいな。まだ読んでないラノベでも大量に入れてきたのかな)

そんなことを思いつつ、俺は水を出して仕事に戻った。

昨日よりも忙しかったおかげで、彼女の姿をチラチラと見ながらも、なんとかバイトに集中することができた。


やがて十二時になり、俺のシフトが終わる。


「ごめんね渉、今日はお昼もバタバタしそうで、まかない作ってる余裕がないわ!」

「いえ、大丈夫です。お疲れ様でした!」


更衣室で私服に着替え、俺は窓際で待つ鈴木さんのところへ向かった。


「……終わった?」

「ああ。ごめん、今日は忙しくてまかない出ないらしい。近くのコンビニで昼飯買ってから、俺の部屋行こうぜ」

「……了解」


二人で店を出て、近くのコンビニへ向かう。

「佐藤くん、何食べるの?」と聞かれ、「俺はガッツリ弁当かな」と答えると、鈴木さんはサラダと小さなパスタを手に取った。

日常感のある他愛もない会話。

同じクラスの女子と、休日の昼にコンビニで弁当を選んでいるという状況が、どうしようもなくくすぐったい。


買い出しを終え、外階段を上って俺の部屋へと入る。


「……お邪魔します」

「適当に座ってて。手洗ってくるから」


俺が洗面所で手を洗い、リビングに戻ってローテーブルにお弁当を広げていると、鈴木さんは部屋の隅に立ったまま、持ってきた大きなトートバッグを抱えて少しモジモジしていた。


「ん? どうした? 座らないのか」

「……佐藤くん」


鈴木さんが、少しだけ上目遣いで俺を見る。


「……これ、言っていいか分からないんだけど」

「なんだよ、改まって」

「……私、家に帰ったら、まず部屋着に着替える派なんだよね。私服って、ずっと着てると疲れちゃうから」

「あー、分かる。俺も一人でいる時は、基本スウェットとかTシャツだし」


俺が同意すると、鈴木さんはバッグの口をギュッと握りしめ、少しだけ頬を赤くして言葉を続けた。


「……ここは佐藤くんの家だけど。もっと落ち着いて、リラックスして本を読みたいから……部屋着、持ってきたの。着替えてもいい?」


「はっ?」


俺は間抜けな声を出してしまった。

大きなバッグの中身は、大量のラノベではなく『部屋着』だったのだ。

他人の家、それも男子高校生の部屋で、リラックスするために部屋着に着替える?

俺の脳内で処理が追いつかないうちに、鈴木さんはさらに追撃を放ってきた。


「……なんなら、毎回持ってくるのかさばるから、ここに置いていってもいいかな?」


「…………っ!?」


ここに、部屋着を、置いていく。

それってつまり、世間一般で言うところの『半同棲』の第一歩、あるいは強烈な『テリトリーへのマーキング』というやつではないのか。

俺の頭の中に警報が鳴り響く。


だが、目の前で「……だめ?」と不安そうに俺を見つめる彼女の表情を見ると、断るという選択肢は俺の中から綺麗に消え去ってしまった。


「お、おう。……全然、いいよ。脱衣所、使って」

「……ありがとう。着替えてくる」


鈴木さんは小さく微笑み、バッグを持って洗面所と繋がる脱衣所へと消えていった。


パタン、と扉が閉まる音を聞きながら、俺はその場で立ち尽くしてしまった。

心臓の音がうるさい。

俺の部屋の中に、完全に彼女の『居場所』が作られてしまった。


俺の平穏だったモブの部屋は、どうやら確実に、クーデレなヒロインに侵略されつつあるようだった。

第22話をお読みいただき、ありがとうございました。

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