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クビになった冴えないおじさんがダンジョン配信を始めたら、なぜか登録者100万人超えてしまった件〜俺、実は最強だったらしい〜  作者: あっかんべー
第2章:陰陽師とおじさん

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第42話 おじさんは、つきのと、裏日本へ正式に入った。

 翌日、月峰師匠から追加の連絡が来た。


 《田中武志、裏日本の揺れが続いている。今日、正式に入ってもらいたい。今度は落ちるのではなく、ちゃんとした入り方で、な》


 《…ちゃんとした入り方があるんですか?》


 《ある。つきのに案内させる》


 《わかりました》


 つきのからも連絡が来た。


 《田中さん、今日は正式な入り方を教えます。…あと、全員連れてきていいですよ。師匠が許可しましたから》


 《ありがとうございます》


 《一つだけ、準備をお願いできますか?》


 《何ですか?》


 《……塩を持ってきてください。コンビニのでも大丈夫です》


 《塩ですか?》


 《塩です。裏日本に入るときの、基本的な準備になります》


 俺はコンビニに行った。


 塩を買った。


 ついでに、コーヒーも合わせて買っておく。


 レジで袋に入れてもらいながら、「これから裏日本に行く」という状況と「コンビニで塩を買っている」という状況の差が、不思議と少し面白かった。



 渋谷の神社に全員が集まった。


 つきのが全員に塩を渡しながら説明をしてくれる。


 「少し指で摘まんで、肩に振りかけてください」


 「なぜですか?」


 「裏日本の負の気配を、最初から弾くためです。特に今日は揺れているので」


 全員が塩を肩に振りかけた。


 岩田陸が「向こうでも似たような習慣がありました」と言った。


 「そうなんですか?」


 「材料は違いましたが、邪気を払う意味は同じだった感じです」


 「三つの世界は根が同じだから、習慣も似るのかもしれませんね」


 「……なるほど」


 岩田陸がメモした。


 神崎誠一も隣でメモしていた。


 親子で同時にメモを取っていた。


 つきのが呆れた顔で俺を見た。


 「……賑やかなパーティーですね」


 「よく言われます」


 「悪くないですよ。師匠が言っていました。一人で動く陰陽師より、繋がりの中にいる人間の方が、力が安定する、と」


 「それは向こうでも言われました。異世界で」


 「共通の真実なんですね、きっと」


 「そうかもしれません」


正式入場前 — 同接:2,441,004

ガチ勢777:コンビニの塩で裏日本に入れる設定が好きすぎる

エトウ:神崎誠一と岩田陸が親子で同時にメモしてるの笑う

匿名A:つきのちゃんが全員に塩を配る場面 陰陽師の日常が垣間見える

プロ冒険者X:今日は九人か パーティーが人数最多を更新した

ヒナ推し最前線:つきのちゃんがパーティーメンバーになったのか?

