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モブの俺たちが主役カップルを裏工作でくっつけようとした結果、なぜか俺と相棒のクーデレ女子の距離がバグり始めている  作者: 比津磁界


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第21話:賑やかな食卓と、ダウナー女子の秘密

鈴木家の明るく広いダイニングテーブルには、豚肉の生姜焼き、ポテトサラダ、ほうれん草のお浸し、そして湯気を立てるお豆腐のお味噌汁といった、いかにも『家庭の夕食』といったおかずが並べられていた。


「さあ、遠慮しないでたくさん食べてね。男の子はご飯おかわりするでしょ?

おひつ、そこに置いておくからね」


お母さんがニコニコと笑いながら、俺の目の前に大盛りご飯のお茶碗を置いてくれた。

俺は借りてきた猫のように背筋を伸ばし、鈴木さんとお母さんに向かって深く頭を下げた。


「あの、本当にすみません。送ってきただけなのに、突然お邪魔してしまって……。いただきます」


箸を手に取り、まずは豚肉の生姜焼きを一口食べる。

甘辛いタレがしっかりと絡んだ柔らかい豚肉が、白いご飯を無限に欲する味だった。

めちゃくちゃ美味い。


「……っ、美味しいです。すごく」

「本当? よかったー! 一人暮らしだと、こういう普通の定食みたいなご飯、なかなか作らないでしょう?」

「そうですね。基本はスーパーの弁当か、自分で作っても肉を適当に炒めるくらいなので……こういうちゃんとした温かいご飯、久しぶりに食べました」


俺が素直に感想を伝えると、お母さんは嬉しそうに目を細めた。

向かいの席に座る鈴木さん(家では『さやか』と呼ばれているらしい)は、どこか居心地が悪そうに、黙々と箸を動かしている。


「佐藤くん、遠慮せずどんどん食べてね。……それにしても、おばさん本当にびっくりしちゃった。彩が男の子を連れてくるなんて、今日が初めてだったから」


お母さんが、ふと何気ないトーンでそんなことを言った。


「えっ」

「……っ! お母さん!」


俺が驚いて顔を上げると、鈴木さんがガタンと椅子を鳴らして身を乗り出し、お母さんを鋭く睨みつけた。

いつものダウナーで感情の薄い表情はどこへやら、その顔はほんのりと赤く染まっている。


「あら、本当のことじゃない。この子、小さい頃からずっと読書ばっかりしてて。休みの日は自分の部屋に引きこもって本を読んでるか、図書室に行くかくらいでね。お友達を家に連れてくること自体、今まで一度もなかったのよ?」

「い、言わなくていいそういうことは! 今日は、ただ夜遅くなったから、家まで送ってもらっただけだから……っ!」

「あらそう? でも、今日の朝なんてすごかったのよ佐藤くん。この子、お出かけする前にクローゼットの前で一時間も服をひっぱり出して悩んでたのよ?」


お母さんの容赦ない暴露に、鈴木さんは両手で顔を覆い、テーブルに突っ伏してしまった。


俺は持っていたお箸を止めて、パチパチと瞬きをした。

クローゼットの前で、一時間。

カフェで初めて見た時、あまりのギャップに俺が見惚れてしまったあの私服は、彼女が一時間もクローゼットの前で悩み抜いて選んでくれたものだったのか。


「……お母さん、もうやめて。お願いだから喋らないで」


テーブルに突っ伏したままの鈴木さんから、くぐもった声が返ってくる。

しかし、お母さんの口撃はこれだけで終わらなかった。


「ごめんごめん、お母さん嬉しくてついね。だって最近、彩が家でぽつぽつと佐藤くんの話をするようになったから。……『同じ本を読んでる面白い子がいる』って。だから、どんな子だろうってずっと思ってたのよ」

