11.やはりイベントは起きる
私にしか聞こえない声量に、ハッと振り返る。
声をかけられたから振り返った。ほとんど反射のような反応だが、待っていたかのように肩を震わせたミリーにすぐに誘導されたと気づく。
「ひっ……」
ミリー小さく息を呑み、隣にいたルークの腕に縋りつく。
おそらく入学式で私が原作と違う行動をしたから、わざわざ声をかけて来てこちらのリアクションを誘い出したのだろう。
結果として私は不自然に立ち止まることとなり、一方でミリーは怯えた様子でルークの陰に隠れている。一連の不審な行動にルークが怪訝そうに声をかける。
「フォスター嬢?」
「ご、ごめんなさい……なんでもないです」
そう言いながらもちらりと私を窺うミリー。
何か言いたげな仕草に、目つきを鋭くしたルークの赤い目が私へ向けられる。
「リリアーナ嬢。彼女が何か気に障ることをしましたか?」
低く、咎めるような声。
ミリーの頭上にはトラブルフラグが変わらず立っており、上手く切り抜けられなければ原作と似たような展開になるだろう。
きっかけは日常でもよくある些細な事なのに、こうして槍玉にあがるのはフラグのせいか悪役令嬢だからなのか……リリアーナになって何回も経験した事態にため息をつきたくなって、誤解されかねないと慌てて自制する。
「誤解ですわ。光属性はなかなかお目にかかれないから気になっただけよ」
「それだけでここまで怯えるものでしょうか」
「君、何が言いたいのかな」
納得していない様子のルークに、レオンハルトが眉をひそめている。
でもルークも攻略対象だ。彼は平民出身なので、権力で黙らせたって思われると断罪ポイントが上がりかねない。私はレオンハルトを制して、訝し気なルークをまっすぐ見つめ返す。
幸い周りはまだ熱冷めぬようで、この違和感には気づいていない。この間にフラグを折ってしまえば影響も少ないだろう。
「アシュリー先輩もご存じかもしれませんが、入学式でフォスターさんとちょっとしたトラブルに巻き込まれてしまったの」
「……ああいった噂は好みませんが、経緯は知っております」
「それで十分よ。結局あの事件はちょっとした勘違いで片付いたのだけど、どうやらフォスターさんにはまだ誤解されているようね」
ちらりと視線を向ければ、ミリーはびくっと肩を揺らしてルークの陰に隠れてしまった。
攻略対象の前ではか弱い演技を続けたいのか、それとも私に責められている図を崩したくないのか——まあ、おそらく両方だろう。
黙っているならそれはそれでこちらが動きやすいから助かるけど。
「いきなりレディの頭に触れるのは失礼だったと反省しているのよ」
「……それ、本当だったんですね」
「でも私って、少々目つきが怖いでしょう?色々重なってフォスターさんを怖がらせてしまって、本当に申し訳ないわ」
申し訳なさそうに言えば、ルークは困ったようにミリーに視線を向けた。
まだそこまで攻略が進んでいないのか、一方的に彼女を信じているわけではないようだ。
「新入生という点を考慮しても、魔力の暴発を起こしたのはフォスター嬢だ。危うく怪我しかけたのはリリーの方だし、入学式の件がややこしくなったのも彼女の勘違いが原因。そう怯えるようなことがあったとは思わないが」
「フォスター嬢、それは本当なのか?」
「……っ」
ルークが揺らいでいるのを見て、レオンハルトはとうとう堪えられなかったようだ。
私の婚約者とはいえ王太子の言葉はやはり信憑性が高いようで、おかげで説得に成功した。ルークは驚いたように背中にかばっていたミリーに問いかける。
(これでもフラグは折れないのね。前回といい、ヒロインのフラグは頑強ね)
とはいえ、ああいった手前この場で物理的にフラグを折ることはできない。
顔色を悪くして目を泳がせるミリーの頭上を確認してから、私はレオンハルトを促して中央広場にあがった。
心配そうなレオンハルトに大丈夫だと笑って、テストを始めていいか困っている審判に声をかける。あの場に留まっていてはミリーに何をされるか分からない。
生徒たちもそろそろこちらのやり取りに気づくころだろうし、さっさとこちらから動くに限る。
ミリーが原作に沿った動きをしてくれてよかった。これなら、用意していた作戦が上手くいきそうだ。
(言葉で説明したくらいじゃ折れないなら、根本的にこのイベントを潰すのみ!)
試験用スライム幻影が準備されていくのを横目に、私は杖を構える。レオンハルトも剣を抜いて構えた。
(リリアーナに転生した私も普通の魔法は得意じゃない。でも、全ての魔法が苦手ということではなかった)
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