第069話 力の均衡
■クリスタニア大陸 王都ロックハルト シャロン家 アルフォード・ウィンザー
僕は部屋にいる…どうもこのような場所は落ち着かない。僕にはこのような生活は快適というより窮屈に感じるのは昔の記憶がどこかにあるからだろう。僕は、農作業小屋に寝泊まりしていた。いわば貧乏だったのだ…でも、今は金持ちでもある。そういう意味では、冒険者というのは一攫千金を狙える夢のある仕事のように感じるが、命がけの仕事だ。そういえば、前にギルドの調査官も言っていたな。そうするとお手伝いさんから夕食の準備が出来ましたと言われて、食事をするところに案内された。
テーブルには、僕を持て成してくれたのか、それともこれが普通の食事なのかは定かではないが、豪華な食事が並べられている。そこには当主と思われる人がいた。この人がマリーさんのお父さんなのだろう。そう思うと少し緊張した。テーブルの近くに行くとお手伝いさんが座る場所を指定してきた。そこに行くと椅子を少しだけ引いてくれる。僕はその席に座った。
「初めまして、私が、この家の当主のオスカル・シャロンと申します。」
『初めまして、私はアルフォード・ウィンザーと申します。突然、お邪魔して申し訳ありません。』
「そう、緊張しないで下さい。アルフォード君は、凄腕の冒険者と聞きましたが、そういう風には見えませんね。冒険者もランクが上がると、礼儀というものを弁えない人も多くなります。このように穏やかに話す冒険者に会うのは記憶にありませんよ。」
『僕は、前の記憶がありません。それに、自分自身が凄腕の冒険者という認識に欠けている部分もあると思います。』
「話は、娘のマリーから聞いています。命を助けて頂いたと…」
『それは偶然です。』
「でも、魔人との戦闘でも何度も攻撃を受けてくれたと…それも偶然ですか…」
『…何と答えれば良いのか。でも、それは僕の心の赴くままの行動です。結果的に助けたというものですから…』
「そうですか。強くなると、得てしてそういう気持ちを失うものです。」
『それより、私はマリーさんにはお世話になっておりますが…リーファさんとは上手くいっておりません。その事は聞いていませんか?』
「まあ、あの子は負けず嫌いで、正義感は強い。そういう事で、同い年の者に遅れと取った事に納得が行かないのでしょう。それも、受けいれなければこの先の成長は見込めないのですがね。」
『その事は助言しないのですか?』
「それを学ぶのが学園での生活です。大人が総てを教えるのではいけません。肌で感じる事も時には必要なのですよ。それが、後に生きてくる。そうではありませんか?」
『今の僕には難しいですが、そうかも知れませんね。』
「アルフォード君に聞きたい事があります。」
『何でしょう。』
「魔人の事です。」
『魔人?』
「アルフォード君は、魔人の砦というものが有る事を知っていますか?」
『知りません。初めて聞きました。』
「我々は、その魔人の砦というものを監視しています。それで、最近ですが動きが活発になっている。そして、魔人は魔物を使って、町を探している。当然ですが、敵もロックハルトの位置をある程度は把握していると思います。」
『それで、参事官はクリスタニアが魔人に襲われる時期を掴んでいたのですね。』
「その通りです。そして、魔人の砦にいた3体の魔人のうち2体を君が撃退してくれた。君がもし、この国を預かる者であったらどうしますか。」
『…』
「答えてはくれないのですか…」
『色々な意見が有ると思います。でも、戦えば町にも影響が出ます。その影響を受けるのは常に力の無い者です。戦える者は、力の無い者の事を考えないで行動する。それは非常に危険です。』
「力の無い者の事か…今までは、3体の魔人がいた。だから砦を襲う事が出来なかった。しかし、力のバランスが崩れた。こちらも攻め込める状況になった。あと、1体の魔人を倒せば、大きな脅威は無くなる。」
『…私は、無責任な言葉は言えません。それで、犠牲が出るのに耐えられないのです。僕はそこまで心が強くありません。そして、クリスタニアの町で復興を手伝いましたが、町の人には辛い傷跡が残ったような気がします。』
「王都では、今話した事が問題になっている。今までは守る側だった。それが攻められる側になった。その意見を封じることは非常に大変な事なのです。」
『王都には、それだけの戦力が有るのですか?』
「有ると思っています。超越者は10人いる。」
『その中で光属性や闇属性を使える者はいますか。』
「光属性と闇属性?」
『はい。魔人に対抗出来るのは、超越者だけでは不足なのです。光と暗の属性をコントロールする力が必要なのです。』
「アルフォード君は、魔人の秘密を握っているのですか…」
『クリスタニアの冒険者ギルドに魔人と戦った時の事を纏めて報告しています。冒険者ギルドから情報は来ていますか?』
「…まだ、来ていませんね…」
『そうですか…』
僕は、冒険者ギルドに出した時の報告書に書いてある事を話した。
「そんな事が…有意義な情報です。ありがとう。」
『いいえ…』
僕は、この時に何か違和感を覚えた。この感覚は何が原因なのだろうか…




