第052話 記憶の間(その3:綻びの始まり)
■クリスタルの記憶 アルフォード・ウィンザー(4歳)
夢ではなかった。僕たち兄弟は、藁がしまってある小屋の中で朝を迎えた。僕は、兄の体の状態を確認する。兄の眼は真っ赤に充血している。そして、憔悴している。おでこに手を当てると少し熱があるように感じだ。憔悴しているのは兄だけではない。僕も同じだろう…。気持ちが沈んでいるが、現状では嘆いていても始まらない。この場所が何処なのか。そして、食糧の確保を優先しなければならない。出来れば兄の薬も有ればいう事は無いが、そこまで贅沢は言えない。今の僕たちは、無一文なのだから…
ここは、小さい田舎町のようだ。僕たちが転がりこんだのは、農業地帯にある農作業の小屋。ここにも何時までも居られるか分からない。それに気になる事がある。僕たちの家族を殺した人間の目的は何だったのだろうか。僕たちは、あの男に追われているのか。追われていたのか。あの男の声が体の中で響いた。裏切り者と母に言った言葉だ。つまり、あの男と母さんは面識が有ったという事だ。どこで、分からない。今は違う事を考えよう。まずは食糧の確保だ。どうすれば良いのだろう。今までは、母さんが用意してくれた物を食べていただけだった。自分で用意した事など無い。
町を歩いていると食事の匂いが…何処だろうか…そうすると一軒の宿屋についた…僕は宿屋に入って、宿屋の店主らしい人に聞いた。ここは何処なのかと…
『すいません。ここは何ていう町なのでしょう。』
「見かけない坊主だな…ここか、ここはユーレリア大陸の田舎町でエリオットだ…」
「エリオット…」
聞いた事も無い町だ…そういえば、僕が住んでいた場所の名前もしらない。そういえば、僕は町に住んでいなかった。なぜ…?山の近くに1件だけ家があった…僕たちが住んでいた場所からここは離れているのだろうか?
『すいません。僕の様な者でも働ける所はありますか…』
「おいおい…お前は何歳だ…親だどうした…」
僕は、宿屋の亭主さんに事情を説明した。
「そうか…でもな、坊主のような子供が働ける所なんて何処にもないぞ…」
『何でもします。僕をここで雇って貰えないでしょうか…』
「坊主…無理を言うなよ…」
「無理を言ってすいません。」
そういって、宿を出ようとした時だった…
「分かった。雇ってやる。その代りお金はたいして払えないぞ。お前とお前の兄を見るくらいのものしか出せない。それでいいか…」
「ありがとうございます。」
僕は、働く場所とその日の食糧を確保するために働く事になった。働くと言っても、店主さんは優しい人でお手伝いの範囲だった。店主さんは、僕に教会がある町に行けば、預かってくれる施設もあると言ってくれたが、このエリオットの町にそのような施設は無いとの事だ…周りを見ても子供なんて居なかった。その事を聞くと、このユーレリア大陸は屈強な戦士団が多い。そして、敵もかなり強い。そして、宗教がらみの人と人との戦いもあるようだ。この町はそんな戦場に近い町という話だ。戦いをサポートするための町なので、危険な場所に子供は殆どいないとの事だった。
あれから1カ月が経過した。僕は宿で働いていた。そのため、食べる事は問題なかった。住んでいる場所は、相変わらずだったが…。最近、兄さんの元気が無くなってきたのが顕著に分かる。薬も何とか買っているが、効果が無いように思えた。このままでは、兄の身に何があってもおかしくない。町の医者に見せても、結果は分からなかった。ただ、不思議な事を言っている。彼は強すぎる力のために、自分で自分の肉体を壊していると…。
僕も、兄も希望石を融合されたいる。それは、僕が冒険者だからではない。つまり、これから戦わせるという事なのか。もしかしたら、健康の維持のためなのか。僕は、兄の健康状況を維持する方法を思いついた。つまりは、母が行っていたように希望石を融合させる事だ。でも、それには危険が伴う事になる。戦闘か…果たして、僕に戦う事が出来るのだろうか…
あれから3日が経った。僕は戦うか迷っている。でも、このままでは、唯一の家族を失う事になる。僕は、町で冒険者ギルドを探したが、この町にはギルドは無かった。もともと、サポートをするための簡易な村が成長して、小さい町になったからだという。
■クリスタルの記憶 アルフォード・ウィンザー(15歳)
僕は、4歳のアルフォードを見ていた。彼は戦う事で兄を救う事を考えている。そして、彼は気が付いた。冒険者になる事を…。この町に冒険者ギルドは無かった。僕は安堵したのもつかの間だった。闇の武器商人が冒険者を斡旋している。僕は、ここがユーレリア大陸の戦場付近である事からこの町で登録したと思った。でも違った。闇の武器商人に登録を通じたのだ。正規のルートではない裏のルートでだ…
お前は、どこまで落ちるのか。落ちる所まで落ちれば後は這い上がるだけと思いたい。そうであってほしい。これからの彼に一抹の不安を感じた。




