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フラグが見える悪役令嬢は溺愛から逃げられない  作者: 陽炎氷柱
第一本・フラグが見える悪役令嬢

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4/6

04.ヒロイン…?

 ミリーからこぼれたヒロインとは思えない言葉。

 一瞬自分の聴力に問題があるのかと疑ったが、すぐに気のせいじゃないと思い知らされる。



「どうなってるの……あたし、こんな展開知らないわよ!」



 ――今、なんて?


 この距離じゃなければ、聞こえなかったであろう小さな声。

 ちらりと視線を向けると、ミリーはわずかに俯いて唇を震わせていた。独り言なのだろう。その表情は混乱と苛立ちが入り混じった不思議な色をしている。



(もしかして、ヒロインも転生者!?)



 頭に浮かんだ可能性に、心臓が嫌な音を立てる。

 それを裏付けるように、ポンッという音が耳に届く。恐る恐る視線を向ければ、ミリーの頭上にはドクロマークが描かれた真っ赤なフラグが立っていた。……破滅フラグだ。



「フォスター嬢」

「――どうして」



 私の声にかぶせる様にミリーが口を開く。同時に私を突き放し、怯えたように体を抱きしめて後ずさる。

 見事な切り替えに、先ほどまでの表情が幻だったのかすら考える。しかしそんな暇も与えないとばかりに、ミリーは悲痛な声を上げた。



「どうして嘘を吐くんですか!リリアーナ様が触れた部分、本当に痛かったんですっ。わたし、謝るって言ってたのに、魔法で痛めつけるなんて酷いです……!」

「っ」



 これまで何回も直接フラグを折ったことがあるが、痛いといった違和感を訴えられたことはなかった。

 だからミリーは私の能力に気づいたわけではないと思うけど、ちゃんと検査されるのは困る。自分で調べた限りではフラグの能力は魔法と関係ないが、ここは魔法学園。もし魔法道具か何かで魔力反応が出てしまったら終わりだ。


 それに破滅フラグが出ている時点で、私にとって良くないことが起きるのは明白。ミリーはどうやら私を貶めたいようだから、このまま押し切られるのはまずい。



(破滅フラグをさえ折れば最悪な展開にはならないでしょうけど、こんな空気の中で頭を撫でられるわけないじゃない!)



 物理的にフラグクラッシャーをするには、当然だが相手の頭に触れる必要がある。頭は人間の急所。つまり分かりやすく嫌われている場合、そもそも触れさせてもらえないのだ。

 しかもミリーは私を警戒している。隙をついて触ろうにも、失敗したら目も当てられない。現行犯ですぐに断罪されそうだ。


 少しも想定していなかった展開に、今まで自分がどれほどフラグに甘えていたかを思い知る。



(結局、魔法をヒロインに向けたっていう理由で破滅するの……?)



 どうにか調べられずに言い逃れる方法はないかと、周囲に視線を巡らせる。

 ふと人だかりの一角が割れていく光景が目に入る。モーセの海割りの如く人が避けていく中、美しい青年がこちらに向かってくるのが目に入る。

 太陽のような金髪に蒼海の瞳。甘く整った顔立ちだがどこか人懐こい柔らかさを残しており、ただ歩いているだけでも気品を感じる人だ。



「レオンハルト殿下……!」



 レオンハルト・トラクテンバーグ。私の婚約者にして、ゲームのメイン攻略対象。

 彼の姿が目に入った途端、ミリーはパッと表情を輝かせた。

 だけどそんなミリーには目もくれず、まるで存在しないように通り越したレオンハルトは心配そうに私の顔を覗き込んだ。



「リリー、怪我はないか?手を掴まれたみたいだけど、痛くなかった?」



 レオンハルトはそう言いながらも、私に怪我がないかを丁寧に確認していた。

 そしてわずかに赤くなっていた手首を目ざとく見つけると、悲しそうに顔を曇らせる。



「こんなに赤くなって……かわいそうに。すまない、もっと早く気付くべきだったな」

「これくらい大丈夫ですよ。むしろお騒がせして申し訳ありません」

「リリーはもっと自分を大事にするんだ。困ったら俺の名前を出していいから」



 私の手首をいたわるように撫でるレオンハルトに戸惑う。

 一つ上である彼は去年入学しており、今日は王太子として挨拶のために来ている。新入生である私たちとは真逆の場所で待機しているから、事態に気づくのが遅れたのだろう。ゲームでもそんな理由で遅れて登場したはずだが、婚約者のリリアーナよりもミリーの味方をしていたはず。


 それがどうして真っ先に私の心配をしているのだろう。婚約してから彼との関係改善に努めてきたが、最近はレオンハルトの考えがよく分からない。

 複雑な思いを抱えて、私はあいまいに笑って誤魔化した。



「っ、悪役令嬢のくせに……!」



 耳に届く怒りのこもった声に、ハッとミリーに顔を向ける。

 彼女は信じられないと言った表情で、じっと私に触れているレオンハルトの手を凝視していた。



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