匿名B:「コーヒーも買った」で笑った 田中さんはいつでも田中さん



 神社の本殿の前に、全員が並んだ。


 月峰師匠が待っていた。


 「…………多いな」


 「全員できました」


 「そうか。まあ、良い」


 月峰が全員を見回した。


 「裏日本に入る前に、一つだけ言っておく。今日の裏日本は、揺れている。揺れているというのは…妖怪が活発というだけでなく、空間そのものが不安定ということだ」


 「不安定というのは?」


 「見えるものが、いつもと違う可能性がある。記憶に触れるものを見るかもしれない。あるいは、第四の扉というのに近いものを感じるかもしれない」


 「近い、というのは?」


 「裏日本は、三つの世界の中で最も根に近い。揺れているとき、根の先に何があるか、感じることができる」


 「……今日の目的は、その根を感じることですか?」


 「それだけではない。揺れを鎮めることも必要だ。揺れが強くなれば、表の世界にも影響が出る」


 「……表に影響が出るとは?」


 「次元の亀裂が増える。お前が落ちたような亀裂が、渋谷中に広がるかもしれない」


 ヒナが「それは困る!」と小声で言った。


 「……そうですね」と俺は答えた。


 つきのが前に出た。


 「入り方を説明します。この神社の本殿の鏡、裏日本から戻るときに使ったものと同じです。今度は、こちらから入る通路として使います」


 「入るときも鏡なんですか?」


 「はい。ただし、鏡に入るには、「こちら側の意識」を保ったまま入る必要があります。引き込まれるように入ると、向こうの気配に飲まれます」


 「こちら側の意識、というのは?」


 「自分が誰か、ということを持ったまま入る。田中さんなら——田中武志である、という意識です」


 「田中武志である、か」


 「そうです。名前を心の中で言いながら、鏡に触れてください」


 俺は少し考えた。


 「……田中武志。元経理。無職。配信者。コーヒーが薄いのが嫌いで、スーツが普段着……。」


 「…そこまで言わなくても十分ですよ」


 つきのが少し笑った。


 「……確かに、それ以上ない「田中武志」ですね」


 ヒナが後ろで「完璧」と小声で言った。



 一人ずつ、鏡に触れた。


 全員が裏日本に入った。


 最初に落ちたときとは、全く違う感覚だった。


 ゆっくりと、丁寧に。


 意識を保ったまま移動した。


 赤い空。黒い木々。


 だが、今日は、どうやら少し違うようだ。


 空が、揺れていた。


 波紋のように、空がゆっくりと揺れていた。


 「……揺れてる?」


 ヒナが上を見て言った。


 「…そうです。昨日から続いています」


 つきのが言った。


 「この揺れが続くと——」


 「…亀裂が増える?」


 「そうです。だから今日、鎮める必要があります」


 「どうやって鎮めますか?」


 「揺れの中心を見つけて、封じます。ただ——」


 つきのが少し間を置いた。


 「……今回の揺れの中心は、わかっています。でも、わしだけでは封じきれない。田中さんの力が必要です」


 「…わかりました。」


 「…田中さん、今日の揺れの中心は、普通の妖怪ではないかもしれません」


 「どういう意味ですか?」


 「根に近い場所から来る揺れです。もしかしたら、第四の扉に関係するものかもしれない、ってことです」


 「…会える可能性がありますか。夢の声の主に」


 「……あるかもしれません。ただし、今は準備ができていない。会っても、まだ理解できない段階だと思います」


 「そうですか。」


 「今日は、揺れを鎮めることが目的です。その先ついては、また別の機会に」


 「まあ、行けばわかりますか。」


 つきのが少し笑った。


 「それは田中さんの言い方ですね。でも——その通りかもしれません」


裏日本 — 同接:3,882,004

ガチ勢777:「田中武志である」の定義が完璧すぎる 元経理から始まって放っておけないまで

エトウ:空が揺れてる裏日本 第四の扉に関係する揺れが来てる

匿名A:「それだけじゃない確かに」とつきのちゃんが言ったの、田中さんの自己紹介への最高の反応

プロ冒険者X:正式な入り方で全員が裏日本に入った 「こちら側の意識を保つ」という条件が面白い

ヒナ推し最前線:ヒナちゃんが「完璧」って言ったのか…。

キリソウ実況:田中さんが、また来ました裏日本 今度は正式な方法でですが



 揺れの中心に向かって歩いた。


 つきのが先頭に立った。


 呪符を手に持って、方角を確認しながら進んでいた。


 「……つきのさんは、いつからこの仕事をしているんですか?」


 歩きながら、俺は聞いた。


