↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【長編版】皇女殿下、城下町で悪を斬る!  作者: 塩野さち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/4

第3話 皇女殿下、悪徳商人を斬る!

 リゼは顔を上げた。


「どういうこと?」


「父が生きていたころの店の印は、針が一本だけなんです。これは、私が店を継いでから新しく作ったものです」


 ミナは店の看板を指さした。


 看板には、二本の針を交差させた印が描かれている。


「父が亡くなったあと、仕立て屋組合に届けて、印を変えました。だから、父が生きていたころの契約書に、この印が押されているはずがないんです!」


 男の顔から、わずかに血の気が引いた。


「そ、それがどうした! あとから確認のために押しただけだ!」


 リゼは契約書を裏返した。


「でも、ここには、お父様が契約した日に押印したと書いてあるわ」


 男は黙った。


「印を変えた日付は、組合で確かめられるのでしょう?」

「はい。登録が残っています!」


 リゼは静かにうなずいた。


 これで、少なくとも契約書に重大な疑いがあることは分かった。


 婚姻の約束が本当にあったのか、まず調べなければならない。


 もっとも。


 そんな約束があったところで、本人の意思を無視して結婚させてよいわけではない。


「では、この契約書を仕立て屋組合と市の記録係に調べてもらいましょう」


 リゼが言うと、男は一歩踏み出した。


「返せ!」


 契約書を奪おうと、手を伸ばしてくる。


 リゼは紙を背中へ回した。


「証拠になるものです。調べるまでは、お返しできないわ」


「小娘が、偉そうに!」


 男は後ろの用心棒へ顎をしゃくった。


「取り返せ。それから、店を閉めさせろ!」


 二人の男が前へ出た。


 ミナが小さく悲鳴を上げる。


 リゼはため息をついた。


 先日の役人もそうだったが、どうして都合が悪くなると、すぐに腕力へ頼るのだろう。


 もう少し話し合う努力をしてほしい。


「セドリック」

「はい、お嬢様!」


「ミナをお願い」


「承知いたしました!」


 彼は素早くミナの前へ出た。


 今度こそ、見事な動きだった。


 長い金髪が揺れ、外套が翻る。


 その姿に、通りの娘たちから小さな歓声が漏れた。


「お嬢様には、指一本触れさせん!」


 セドリックは堂々と言い放った。


 そして、一歩下がった。


 足元に、布の端があった。


「あっ」


 靴が布を踏んだ。


 そのまま後退したため、店先に吊るされていた大きな布が引っ張られた。


 がらがらっ。


 布を掛けた棒が外れ、何枚もの布地が落ちてくる。


 セドリックは、白と青と薄桃色の布に埋もれた。


「……殿下。前が見えません」


 リゼは目を閉じた。


「でしょうね」


 ところが、その落ちた布のおかげで、ミナと用心棒の間が遮られた。


 相手も一瞬、動きを止める。


 リゼはその隙を逃さなかった。


 外套の前を開き、右手で剣を抜く。


 細い刀身に魔力が流れ、青白い光が走った。


「邪魔だ!」


 一人目の用心棒が剣を振り上げた。


 リゼは半歩、踏み込んだ。


 澄んだ金属音が鳴った。


 相手の剣は鍔の少し上で断たれ、刃の部分が石畳へ落ちる。


 用心棒は、手元に残った柄を呆然と見つめた。


「その剣では、もうお仕事にならないわね」


 リゼが剣先を向けると、男は慌てて柄を放した。


 もう一人が背後へ回り込もうとする。


 リゼは振り向いた。


 相手の剣先が、店の扉へ向けられていた。


 ミナを脅して、言うことを聞かせるつもりらしい。


 リゼの目が細くなった。


「そこは、あなたの店ではないでしょう」


 男が剣を突き出した。


 リゼは身体を横へずらし、刃をかわした。


 続けて、相手の手首を剣の腹で打つ。


「ぐっ!」


 剣が落ちた。


 リゼは男の足を払い、石畳へ転がした。


 男が起き上がろうとしたところへ、剣先を向ける。


「もう、おしまいにしましょう」


 男は両手を上げた。


 通りが静まり返った。


 リゼは剣の魔力を弱め、商人の男へ向き直った。


「さて。お話の続きをしましょうか」


 男は青ざめていた。


「お、お前……何者だ?」


 リゼは答えなかった。


 代わりに、襟元から細い紐を引き出した。


 赤い宝石のついた指輪。


 皇族の紋章が、陽光を受けて輝いた。


「婚姻は、本人の意思によって結ばれるものよ。借金の担保にしてよいものではないわ」


 男の口が開いた。


「ま、まさか……」


 リゼは指輪をかざしたまま、微笑んだ。


「それとも、あなたの商会では、帝国の法より帳簿のほうが偉いのかしら?」


 そのとき。


 背後から、よく通る声が響いた。


「控えよ!」


 セドリックだった。


 いつの間にか布から抜け出していたらしい。


 彼は剣を抜き、真っ直ぐに背筋を伸ばしている。


「こちらにおわすのは、皇帝陛下の御息女、リゼ殿下である!」


「とても面白い」★四つか五つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。