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モブの俺たちが主役カップルを裏工作でくっつけようとした結果、なぜか俺と相棒のクーデレ女子の距離がバグり始めている  作者: 比津磁界


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第20話:夕暮れの帰り道と、予期せぬ食卓

「……もう、こんな時間」


鈴木さんがふと顔を上げ、スマホの画面を確認して呟いた。

時計を見ると、もう十八時を回っている。

四月の終わりとはいえ、この時間になると外はすっかり暗くなり、窓の外には向かいのマンションの明かりが点々と灯り始めていた。


「ああ、話しすぎたな。……鈴木さん、送るよ。この辺、街灯は多いけど、夜に女子一人は危ないし」


俺がそう提案すると、鈴木さんは少し驚いたように目を丸くして、それから小さく頷いた。


「……ありがとう。助かる」


彼女は再び黒のジャケットを羽織り、カバンを持った。俺も上着を掴み、二人で部屋を出る。

階段を降りる際、一階の『カフェ・シュガー』からは、晩飯時を楽しむ客の声と、食器の触れ合う音が漏れ聞こえていた。


外の空気は、昼間の暖かさが嘘のように冷え込んでいる。

俺たちは並んで、鈴木さんの家がある方向へと歩き出した。

アパート周辺の賑やかなエリアを抜け、閑静な住宅街へと入っていくと、周囲はより一層静まり返った。


「……佐藤くん」

「ん?」

「……今日は、楽しかった。あんなに誰かとラノベの話をしたの、初めてだったから」

「俺もだよ。学校だと、どうしても周りの目が気になってあんまり大声で話せないからな。……また、いつでも来いよ。読み逃してる巻、まだまだあるだろ?」

「……うん。絶対、また行く」


鈴木さんは、ジャケットのポケットに手を突っ込みながら、少しだけ歩幅を狭めて歩いている。

街灯の下を通るたび、彼女の短い影が俺の影と重なっては離れていく。

そんな何気ない光景に、俺は少しだけ落ち着かない気分になっていた。

なんだろう、この帰り道の独特な雰囲気は。ただの友達を送っているだけなのに、妙に意識してしまう。


やがて、大きな門構えの一軒家の前に辿り着いた。

手入れの行き届いた庭のある、いかにも立派な家だ。


「ここか。……でかい家だな」

「……ただいま。……佐藤くん、送ってくれてありがとう。また、月曜日に」


鈴木さんが軽く手を挙げ、別れの言葉を口にした、その時だった。

ガチャリ、と重厚な玄関のドアが内側から開いた。


「あら、さやか! おかえりなさい」


中から現れたのは、エプロン姿の女性――鈴木さんのお母さんだった。

お母さんは、門の前に立つ俺たちの姿を見つけると、目を丸くしてパァッと顔を輝かせた。


「あらっ!? もしかして、お友達?」

「……あ、うん。クラスメイトの、佐藤くん」

「初めまして、佐藤渉と申します。遅い時間に失礼しました」


俺は慌てて頭を下げた。

まさか家まで送ってきて、親御さんとエンカウントするとは思わなかった。


「佐藤くん! 彩が男の子を連れてくるなんて珍しいわね! 立ち話もなんだし、さあ、中に入って!」

「いえ! さすがにそんな、お邪魔するわけには……」

「いいのいいの! 実はね、今日はお父さんが急な出張でいないのに、いつもの癖で家族分もご飯作っちゃって困ってたのよ! よかったら食べていかない?」


鈴木さんのお母さんは、ものすごい勢いで俺を勧誘してくる。

このグイグイくる感じ、ダウナーな鈴木さんとは正反対だ。


「でも、俺、一人暮らしなので、家の冷蔵庫にあるもので適当に済ませますし……」

「えっ!? 佐藤くん、高校生で一人暮らしなの!? それは偉いわね! だったらなおさら、たまにはちゃんとした家庭料理を食べなきゃダメよ! 」


お母さんの勢いに圧倒され、俺は鈴木さんに助けを求めるような視線を送った。

『ちょっと、お母さん止めてくれよ』と目で訴える。

だが、当の鈴木さんは、母親を止めるどころか、俺のパーカーの袖を、指先で小さくキュッと掴んだ。


「……佐藤くん」


メガネの奥の瞳が、じっと俺を見上げる。


「……一人で食べるより、一緒に食べた方が、美味しいと思う。……私の家のご飯、食べていってほしい」


その、控えめだけど真っ直ぐな誘い文句に、俺は一瞬言葉に詰まってしまった。

こんな風に頼まれて、断れる男子高校生がいるだろうか。いや、いない。


「…………じゃあ、お言葉に甘えて。お邪魔します」

「やった! 彩、早く佐藤くんをリビングに案内して! すぐに温め直すからね!」


お母さんは弾んだ声でキッチンへと消えていった。

俺は、なんだか流されるまま、鈴木さんの家の玄関をくぐった。


「……佐藤くん。……母がうるさくて、ごめん」

「いや、いいよ。……賑やかで、楽しそうなお母さんだな」


鈴木さんの家のリビングからは、美味しそうなおかずの匂いが漂ってきている。

一人暮らしのアパートでは決して味わえない、家庭の温もり。

俺は靴を脱ぎながら、ただの「同志」だったはずの俺たちの関係が、ほんの少しだけ別の方向へ進み始めているような、そんな予感を感じていた。

第20話をお読みいただき、ありがとうございました。


到着した先で待ち受けていたのは、とてもパワフルな鈴木さんのお母さんでした!

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― 新着の感想 ―
外堀から徐々にって感じですね! 自認モブの主人公達のこれからが楽しみです!
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