第三話 女友達の胸元談義
高揚した──いや、ある種、暗澹とした気分で目覚めた朝。
いつも通り、俺は一人で登校する。
野々花とは通学ルートが異なることもあり、別に一緒に登校するわけではない。
教室に入ると、まだ野々花は来ていなかった。
自席につくと、前の席に座る親友、床次悠一郎が、振り返り声をかけてくる。
「おはよう、海杜。……昨日の告白はどうだったんだ?」
「お、おはよう……悠一郎……」
(──まさか、悠一郎が野々花のセフレじゃないよな……?)
俺はそんな疑心暗鬼に駆られるあまり、返答をためらってしまう。
悠一郎は俺の様子を観察するように眉をひそめた。
「……どうしたんだよ、そんな深刻な顔して。まさか、振られたのか?」
「いや……付き合うことになったけど……」
「じゃあ、良かったじゃん! なら、次は初セックスだな!」
俺は言葉に詰まった。
「……」
喉に何かがつかえたような苦い沈黙が流れる。
「ん……? もしかして、もうヤっちまったのか……?」
身を乗り出す悠一郎。俺はこくりと頷く。
「あ、あぁ……」
「はぁ〜〜、いいなあ、海杜は! 巨乳美少女の種町さんとエッチできるなんて! 俺なんか、まったくモテないから、下手すりゃ四十才まで童貞コースだよ」
「そ、そんなことないと思うけど……」
(──悠一郎だって、野々花と『お友達』になれば、あっという間に童貞卒業コースだよ……)
「……海杜に悠一郎、朝から、なに話してるのよ?」
悠一郎の隣の席に腰掛けながら、不意に声をかけてきた少女。
宗見ぽぷら。
胸くらいまで伸ばし後ろで束ねた髪の毛は、染めているわけではないが、光の加減か暗い茶髪に見える。
巨乳の野々花とは逆に、控えめな胸元。紺のセーラー服に、淡いブルーのチェックのプリーツスカートから覗くスラッとした生足は、運動部に属しているだけあって美しい。
ぽぷらと俺は、小学三年の時に彼女が俺のクラスに転校してきたときからの腐れ縁で、たまにふたりで遊びに行く間柄だ。
「いや〜〜、海杜のヤツ、野々花さんと付き合って、いきなり処女まで奪ったらしいぜ」
悠一郎が軽口を叩く。実際は処女じゃなかったんだけどな、と思いつつ黙り込む。
それを聞いたぽぷらは一瞬目を見開くと、スッと表情をニュートラルに戻した。
「ふぅーん……? よかったわね……」
ぽぷらは視線を逸らし、独り言のように淡々と続けた。
『──海杜くんも、どんどん、セフレ作っていいからね……?』
野々花の言葉が頭に反芻する。
巨乳の野々花とは違い、ほぼ真っ平らな、ぽぷらの胸。
小学生の頃から一向に成長の兆しを見せないその胸元……。
──思わず、俺の頭に、ぽぷらと裸で抱き合い、激しく交わる姿を想像してしまう。
「……海杜のエッチ。カノジョいるくせに、女の子のおっぱいなんか見ないでよ……」
ぽぷらは、すかさず胸元を覆い隠す。
「わ、悪い……ぽぷら」
(──彼女がいなければ見ていいのかよ……)という内心のツッコミを飲み込む。
「そうだぞ〜、海杜。可愛い彼女がいるのに、女友達の胸を見てちゃダメだろ」
「そう、だよな……女友達を『そんな目』で見るとか普通じゃないよな……」
小さな独り言が俺の口から漏れる。
「……なんか言ったか?」
「いや、なんでも……」
そんなやりとりの中。
「お、おはよ〜……」
野々花がやってきた。
椅子を引き、スカートの裾を整えてから、ふわりと座る。
「おはよ〜、種町さん」
「……野々花さん、おはよ」
悠一郎と、ぽぷらが口々に野々花に挨拶する。
「と、床次くん、ぽぷらさん、お、おはよ。……海杜くんもおはよっ!」
俺に向けて、とびきりの蕩けるような甘い笑顔を向けてくる。
「……おはよ、野々花」
「げ、元気、ないよ……大丈夫……?」
心底心配そうな表情で覗き込んでくる。そのまま顔を近づけ、俺の耳元で囁いた。
「……あたしとのエッチで疲れちゃった……?」
「そ、そんなこと……!」
俺は思わず否定したが、顔が燃えるように熱くなるのを隠せなかった。
一瞬、悠一郎の目が野々花の胸元の膨らみに止まり、すぐ慌てて逸らされる。
俺のことを責めといて、悠一郎も人のこといえないな……。
「……床次くん。今、野々花さんの胸、見たでしょ」
ぽぷらが冷ややかな視線を投げかける。
「わ、悪い……種町さん……」
「あー、いいよ、いいよ〜。大きいから目に入っちゃうもんね〜〜」
「す、すまん……」
謝る悠一郎の隣で、俺はただただ、この気まずい空気の広がりを感じていた。




