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脇役の分際  作者: 猫田 蘭
大学生編
180/180

三月の脇役 その十二

「へぇ、なかなかイイ部屋ねぇ」

「あはは、どうも……」

 我が家のソファに座って優雅にお茶を楽しむハートさん。今日のハートさんの服装はなんと、薄紅色の総絞りの着物、つまり訪問着である。

 いや、うん。お茶しに来てるわけだし、TPOから考えると正しいのかもしれないけど。彼女が着るとなんでもコスプレに見えてしまうのはなんでだろぉ……。(ふしぎー)


「その後、皆さんお元気ですか?」

「あぁ。むこうでもこっちでもかわんねーよ。ソードのヤロウなんざ、面白がって例の漫画買い込みやがってよぉ……」

 胸糞悪ィったらねーぜ、とクローバーさんがお行儀悪くふんぞり返って、ずずず、と紅茶をすすった。


 あのさぁ、確かにそういう仕草もあなたがやるとサマになってはいるんだけど。

 でもね、だからこそ控えるべきだと思うんだよ! あなたにあこがれて真似しちゃう子達が、み~んなサマになるとは限らないから。むしろみっともなくなるだけの残念な結果に終わる確率の方が高いから。


「あら、なかなか面白いわよ、アレ。『Reincarnation of the last edge』だったかしら? あのボウヤが主役ってちょっと意外だけど、アンタのカッコつけっぷりが最高じゃない?」

 ぷーくすくす、とハートさんが笑う。


「うるせぇ、露出狂オンナ!」

 がるる、とクローバーさんが吠える。

 ……我が家の、リビングの光景である。(勘弁してほしい)


     *****


 あれから私達は、無事にこちらの世界へ帰って来た。総勢12名の団体で。

 教室ほど広くない準備室に12人だよ? ぎゅうぎゅうだよ? しかもまた米良さんがやってくれたよ?

 思いのほかクローバーさんと密着していたことに驚いて、悲鳴をあげながら彼を突き飛ばした結果、全員倒れるってゆーね。


 見事に犯罪組織「Nobody」幹部によるドミノ倒しっていう前代未聞の光景を作り上げてくれた。すごいよ米良さん、極めてるよ……。その技がこの先なんの役に立つのかはわかんないけど。


 私ったら、なんとも恐ろしい事にソードさん下敷きにしちゃってさぁ。あまりの恐れ多さに、ひたすら「ごめんなさいごめんなさい」って繰り返すことしかできなかったからね。

 御本人は優しい笑顔で「大丈夫かねお嬢さん」って言ってくれたんだけど、スペードさんが! ソードさん命のスペードさんがあああああ!(目からビーム出そう)


「今って、何月くらいだろう……」

 米良さんが不安そうにぽつりと呟いた。あー、私と違って狭間の世界とやらでトータル2カ月くらい過ごしてたんだもんね。不安にもなるよね。


 だがしかし!

 一緒に飛ばされたはずの私とも既に時差があるって事実を思い出してほしい。自分だけおいしい思いを満喫したんだよ? 既に御都合主義展開に入ってるんだよ?

 ってことはもちろん、帰還だって一番都合のいいパターンなんじゃないかって思い至らないもんかなぁ。それとも、一応悩んでみるのもヒロインのお作法なのかなぁ。


「わたし達、失踪者扱いされてたりして。同窓会の帰りに二人だけ行方不明……。最後の目撃証言は校門の目の前。わぁ、なんかすごくミステリーだよねっ?『同窓会帰り美少女二名失踪事件』とかって、えーと、捜査本部? できてたりして!」

 タイトルセンスわるっ! しかもさりげなく自分を美少女呼ばわり!

 あー、でもこういう時って、うん……。とりあえず「美」がつくみたいだよね、報道番組見てると。


「どうしよう、今から帰ってもおかーさん達かえって困るかなぁ? 変な噂立てられたりして……。盛沢さん、ほんとごめん……。ごめんなさい」

 確かに、大した根拠もないくせに悪意のある噂を撒き散らしたがる卑しい連中っているもんねぇ。怖いよね。

 でもまぁ、今回はそんな心配ないんじゃないかな。


「そんなことないと思うよ。ほら、これ」

 私は、先程転がった時に見つけたガラスの破片を拾い上げた。

「これ、あっちに行く前に銃が暴発して割っちゃった蛍光灯のだよね? きっと、まだあの日なんだよ」


 一応この学校はおじょーちゃんおぼっちゃん学校だからして、こんなに目立つガラスの破片が数カ月放置されているなんてことはあり得ない。ぜ~ったい、ない。

 ということは、この破片は本日、人の出入りが無くなってから何かが割れた、ということを示唆しているのだよワトソンくん! そして、天井を見上げてみたまえ。


「割れてる蛍光灯の位置も、たまたま同じ蛍光灯が割れたんならともかく一緒だと思うし。あれからまだ発見もされてないってことじゃないかな?」

「そっか! 盛沢さん頭いいね!」

 ……それほどでもない。


「っつーか、携帯見ればいいじゃねーか、お前ら」

「「あ」」

 くそぅ、クローバーさんのくせに!

