10.ヒロインの見せ場
「対象モンスターは幻影スライム十体!討伐方法は問わないが、新入生は必ず魔法を使用するように。それでは……始めッ!」
試験官の号令と共に、前衛のルークが剣を構えて前に出る。
投影されたスライムは攻撃行動せず、某ドラゴンをクエストするRPGの敵のようにただ上下にぷよぷよ飛び跳ねるだけ。
それらを見据えて、ミリーは杖を構えてルークに強化魔法をかける。一拍置いて、淡い金色の光が騎士らしく鍛えられた体躯を包み込む。
「はっ!」
掛け声とともに、ルークが駆けだす。訓練用の剣とは思えないほど鮮やかな剣筋が走り、一体目のスライムが光の粒となって霧散する。
そのまま二体、三体と勢いのまま倒していき、瞬く間にスライムが消し飛んだ。この世界のスライムは物理攻撃が通りにくい代わりに、魔法攻撃のはとても弱い。だからこそ魔法の適正テストで使われているのだが、試験用の幻影にもその性質は引き継がれている。
しかもルークの武器は刃先がつぶれている訓練用剣だ。歴戦の騎士だろうと筋力のみの一撃で倒すのは難しい。
「アシュリー先輩ってあんなに強いんだ」
「確かに三年で一番の剣士だけど、さすがに相性問題をどうにかできる筋肉バカじゃなかったはずだぞ」
「え、じゃあ、あの一年生の魔法のおかげってこと……?」
原作と同じように、周りの注目がミリーに向けられる。突き刺さる好奇の視線に彼女は居心地悪そうに小さくなった。
この騒ぎを鎮めるように、青味かかった長い銀髪の青年が教師席から立ち上がった。冷たい印象を与える切れ長な緑の目がミリーたちに向けられる。
「フォスター嬢、君の属性は風だと申告されていますが、なぜ風魔法で直接スライムを倒さなかったのでしょうか」
「あ、えっと……実は、攻撃魔法がうまく使えなくて……あ、でもその代わり、昔からサポート系の魔法が得意なんです!」
「……その様子だと、最低限の基礎攻撃魔法すら使えないようだな。ふむ」
怒られると思ったのか、ミリーはさらに委縮してしまう。その頼りない可憐な姿に、入学式での彼女の姿は幻なんじゃないかという思いすら沸き上がる。
そんな私の気持ちをよそに、悪役令嬢としての破滅イベントが静かに始まった。
(ミリーの属性を見破った教師の攻略対象、キース・ヴァイザー。後にミリーの担任となり、彼女を魔法使いとして育て上げる恩師)
キースは魔法学の教師で、魔法以外のあらゆる現象に興味を持たない性格だ。
彼はわずかな情報だけでミリーの属性を割り出し、自分の腕を切りつけて彼女に治療を命じた。キースの簡潔ながら的確な指示によって、ミリーはたどたどしくも治癒魔法を成功させる。
そうして期待の新入生だ!聖女再臨だ!とミリーに期待を寄せる周りに、リリアーナは嫉妬で大衆の面前でわざと見下したような発言をしてしまう。
(でも、原作のリリアーナは魔法が得意じゃなかったのよね。息巻いて試験に挑んだものの、見事に恥をかいて終わった)
リリアーナは魔力量に恵まれていたものの、魔法として出力するのが下手だった。特に攻撃魔法がてんでダメで、大口をたたいた割りには試験では基礎魔法ばかり。
かといってサポート魔法が得意ということでもなく、ミリーの次に試験を受けたせいで露骨に差が出てしまった。
ペアもレオンハルトではなく一般生徒だったため、公爵令嬢とは思えない結果に冷たい目が向けられる。しかも試験の後、レオンハルトにも苦言を呈されたりと散々なイベントだ。
(私も学生である以上、学校行事は参加せざる得ないわ。学園モノだから仕方ないけど、行事と紐づいた恋愛イベントはやめて欲しいわね)
そうしている間にキースは己の腕を切りつけ、ミリーに治療を促した。
やがて巻き起こる歓声を聞き流していると、私だけが取り残されたような気持ちになる。間違っても変なことを口走ってプラグを立てないように、キュッと唇に力を入れて自分の番になるのを待った。
大人しく試験を受けてサッと退場すれば、悪役令嬢になる起点を一つ潰せる。だけどやっぱり予想していた通りに、ゲームで私が暴言を吐いたくらいのタイミングでミリーの頭上にトラブルフラグが立った。入学式と同じ展開に、思わず眉が寄る。
(ミリーが関わるとフラグが立ちやすいわね……)
無意識にそのフラグを見つめていると、隣から優しい声が降ってきた。
「リリー、また難しい顔をしている」
慌てて笑顔を作るも、レオンハルトは優しく目を細めた。
「あの子のことが気になる?」
「……まあ、そうね。光魔法って、珍しいから」
これだけ見つめておいて否定は説得力が薄いだろう。
変な意味にとられないように答えるけど、見透かしたような青い瞳から逃げるように再び前を向く。
「気にするなって、君の立場じゃ無理かもしれないけど……珍しい力に恵まれたとしても、それで全てが決まるわけじゃない。そのあとどうするか、が大事だと思うな」
王太子の婚約者、公爵の一人娘。おそらくこれらを指しているだろうレオンハルトの言葉だが、無性に頭に残る。
フラグのことは知らないはずなのに、不思議なくらい的を得ている。
「あ、俺たちの番だ。作戦通りでいいんだね?」
呆気にとられる私をエスコートするように導いて、ミリーたちとすれ違うように中央の広場にあがる。
入れ違う瞬間、ミリーが私をあざ笑うように口角を上げた。
「あたしの後とか、かわいそ」
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