第050話 記憶の間(その1:違和感)
■クリスタニア クリスタニア学園 医務室 グレース・リングバルト
魔人との死闘から1日が経過している。魔人…噂に違わぬ強さを持っていた。アルフォード君の強さも…私の想像を遥かに超えていた。私が…いえ、この町、この学園が存続しているのは、彼のお蔭だろう。その彼が瀕死の重傷を負って、生死の境を彷徨っているのに、何も出来ないでいる。いや…私も、理事長も限界まで回復魔法を施した…それなのに…後は、彼の生命力にかかっている。彼は、さっきから魘されている。彼はまだ戦っているのだろう…うわ言のように効いていない…効いていないと叫んでいる。きっと、魔人との戦いの中で、恐怖し、絶望し、更に痛みを耐えていたのだろう。それでも彼は、他人に弱みを見せなかった。それどころか、総てを守る事が責務のように魔人の攻撃を一手に引き受けた。
私は、あの戦いの最後を思い出した…最後に現れた竜の事を…アルフォード君が掲げた鱗から現れた…そして、あの光は聖なる光を宿していた…あれが有れば…私は、彼のポケットを探ると2枚の鱗があった。それには、魔力が込められている。そして、その鱗を彼の両手に持たせた。暗黒闘気の技は、聖なる光が必要…彼を助けるには光属性が必要だった…
私は、医務室で彼を看ている。そして、気付かないうちに寝てしまった。
■クリスタニア クリスタニア学園 医務室 きまぐれな女神
光を感じる…私は、それを吸収した。坊やはどうしたかしら…あの戦いは…彼を感じた時に、生命が弱くなっている。私は再び、光を増幅して彼に纏わせた。これなら問題ない…しかし、彼からはゼクスを感じる…彼は一体何者なのか…私は彼が何者なのかを探るべく、クリスタルの記憶にコンタクトを取った。
■クリスタルの記憶 きまぐれな女神
暖かい光に包まれている。僕は死んだのか…ここは何処なのだろう…そうすると声が聞こえた。
「クリスタルの記憶の中よ…」
『誰…』
「きまぐれな女神…もう忘れたの…」
『女神…ああ…覚えていますよ。助けてくれてありがとう。』
「今は、貴方の中で、あなたの記憶に干渉しています。迷惑ですか?」
『記憶に…どうして、女神さんが…』
「私は、あなたのクリスタルからゼクスの匂いを感じるのです…私はゼクスの指輪だった…彼が兄弟子であるアルタイドにプレゼントするまではね。」
『そうだったのですか。』
「そうなの…それで気になってね…私は、ゼクスにもアルタイドにも可愛がられたから…そんな人たちと関係した貴男に興味があるのよ…あなたは失われた記憶を知りたくはないの?」
『…』
「知る事が怖い…」
『そうですね…怖いです。私は前の戦いで敗れている。そして、その仲間がどうなってしまったのか…』
「どうする…干渉しない事も出来るのよ…」
『お願いします。僕には知らなくてはいけない理由があります。仲間が困っているなら助けなければ…』
「辛い事になるかもしれないわよ。」
『それでも知りたいと思います。』
「分かったわ…」
■クリスタルの記憶 アルフォード・ウィンザー(4歳)
『お父さん…お兄ちゃん…御帰り。』
「アルフォード…ただいま」「ただいま帰りました。」
「お帰りなさい…あなた…」
「ただいま…ローラ。」
この家には、父さん(フェリックス・ウィンザー)、母さん(ローラ・ウィンザー)、長男のマックス・ウィンザー、次男のキスリング・ウィンザー、三男のアルフォード・ウィンザー、長女のエミリー・ウィンザーの6人が暮らしている。
■クリスタルの記憶 アルフォード・ウィンザー(15歳)
何かおかしいなぁ…小さい僕を今の僕が見るのは…
父さんと兄さんは、魔物退治に行っていたようだ。お土産と言って、僕と弟に白い結晶をくれた。あれは希望石…なんでだろう。冒険者でもないのに希望石を渡すなんて…そうすると母親は次男のキスリングと僕を違う部屋に連れて行った。そして、兄と僕に希望石を融合した。母親は、白衣を着ている。まるでグレース先生の様だ…そして、僕の兄は病弱のようだ…苦しそうな表情をしている。希望石は、強さの源。鍛えた力ではないものだ…僕が強いのは自分自身が戦って得た力ではないのか…父さんや兄さんが戦って得たものを自分以外の者に与えている…どうしてそんな事をするのか…
おかしい…僕のインテリジェンスカードには5歳の時に戦場で登録したと書いてあった…それなのに、僕は既にクリスタルを持っている…どういう事だ…僕はこの時に、この先の出来事を想像出来なかった。でも、あの日記にあった4歳の時の出来事が記憶がある前の僕の人生を左右する中で大きいウエイトを占めている事を僕は知っている。この先に起こる出来事…そして、インテリジェンスカードの偽りの部分…そして、小さい子供に希望石を与えた両親…多くの謎が現れた。
僕は一体何者なのだろうか…僕は漠然とした不安に襲われた…でも、これがこれから始まる戦いの日々のほんの一コマに過ぎない事をこの時の僕は知らなかった。




