## 第四話 # 「泣いている少女」
# 『親孝行を法律にしたら、世界は少しだけ優しくなると思っていた』
## 第四話
# 「泣いている少女」
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朝。
ミナトはいつものように村を歩いていた。
鳥の声。
畑で働く人たち。
走り回る子どもたち。
平和な朝だった。
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「あれ?」
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村の広場の端。
古い井戸のそばに、一人の少女が座っていた。
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年齢は十歳くらい。
黒い髪。
小さな体。
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周りの子どもたちが遊んでいるのに、その子だけ動かない。
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ただ地面を見つめている。
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ミナトは近づいた。
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「おはよう」
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返事はない。
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「私はミナト」
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返事はない。
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「今日もいい天気だね」
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返事はない。
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「……」
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「……」
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気まずい。
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ミナトは少し考えた。
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「パン食べる?」
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少女が反応した。
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ちらっと見た。
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(よし)
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ミナトは心の中でガッツポーズした。
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## ■エピソード①
## 「名前」
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しばらくして。
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少女は小さな声で言った。
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「……ユナ」
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「ユナっていうんだ」
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こくり。
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それだけだった。
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でもミナトは嬉しかった。
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名前を教えてくれた。
それは大きな一歩だった。
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## ■エピソード②
## 「笑わない理由」
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昼。
ラグに聞いてみた。
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「ユナって子、どうしたの?」
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ラグの表情が少し曇る。
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「あの子の親、去年亡くなったんだ」
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ミナトは黙った。
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「病気だった」
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「親戚は?」
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「いない」
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短い答えだった。
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ミナトは空を見上げた。
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異世界でも。
悲しいことはある。
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当たり前だけど。
少しだけ胸が痛かった。
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## ■エピソード③
## 「一緒にパンを食べる」
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夕方。
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ミナトはまた井戸へ向かった。
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ユナは今日もいた。
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「はい」
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パンを渡す。
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ユナは少し迷ってから受け取った。
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二人で並んで食べる。
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静かだった。
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でも不思議と嫌じゃない。
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しばらくして。
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ユナがぽつりと言った。
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「お母さんのパンの方がおいしかった」
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ミナトは少し笑った。
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「それは仕方ない」
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「なんで?」
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「お母さんのご飯って特別だから」
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ユナはパンを見つめる。
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「……そうかな」
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「そうだよ」
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ミナトは優しく言った。
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「たぶん、一生勝てない」
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初めてだった。
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ユナの口元が少しだけ動いた。
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ほんの少し。
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でも確かに笑った。
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## ■エピソード④
## 「優しさだけじゃ足りない」
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その夜。
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ラグの家。
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ミナトは考えていた。
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ユナみたいな子は、一人じゃない。
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親を失った子。
助けてくれる人がいない子。
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たくさんいるはずだ。
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「どうした?」
ラグが聞く。
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ミナトは答えた。
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「救いたいなって」
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「全員か?」
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「うん」
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ラグは苦笑する。
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「無茶だな」
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ミナトも笑った。
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「そうかも」
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少し沈黙。
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そして小さく続けた。
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「でも、誰かがやらないと」
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ラグは何も言わなかった。
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ただ、その言葉を覚えていた。
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## ■ラスト
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夜空。
二つの月。
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ミナトは一人で空を見上げていた。
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異世界に来てまだ数日。
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それでも分かったことがある。
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この国には優しい人がいる。
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でも。
優しい人だけでは救えない人もいる。
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だから必要なのだ。
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仕組みが。
制度が。
政治が。
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ミナトは静かに呟いた。
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「親孝行法だけじゃ足りないな」
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そして初めて、新しい目標が生まれた。
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> 「孤児を見捨てない国を作る」
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その夢はまだ小さい。
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けれど確かに、彼女の中で灯り始めていた。
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## 次回予告
### 第五話
# 「王都へ」
ミナトに王都から呼び出しが届く。
理由はただ一つ。
> 「親孝行を法律にしろと言った変人を見てみたい」
王都の議会。
若き王。
そして最大のライバル、ヴァルター・クロイツ。
ミナトの運命が大きく動き始める――。




