第099話 過去への誘い
■クリスタニア大陸 パスティア平原 ガルシア・アルタイル将軍
「……すげえ…」
「……ああ…」
「アッという間でしたわね。」
それにしても圧倒的だった。あの魔人は強かったのに、その敵に何もさせなかった。一瞬の光が煌くように伸びこの世界を断裂するように空間に歪みが発生した。俺は、こんな凄い冒険者を見た事がない。才能という言葉で片づけられる問題ではない。何かが違う…そう何かが…その何かが俺とアルフォード君の違いなのだが、その何が分からないし、埋められない差なのだろう。この世界は競争社会だ。強い者は英雄として祭り上げられ、多くの国で魔人や魔物の対抗手段として雇われる。
もしかしたら、俺はこの世界を平和にするかもしれない男と一緒に戦ったのではないだろうか。もしかしたらこの戦いがその一歩かもしれない。俺の気持ちは昂揚感に満ち溢れている。俺は歴史の一幕に立ち会えたのではないだろうか。なんだか自分が倒した訳でもないのに、この誇らしい気持ちが湧きあがってきている。勝てるかもしれないと思った瞬間の勝利に対する欲…そして、敗北した時の絶望感を経て、今の気持ちに辿りついた。何とも不思議な感じだ。
■クリスタニア大陸 パスティア平原 アルフォード・ウィンザー(◆ゼクス・ウィンザーの意思)
「さて、アルフォードよ。心の声は聞こえるか。」
『はい。』
「魔人の動きを封じれば簡単に倒せる。耐性は見える者もいれば隠している者もいる。見せている者は注意が必要だ。角やクリスタルは便利な反面、弱点にもなる。魔人の角は魔力の源でもある。あいつは、今まで負けた事が無かったのだろうな。弱点を晒しても平然としていた。多分だが、知らなかったのだろうな。」
『……』
「まあ、お前も魔人のクリスタルについて知らない事が有るようだ。それに過去のお前ならこんなミスは犯していない。記憶が無い事が問題なのは、俺も理解しているからこの件は不問とする。魔人のクリスタルは弱点になるが、体力を回復したり、暴走したりと便利なのだ。ましてや複数の超越者を相手にしなければならない魔人にとって、弱点を晒すリスクより、回復や強攻撃の態勢を何時でも取れるように備えていたのだろう。その備えをしている者に、視界を何度も奪われるような戦いをしていた。その事は反省しろ…そして、同じ事を繰り返すな…分かったな。」
『はい。それで、教えてほしい事があります。』
「…なんだ…」
『僕は誰と戦ったのでしょう。』
「俺は話さないぞ。いや、話さない方が良いというべきかもしれない。これからお前は過去の記憶に会いに行けばいい。そこで、分かるだろう。」
『でも、僕は何度も敗れています。それによって誰かが迷惑を…』
「…俺が、ここで話さないのは、それが原因だ。だが、お前が敗れた原因は、お前の力が下だからではない。どちらかと言えばお前の方が強かった。原因はお前自身なのだ。」
『僕自身…』
「ああ。そして、それが原因でお前は記憶を無くしていると思う。そろそろ、自分の殻に閉じこもらずに自分自身の気持ちに決着をすべき時だと思うぞ。」
『…僕自身で決着ですか。』
「ああ。これは、お前自身が乗り越えなければならない事なのだ。そして、この事を受け止めなければならない事なのだ。多分、辛い事が多いだろう。それでも、受け入れろ。そして、楽にしてやれ…」
『では、戦いは過去の中で整理をします。では、継承したクリスタルについて教えて下さい。』
「クリスタルの継承か…お前の母ローラに聞いたらどうか。詳しくは冒険者より、研究者の方が良いと思うぞ。ローラやグラディは、人間の寿命では、強くなっても冒険者としてのピークが過ぎてしまうという懸念を持っていた。だから、その力を継承しようとプロジェクトを立ち上げていた。俺が知るのはその程度だ。」
『母に聞くのですか…』
「ああ。お前は聖域に行って、グラディから何も聞いていないのか。家族の事は…」
『母やマックス兄さんが死んだ事は知っていると言っていました。』
「なぜ、知っていると思う。」
『…』
「肩の痣は、契約の印でもある。死ねば…うーん。死んだ事になるか分からないが、肉体が滅びても精神として生きる事が出来る存在がいる。それがクリスタルの継承だ。その契約がお前の母や兄にも施されている。あの聖域に、我々が死ねばクリスタルとして戻ってくるのだ。だから、そのクリスタルから聞けばいい。」
『…そういう事ですか。だから知っていたと…』
「そうだろうな。だから、母のクリスタルから聞けばいい。」
『でも、僕の記憶は見る事は出来ますが、聞くことは出来ないと思います。それに、グラディさんやエリシオさんは僕にその事を隠していました。まだ、その時では無いと…』
「確かに、記憶の中では無理だろう。でも、聖域は現代にもあるのだ。そこで聞けばよかろう。」
『…!ですが、その場所が分かりません。僕の家は…』
「ユーレリア大陸に行けばいいさ。そして、お前の痕跡を探せばいい。それにお前の家はユーレリア大陸ではないぞ。多分だが、強制転移で、ユーレリアに飛ばされたのだろう。」
『…!』
「お前自身が、過去の記憶の総てを受け入れれば、この大陸を平和にする旅にでる。そして、一つ、一つの大陸を平和にすれば見えてくるさ。俺は、お前を信じている。この記憶から全てを受け入れる事を…」
『では、記憶の干渉を受けてみたいと思います。』
「それがいい。それに、このクリスタニア大陸の魔人を全て倒したのだ。凱旋して、皆と喜びを分かち合えばいい。それが出来る事も勇敢に戦った者の特権だ。自分でそれを主張せず、周りがそう動いてくれるならそれを素直に受ける事も必要だ。それが輪になり、お前自身の人生を豊かにしてくれる筈だ。」
『はい。そうします。』
「そうだ。駆け出しの勇者よ…ほら、共に戦った者たちが来たぞ。喜びを分かち合え。」
『はい。』
すいません。第8章のタイトルを変更しました。このまま記憶の中に入ると長くなりそうなので、魔人との戦いとその報告で区切りたいと思います。




