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フラグが見える悪役令嬢は溺愛から逃げられない  作者: 陽炎氷柱
第一本・フラグが見える悪役令嬢

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9/11

09.適正テスト

 魔法適正テスト。

 学園に入学した新入生が最初に受ける試験で、ペアとなった上級生と協力して軽い戦闘を行うという内容だ。

 新入生は試験当日までにペアと得意魔法と武器種をすり合わせ、試験を通して教師が最終判断を下す。戦闘相手は魔道具が投影した下級モンスターの幻影で、ほぼ生徒が一方的に攻撃を仕掛けるだけのもので危険はない。

 幼いころから教育を受けた高位貴族は慣れた様子で準備を進めていくが、戦ったこともない生徒がほとんどだ。不安と興奮に包まれた学園の演習場は朝から賑わっており、かくいう私も別の意味で緊張していた。



(わ、本当に攻略対象がいる!)



 レオンハルトの補佐官で厳格な先輩、同じ一年生である研修者肌の呪術使い、そしていかにも軽そうな商人跡取り息子。

 ゲームと全く同じ姿に、日常生活の中でアイドルを見つけたような気持ちになる。しかしどうやらミリーは彼らを選ばなかったようで、それぞれ一般生徒と一緒に組んでいるようだった。



(よし、ひとまずおかしなフラグはなさそうね。……今度こそ、用意していた方法が通用するといいけど)



 ミリーのやたらと硬いフラグを思い出して、つい触れた手のひらを見つめてしまう。

 その仕草で緊張していると思われたのか、隣に立つレオンハルトは眦を柔らかく下げて私の手に触れた。



「そんなに緊張しないで。いつも通りにやれば、あんな幻影はリリーの敵じゃないから」

「あ、ありがとう。ペアを申し出てくれたレオンハルトに泥を塗らないためにも頑張るわ」



 実技試験用の制服を纏い、そう言って微笑むレオンハルトは本当に絵になるほどかっこよかった。

 白を基調とした騎士風スタイルに、赤と金の刺繍は華やかでよく似合う。腰には訓練用の長剣を下げており、ゲーム画面で何度も見た姿そのままだ。



(さまになるわね)



 思わず見惚れる。ゲームのリリアーナが彼に執着してしまうのが理解できる程度に、恐ろしく顔がいい。

 だからこそぐっと近づいた距離に、つい息を止めてしまう。緊張で冷えた指先をほぐすように、一回りも大きい手が私の指の輪郭を確かめるように握られる。

 仲睦まじい恋人のような距離に、遠いどこかで乙女の悲鳴が聞こえた。それがどんな感情からくるものかは知らないが、試験前にイチャつくカップルに見られるのは心外だ。

 ただでさえ原作無視してレオンハルトとペアになったのだから、こんなところをミリーに見られたらどんなフラグが立つか考えたくもない。



「次!ミリー・フォスター、ルーク・アシュリーのペア!」



 タイミングを計ったように呼ばれた名前に、私は弾かれたようにレオンハルトと距離を取る。……まるで私が浮気している女みたいだ、なんてという考えを頭の端に追いやって中央広場に目を向ける。

 戦闘フィールドとなる中央の広場をぐるりと囲むように石造りの観客席があり、教師たちは評価用紙を片手にそこで待機している。

 まだ変なフラグがないことに安心しつつ、ペアを伴って戦闘フィールドにあがるミリーに目を向けた。その隣には黒いの髪を短く切り揃えた精悍な青年がいて、引き締まった体躯はレオンハルトと同じデザインの試験用制服を纏っている。彼も攻略対象に一人で、ルーク・アシュリーという。

 ルークは将来を期待される若き騎士であり、正義感が強く面倒見の良い性格だ。最高学年である三年生の先輩で、その包容力からゲームでも人気の高かった。



(ミリーは彼のルートを選ぶのかしら……?)



 原作通り私はミリーとは別のクラスであるため、普段の彼女の様子を知る機会は少ない。なにより入学して一週間じゃ私も慌ただしく、なかなか調査に乗り出す余裕がないというのもある。

 しかし入学式でのミリーはレオンハルトに興味があったように見えたが、戦闘準備をしている彼女はルークと良好な関係を築いているように見える。やはり転生者だからか、攻略が上手くいっているようで命がかかっている身としては思わず遠い目になる。

 そんな私をよそにミリーは原作と同じように杖を選び、訓練用剣を携えたルークと一緒に試験に臨もうとしているところだ。



(確か、この時点でミリーは簡単な身体強化魔法しか使えなかったはず。他属性にも強化魔法はあるけど、サポート特化である光属性の強化魔法は効果が桁違いなのよね)



 ゲームでは魔力量はあっても、使えて当然な基礎攻撃魔法すら使用できなかったミリーは落ちこぼれ設定だった。攻撃魔法が使えないため得意な属性も分からず、ミリー本人も比較的サポート魔法が多い風属性なのかな?と誤解していたほどだ。

 しかしこの試験で、ミリーに強化を貰った攻略対象が普通ではありえない結果を出してしまう。そこに疑問を覚えた優秀な教師(攻略対象)によって、ミリーの本当の属性が明かされる——という流れだ。



(あのミリーがどう行動するか、しっかり見極めないと)



 試験開始を告げる教師の声を聞きながら、私はまっすぐミリーを見つめた。

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