 「子供の頃から。物心ついたときには、師匠に連れられて裏日本に来ていました」


 「怖くありませんでしたか?」


 「…最初は怖かったです。でも師匠が「怖いのは知らないから、知れば怖くなくなる」と言っていて、知るほど、怖さより面白さの方が大きくなっていきました」


 「「知れば怖くなくなる」か…」


 「田中さんも、ダンジョンや異世界をそういう感じで歩いていたんじゃないですか?」


 「怖くない理由が、知っているからかどうかはわかりませんが、怖いという感覚があまりなかったです」


 「それは、田中さんが、もともと知っていたからかもしれませんね」


 「知っていた?」


 「異世界も、ダンジョンも、裏日本も、田中さんが関わって作ったものなら、自分が作ったものを怖いとは感じにくいですよね?」


 「……そういう見方もありますね」


 「師匠も言っていました。「田中武志が怖がらないのは、この世界の全てに自分の手が入っているからかもしれない」と」


 「月峰師匠がですか?」


 「はい。だから——お前はこの世界の子守りだ、と」


 「…子守り?」


 「守って、育てて、帰る場所を作る。子守りと同じだ、と師匠が」


 俺は少し考えた。


 「……元経理の子守りですか?」


 「元経理の子守りです」


 つきのが振り向かずに笑った。


 後ろでヒナが「言い得て妙」と小声で言っていた。



 揺れの中心に着いた。


 開けた場所だった。


 黒い木々が円形に並んで、中央に広い空間があった。


 空間の中心に渦があった。


 黒い渦。


 赤い空の下で、暗い渦が回っていた。


 音がした。


 低い、遠い音。


 唸り声のような、風の音のような。


 「……これが揺れの中心ですか?」


 「はい。昨夜から、ここにあります」


 「何ですか、これは?」


 「わかりません。妖怪の類いとは違います。もっと根に近いもの——」


 月峰師匠が俺の隣に来た。


 「田中武志、右手を出せ」


 「はい」


 「…その渦を見て、何か感じるか?」


 俺は渦を見た。


 右手が、反応した。


 三色が、また動いた。


 白。金。橙に光る。


 「……感じます」


 「何を感じる?」


 「眠っている、んだと思います。起きたいが、まだ準備ができていない」


 「準備ができていないのに起きようとしている。だから揺れている、か」


 「そういう感じがします」


 「どうすれば揺れが収まるか分かるか?」


 俺は少し考えた。


 「……もう少しだけ待ってほしい、と伝えてみます」


 月峰が目を細めた。


 「伝える、とは?」


 「…声に出して頼んでみます」


 「そういう方法を取るか!?」


 「…それしか思いつかなかったので」


 月峰が小さく笑った。


 「……やってみろ」


 俺は渦の前に立った。


 右手を前に出した。


 三色の光が、穏やかに広がった。


 「……聞こえますか?」


 俺は言った。


 「田中武志です。もう少し待ってください。準備をしています。必ず行きます。だから——今は、眠っていてください」


 渦が、揺れた。


 大きく揺れてから——少しずつ、小さくなった。


 音が、静かになった。


 黒い渦が、半分の大きさになった。


 三分の一になった。


 そして——消えた。


 静寂。


 赤い空が、少し明るくなった気がした。


 「……消えてしまいした。」


 つきのが呟いた。


 「…「待ってください」だけで消えた」


 「信じてくれたみたいですね」


 「根の先にあるものが——田中さんの言葉を信じた、と!?」


 「そうみたいですね」


 月峰が長く息をついた。


 「……「待ってください、必ず行きます」か」


 「それしか言えることがなかったので」


 「それで十分だ。約束は守る人間だと——向こうも知っていたということだ」


 「どうしてわかるんですか?」


 「消えたから、だ」


 月峰がシンプルに言った。


 「信じなければ、消えなかった、消えたということは、信じた」


 「……そう、なんですね」


揺れの中心 — 同接:5,441,882

全員:「待ってください、必ず行きます」だけで渦が消えた!!

ガチ勢777:田中さんの言葉を根の先が信じた 約束を守る人間だと知っていたから

エトウ:「元経理の子守り」という月峰師匠の表現が全シリーズで一番田中さんを正確に表してる気がする

匿名A:自分が作ったものを怖いとは感じない だから田中さんはどこでも怖がらなかったのか

プロ冒険者X:「信じなければ消えなかった、消えたから信じた」という月峰師匠の論理が完璧

ヒナ推し最前線:…その調子でうちにも戻ってきてくれないか?