 ち、違うもん、携帯とかスマホだと、もしかしたら狂ってるかもしれないじゃん? あんまり機械を信用し過ぎるのもどうかと思うな、私は!


「ん~と、あ、ほんとだ! 日付変わってない。それにまだ8時だよ、盛沢さん」

「ほ、ほんと? よかったぁ!」

 よかった、んだけど。

「それで……皆様は……?」


 私達は家に帰ればいいとして、だ。

 どうしよう。まさか、うちに泊めろだとか言わないよね? 私、今日は実家泊まり予定だしさぁ、さすがにこの人数は無理だよ。

 せめて、あー……ん~……。(だめだ、年齢、性別、服装のいずれかが引っかかって誤魔化せる自信がない)


「私たちの事は気にしなくていいのよ」

「そーそ、アタシらはなんとでもなるからねぇ」

 ほっ。

「それならせめて、駅まで御案内します」

「あぁ、構わねぇよ。オレが知ってっから」


 そういやクローバーさんはしばらくこっちに住んでたんだった。じゃぁ、任せちゃっていいかな。実は8時って、うちではいい顔されないんだよね。未成年なのにって。

 我が家はあえて古風な教育方針なのである!

 私自身変なことに巻き込まれやすいしね……。用心するに越したことないよね。


     *****


 「Nobody」のみなさんとは校門前でお別れして、米良さんと二人夜道をてくてく歩く。

 米良さんが感慨深げにはふぅ、と溜息をついた。あぁやっぱり、なんだかんだいって緊張してたんだ?

「帰って、来たんだねぇ」

「良かったよね。やっぱり、米良さんの御家族だって絶対悲しむと思うし」

「うん……。穂積さんがいなくなった時の事思い出したよ」

 うぐ、ここでその話題振るか。


「盛沢さんってさ、穂積さんと最後に会った人、なんだよね?」

「え、あー、うん。たまたまね? たまたま、図書館で」

「光山君と、一緒だったんだっけ?」

「それも、たまたまね」

 く、くるちい!

 なんだ? なんか、核心に迫られそうな気配がする。やめてえ、秘密を掘り起こすのやめてぇ!


「あのさ、実はむこうで、盛沢さんと繋がった時にね……」

「盛沢さんっ! 米良さんっ!」

 米良さんが何か決定的な事を口にしかけたところで、上から知った声がふってきた。見上げてみればそこにはこちらに向かって手を振る手越さんと根岸さんの姿。

 あ、ここ手越さんちじゃん。


 ……話題が切り替わって助かったと言うべきなのか、新しい厄介事と言うべきなのか。

 心配して待っててくれたんだろうけどさぁ。絶対、何かあった事前提で待ってたよね? 説明させる気満々だよね?


「よかった、無事だったのね!」

 根岸さんが心底ほっとしたように微笑んだ。う、うわぁ、レアだ。写メ取りたい。

「おかえりなさい。二人ともあがって」

 玄関のドアがガチャリと開いて、アルカイックスマイルを浮かべた手越さんが手招きした。う、うわぁ、いつも通りだ、逃げ出したい。


「え、いやあの、今日は帰……」

「盛沢さん、せっかくだしお邪魔しようよ! おうちの人には、電話すればいーじゃん」

「で、でも、なんて説明したらいいのか」

「ぜ~んぶ! だって手越さんは同志なんだから!」

 同志ときたよ! 何のだよ。漫画か? 言っとくけど手越さんと米良さんの「好き」には、本人達の知らない深ぁい溝があってだな……。(ごにょごにょ)


「ご、後日改めて……」

「往生際が悪いわよ、盛沢さん。かえって事態を悪化させるわよ」

「はいぃ……」

 二階から降りて来た根岸さんにビシっと叱られて。

 私はとうとう観念して、手越さんのお宅にお邪魔することにした。


 ちょー逃げたい。

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