「……っ!!」


ついに鈴木さんがガバッと顔を上げ、涙目で悲鳴のような声を上げた。

俺は心臓が早鐘のように鳴っているのを必死に隠しながら、なんとか平常心を保とうとしていたが、おそらく顔には出まくっていただろう。


『同じ本を読んでる面白い子がいる』と、家で親に話す。

俺の部屋に来るために、一時間も服に悩む。


俺はどこにでもいる、ただのモブだ。

主人公とヒロインのラブコメを、安全な特等席から眺めてニヤニヤしているだけの裏方だ。

俺自身にラブコメの展開なんて、来るはずがない。

でも、こんな風に服を悩んでくれたり、家で俺の話をしてくれていたりしたと知ったら……俺だって、勘違いしそうになる。

いや、もう半分くらい勘違いしているかもしれない。

目の前にいるこの可愛い女の子のことを、ただの「同志」として見れなくなりそうな自分がいた。


「だからね、佐藤くん。彩のこと、これからも仲良くしてやってね。ちょっと不器用だけど、いい子だから」

「……はい。俺の方こそ、鈴木さん……彩さんには、学校でいつも楽しく話してもらってて、感謝してるんです。これからも、仲良くさせてもらいます」


俺が真っ直ぐにお母さんの目を見てそう答えると、お母さんは「ふふっ」と安心したように笑った。

向かいの鈴木さんは、耳まで真っ赤にして、もう完全に顔を隠してしまっている。


その後の食事は、お母さんがテレビの話題などを振ってくれたおかげで、和やかなものになった。

ただ、俺と鈴木さんの間には、これまでにないむず痒いような緊張感が漂い続けていたが。


やがて食事が終わり、俺は帰り支度をして玄関へと向かった。


「佐藤くん、今日は本当に来てくれてありがとうね。またいつでもご飯食べにいらっしゃい!」

「こちらこそ、突然だったのに本当にご馳走様でした。……すごく、美味しかったです」


お母さんは「じゃあ、気をつけて帰ってね」とウインクを一つ残し、気を利かせたのか、サッとリビングの奥へと戻っていった。


静かになった玄関。

俺と鈴木さん、二人だけが残された。


鈴木さんは玄関に立ったまま、うつむいて、両手で黒いジャケットの裾をギュッと握りしめている。


「……今日は。母が、変なことばっかり言って。……ごめん」


消え入りそうな声で、鈴木さんが謝った。

顔が真っ赤なのが、薄暗い玄関でもよく分かる。クールで大人びて見えた彼女の、年相応の女の子らしい隙だらけの姿だった。


俺は少しだけ迷ってから、小さく息を吐き、彼女に向き直った。


「謝ることないよ。……ご飯、本当に美味しかった。あんなに賑やかで温かいご飯、久しぶりだったからさ」

「……うん」

「それと」


俺は自分の心臓の音を無視して、言葉を続けた。


「……今日の服、すごく似合ってて可愛かったよ。カフェで見た時、びっくりした」


俺がそう言うと、鈴木さんはビクッと肩を跳ねさせ、バッと顔を上げた。

メガネの奥の瞳が潤み、瞬きを繰り返している。

そして彼女は、今日一番の真っ赤な顔をして、片手で口元を覆い隠してしまった。


「……ありがと…バカ」


指の隙間から漏れたその小さな声は、いつも一緒に読んでいるラノベのヒロインみたいで、俺の胸の奥をギュッと締め付けた。


「……あとで、連絡、するから」

「おう。待ってる。……おやすみ」

「……うん。おやすみ」


俺は逃げるように鈴木さんの家を後にした。

春の夜風が、火照った頬に冷たくて気持ちいい。

夜の閑静な住宅街を一人で歩きながら、俺は大きく息を吐き出した。


俺たちはただのモブで、同志のはずだった。

主人公たちのラブコメを安全な場所から見守るのが俺たちの役割で、それだけで十分楽しかった。

それなのに。


「……もしかして、俺にも……?」


誰に聞かせるわけでもなく呟いた俺の日常は、向かいのマンションの二人以上に、予想もつかない方向へと動き出そうとしていた。

第21話をお読みいただき、ありがとうございました。

「俺はモブなのに……?」と戸惑いつつも、鈴木さんを意識し始める渉。

見守る側だったモブ二人の関係が、これからどう変わっていくのか。

少しでも「ニヤニヤした!」「鈴木さん可愛い!」と思っていただけましたら、下部の【☆☆☆☆☆】から応援していただけると嬉しいです!


次回もよろしくお願いいたします!

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I think this is awesome story, very romantic
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