つきの推し:つきのちゃんが「自分が作ったものを怖いとは感じにくい」という説を出してくれた 今話MVPはつきのちゃん

匿名B:揺れが消えた後に赤い空が明るくなったの 裏日本の空が変わり始めてる



 帰り道、つきのが俺の隣を歩いた。


 「……田中さん」


 「はい」


 「一つ、お礼を言ってもいいですか?」


 「なんですか?」


 「今日、パーティー全員で連れて来てくれた。それが——裏日本の揺れを抑える力になったと思います」


 「俺の力が抑えたんじゃないですか?」


 「田中さんの言葉の力です。でも——その言葉が出てきたのは、後ろに全員がいたからだと思います。「必ず行きます」と約束できたのは、戻る場所と人があるからでしょう?」


 俺は少し考えた。


 「……そうかもしれません」


 「師匠も言っていました。「繋がりの中にいる人間は、一人より強い。それは力の量ではなく、約束できる数が多いから」と」


 「約束できる数、ですか。」


 「戻ってくる理由が多いほど、「必ず」の重みが増す。田中さんには、今、たくさんの戻る理由がありますよね?」


 「…そうですね」


 俺は後ろを振り向いた。


 ヒナ、サクラ、リオ、キリソウ、早川、神崎誠一、岩田陸。


 全員が歩いていた。


 「……そうですね」


 もう一度言った。


 今度は、確信を持って言えた。


 「田中さん」


 つきのが続けた。


 「……私も、田中さんの「戻る理由」に、なれますか?」


 静かな声だった。


 真剣な声だった。


 「なれますよ」


 俺は即答した。


 「……即答ですね」


 「考える必要がなかったので」


 「…昨日のヒナさんへの言葉と同じ返し方ですね」


 「…同じです。どちらも、本当のことなので」


 つきのが少し間を置いた。


 「……よかったです」


 「よかったですが、また増えました」


 「増やした方がいいんですか?」


 「増えるほど、「必ず」が重くなるので」


 つきのが笑った。


 静かな、和の笑いだった。


 「……田中さん、本当に不思議な人です」


 「よく言われます」


 「…それも、よく言われますか?」


 「そちらも、よく言われます」



 表に戻った。


 渋谷の夜だった。


 「……今日も帰ってこれました」


 ヒナが言った。


 「帰ってきましたね」


 「今度は三時間も掛かりませんでしたね」


 「そうですね。正式な入り方があると、戻り方もちゃんとありますから」


 「当たり前のことを言いますね」


 「当たり前なので」


 ヒナがつきのを見た。


 「……つきのさん」


 「はい」


 「今日は案内してくれてありがとうございました」


 「こちらこそ、みなさんが来てくれて助かりました」


 「…田中さんの「戻る理由」になれたからですか?」


 ヒナがつきのにそんなことを言う。


 つきのが少し目を丸くした。


 「……聞いていたんですか?」


 「聞こえていました」


 「……恥ずかしいです」


 「でも、良かったです。田中さんの戻る理由が増えた方が、うちも安心なので」


 つきのが少し驚いた顔をした。


 「……ヒナさんって、強い人ですね」


 「そうですよ。田中さんも言ってくれました」


 「……田中さんが言ったんですか?」


 「言いました。本当のことなので」


 ヒナが少し得意な顔をした。


 「……ライバルとして、よろしくお願いします」


 つきのが言った。


 「よろしくお願いします」


 ヒナが答えた。


 俺はその場でコーヒーを飲んでいた。


 買ってきておいたコンビニのコーヒー。


 今日も薄かった。


 でも、今日はちょうどよかった。



【感想】「田中さんの戻る理由になれますか」→即答「なれます」→「よかったです」→ヒナちゃんが全部聞いてた件

1 名無しさん : 「待ってください、必ず行きます」で渦が消えた理由が「約束できる数が多い、戻る理由が多い」という月峰師匠の説明で全部繋がった


2 名無しさん : 「自分が作ったものを怖いとは感じにくい」→つきのちゃんが田中さんを一番正確に言語化してる


3 名無しさん : ヒナとつきのの「ライバルとしてよろしく」が二回目 シルヴィアとヒナと同じ構図でつきのとヒナも完成


4 名無しさん : 「増えるほど「必ず」が重くなる」という田中さんの言い方が田中さんにしては詩的だった


5 名無しさん : ヒナちゃんが「田中さんの戻る理由が増えた方が安心」と言えた 36話の「受け取る練習」の成果


6 名無しさん : 「元経理の子守り」という月峰師匠の言葉が今シリーズで一番田中さんを表してると思う


7 名無しさん : コンビニコーヒーを裏日本から帰ってきた後に飲む田中さん 何も変わってない


8 名無しさん : 登録者3500万突破 つきのちゃん効果もあるかな

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