第026話 希望という名の重荷
■クリスタニア大陸 クリスタニア クリスタニア学園 3年 第2チーム会議室 アルフォード・ウィンザー
一通りの会話が終わった時に、マリーさんが真剣な顔をして話しかけてきた。それを見た僕は驚いた顔をしていたのだろう。マリーさんは一瞬戸惑った素振りを見せたが、僕にいろいろ質問をしてきた。
「さっき、屋上でアイオロス主任教官と話していた事を聞いてしまったのよ。」
『…』
「イーグル・スピリットって何。そして、魔人と戦うとは、どういう事なの。」
マリーさんの魔人という言葉に、チーム・マリーの全員は暗い影を落としている。そして、僕は話を聞かれたため、観念して戦士団のデータを渡した。会議室には映像を写し、チーム・マリーも全員が食い入る様に映像を見ている。戦いが終わって質問が来た。
「あなたは、この人たちと関係があるの。」
『関係があるかは記憶が無いので分かりません。ただ、このイーグル・スピリットにウィンザーという戦士が二人います。』
「同じ、名前があっても、関係があるとは言えないでしょ。」
『映像だけならそうですね。でも、僕には、彼と同じ剣と防具を所有しているのです。気絶して、この町に運ばれた時の荷物の中にありました。』
その答えを聞いた時に、チーム・マリーは驚愕な顔をしている。それだけ、魔人と戦う戦士団の人々が凄すぎたのだろう。憧れを抱く者もいれば、魔人に対して恐怖する者もいる。
「あの人たちが、持っていた武器は何なの。」
『クリスタルファングと呼ばれるものです。魔人には通常の武器は効き目がないと言われています。魔法と闘気でダメージを与えながら、勝負所で出す武器です。魔人を倒せる武器と言われています。』
「あれが、クリスタルファング。我々、新米の冒険者には関係のない話ね。初めて見たわ。この体に纏っている闘気みたいなものは何。」
『多分ですが、超越者になっている状況を示しているものだと思います。クリスタルファングを出す条件になると思います。僕も詳しくは分かりません。』
「魔人と戦うとは…」
『…』
「なぜ黙るの。」
チーム長の言葉が、会議室に響いた…
■クリスタニア大陸 クリスタニア クリスタニア学園 3年 第2チーム会議室 マリー・シャロン
世の中には、すごい冒険者がいたものね。この映像を見た時に、人がここまで強くなる事が想像出来ない自分がいた。しかし、現実に戦っている。魔人と戦える存在は知っていたけど、ここまで凄まじいとは思っても見なかった。
アルフォード君に質問をした。彼は自分の知っている事を話してくれたけど、最後の質問には答えなかった。私は、彼に再び質問をした。
「魔人がこの町を襲うのね。」
チームの全員の視線がアルフォード君に向いている。彼はそれでも無言でいた。でもそれが、全ての事実を伝えているようなものだ。この場にいる全ての者がそれを理解しただろう。
『…』
そして、5分か10分経過して、その重い口が観念したように話し出した。
『この事は、ここだけの話にして下さい。詳しい発表は学園や行政府からあるまで誰にも話さないとそういう約束が出来ますか。』
「分かったわ。絶対に口外をしない事は約束する。」
『魔人が何時頃ここに侵攻してくるかは分かりません。しかし、近隣の町が襲われているという状況から半年から1年の間に此処が襲われる可能性があるそうです。それが、この町の行政府を預かっているリンツ参事官の見解です。現在は王都に派遣申請をしているので、そこで戦力が整えばという事は言っています。僕が戦うのか、戦わないかは、その派遣次第という事を言われました。』
「リンツ参事官…行政府のトップと会ったの…」
『はい。参事官の話では、冒険者の派遣要請や町の騎士団で迎撃するようになるとの事ですが、戦力が足りない場合は、学園にも戦闘要請をするとの事です。どのみち、民間人の避難は学園の生徒が中心で行うのではないかと話していました。その中で…』
「その中で…どうしろというの。」
『僕に戦えと…』
「そんな、魔人と戦うにはBランク以上の者が当たるのが通常なのよ。」
ここで、彼は詠唱して、自分のインテリジェンスカードを私に手渡した。
「これは…」
私は驚愕の表情をしているのだろう。他の隊員も彼のカードを見て、同じような顔をしている。
「B+ランク…貴方なら町を守れるのね。」
隊員の面々は、絶望したのちに希望を見出したように彼を見ている。しかし、当の本人は下を向いたまま俯いている。そうか。自信がないのいのかもしれない。それもそうね。先ほど見た映像では、複数の人間で戦っていたのだから…。そして、彼と教官が屋上で話していた事を考えると…。違う町に行けば良いと言ったアイオロス教官の言葉が胸の中で木霊した。
『僕には記憶が無いことは話しました。そして、技や魔法は覚えていません。皆さんも先ほどの映像を見て貰っても分かるように、魔人は圧倒的な強さを持っています。自信がありません。申し訳ありませんが…。』
「あなたは、クリスタルファングは使えるの。」
『分かりません。ですが、グレース先生の推測では使えたのではないかという事です。』
「グレース先生はどうして、使えると思ったの。」
『私は、ここの町で診療を受けています。そして、僕の中にあるクリスタルが壊れている事が分かりました。クリスタルファングは、最終段階まで使用すると砕けるそうです。そこから察すると、僕は戦いに敗れてこの町の近くに魔法で飛ばされた。あるいは、この町の近くに移動して力尽きたかだと思います。それでも、僕は前者だと思います。』
「どうして、そう思うの。」
『僕が持っていた荷物の中に日記がありました。その日記には次の戦いで死ぬかもしれないと書いてありました。そして、最後の戦いにする覚悟が綴ってありました。だから、自分から逃げるとは思えません。』
「そう。辛い事があったのね。アイオロス教官は貴方に何処か違う町に行く事も進めていたわ。貴方は、どうするつもりなの。」
『分かりません。』
「そう。」
彼は、悩んでいる。彼自身は自分が生きたいために躊躇ってはいたのではない。力になれないかもしれない事が彼を苦しめている。私は、それが分かってもどうする事も出来なかった。力の無いものは結局は無力な存在でしかない。そう思うと胸が苦しくなった。
彼との話も途切れ途切れになり、失意のうちに彼はここから出て行った。私たちが希望を見出した事も、今の彼には重荷なのだろう…




