第37話 次元の割れ目に落ちた。おじさん、また別の世界に行ってしまう
秘密にしてください。からの、2チャンネルはおかしいだろ!って思うかもしれませんが、振り返り的な感じなので無視して頂きたいです。。。
地面に、亀裂が入っていた。
俺の足元に。
気づいたときには、もう遅かった。
——また、か。
そう思いながら、亀裂に落ちていく。
◇
少し時間を戻す。
ファミレスから出て、全員でぞろぞろと夜の渋谷を歩いていた。
神崎誠一が岩田陸に向こうのファミレス構想を語っていた。
岩田陸が「ちょっと待ってください!」と言いながらメモを取っていた。
ヒナが「その親子、研究者の血が濃いなぁ」と小声で言った。
「そうですね」と俺は言った。
賑やかだった。
良かった。
そう思った瞬間だった。
俺の右手が、急に熱くなった。
光ではなかった。
熱だった。
それも、今まで感じたどの熱とも違う種類の熱だった。
ダンジョンの冥界石が反応するときの温かさでもなく、異世界の扉に触れたときの白い光とも違う。
もっと古い。
もっと、根の深いところから来る熱だった。
「田中さん?」
ヒナが気づいた。
俺が立ち止まったから。
「……ちょっと、」
言いかけた瞬間。
足元の歩道に、黒い亀裂が走った。
音はなく、ただ、地面が割れた。
「え、」
ヒナの声が聞こえてくる。
そして、俺は落ちた。
【⚠ 渋谷区内・歩道にて次元亀裂の発生を確認——陰陽庁第三監視局 緊急記録】
◇
落ちた、という感覚は一瞬だった。
次の瞬間、地面があり、俺は立っていた。
革靴の底に、土の感触があった。
渋谷の歩道ではなかった。
周囲を見た。
空が、赤かった。
夕焼けではないと思う。
赤というより、血の色に近かった。
地面は土で、木が生えていたが、葉が黒かった。
音がする。
風の音ではなかった。
それは、何かが——うごめく音だった。
俺は周囲を見回した。
建物はなかった。
人もいなかった。
ただ、雰囲気があった。
見られている、という感覚。
ダンジョンの深層で感じるそれとは違う。
もっと古くて、もっと重い視線。
「……また別の場所ですね」
俺は言った。
誰もいなかったが、つい声に出た。
スマホを取り出し確認すると…圏外だった。
「……圏外か」
異世界では電波が届かなかった。
こちらも同じような所なんだうか。
右手を見る。
白い光は出ていない。
だが、熱はまだあった。
しかも、今は右手だけでなく、体全体に広がっていた。
「……ここはどこだろうか…。」
独り言が増えていた。
一人のときは独り言が出る癖が、どうやらまだ直っていなかった。
■ 《裏日本》について(後にヒナが調べた情報)
日本列島の「裏側」に存在する次元層。表の世界と重なるように存在しているが、通常人間には見えない。古来より妖怪、物の怪、怨霊の類いが住まう領域。陰陽師はこの裏日本と表日本の境界を守る役割を担っている。
◇
歩き始めた。
方向はわからなかったが、立っているよりはましだと思って。
黒い木々の間を歩いていく。
…足音が、やけに響く。
革靴の音が、静寂の中に広がった。
しばらく歩くと、光が見えた。
赤い空の下、さらに赤い光が揺れていた。
炎だった。
誰かが何かを燃やしているのか——いや違う。
炎が、動いていた。
生き物のように、うねりながら動いていた。
近づいていく。
木々の間から覗いた。
そこに、いたのは…
女の子だった。
白い着物を着ており、黒い長い髪が、風に揺れていた。
手に呪符のようなものが貼られた細い棒を持っていた。
目が切れ長で、黒くて、鋭い。
年齢は十代後半か、二十代前半か。
大和撫子、という言葉が、頭の中に浮かぶ。
きっと、こういう人を言うのだろう、と思った。
そして、その女の子の前に——
《鬼火》がいた。
炎の塊が、人型をしていた。
高さは三メートルほど。
顔らしきものがあり、目が二つ、口が一つ。
ぐるぐると渦を巻く炎が、その輪郭を作っていた。
ゆらゆらと揺れながら、女の子に向かって迫っていた。
女の子が呪符を投げた。
「封じよ——《伏火の印》!」
凛とした声だった。
呪符が炎に触れた。
一瞬、炎が小さくなった。
だが、すぐに戻ってしまう。
それどころか、元の大きさよりも大きくなった。
女の子が少し後退した。
「…まだ、封じられないっ!…器が足りないの?」
呟きが聞こえた。
鬼火が、腕らしきものを伸ばした。
炎の腕が、女の子に向かって——
俺は、前に出た。
後日サクラが配信で公開(状況証拠と田中さんの証言より再構成)
ガチ勢777:また女の子がピンチのところに田中さんが来た 前と同じ構図じゃん
エトウ:裏日本の存在が明かされた 陰陽師が秘密裏に守ってたのか
匿名A:「また別の場所ですね」って言いながら独り言してる田中さんが好き
プロ冒険者X:鬼火 妖怪の中でも上位クラスのはず それを前に単身で出る田中さん
ヒナ推し最前線:白い着物の大和撫子系美少女だと?なぜ美形ばかり集まるんだ!
匿名B:陰陽庁なる組織の記録が出てきた 秘密の組織があったのか
新規大量:異世界の次は妖怪の世界!? 田中さんどこへでも行くな
◇
「……ちょっとすみません。通りますね」
俺は言った。
前と同じ言葉だった。
自分でも気づいていなかった。
女の子が俺を見て目が丸くしていた。
「……え、なんで、人間がっ!?」
「通りかかりました」
「通りかかったって、ここ裏日本ですよ!」
「そうなんですか?」
「知らないんですか!?」
「今初めて聞きました」
女の子が絶句した。
鬼火が動く。
炎の腕が、俺に向かって来た。
俺は右手を前に出した。
体が、知っていた。
炎は、前に何度も吸収してきた。
第四層のフレイムリザードとか。
第五層の扉の前での練習。
炎を吸収する感触を、右手が覚えていた。
…だが、今回は少し違ったようだ。
鬼火の炎は、ただの炎ではなかった。
念が、込められていた。
怨念、とでも言うべきものが。
俺の右手が、それを知っているようだった。
そして、反応する。
はじめは白い光が出てくる。
だが、今まで見た白い光とは、少し色が違った。
黄色い?…いや、金に近かった。
王の器が、炎と怨念を同時に吸い込んだようだった。
鬼火が小さくなっていく。
俺は一歩踏み出した。
縮んだ鬼火の中心に、右の掌底を当てた。
軽く、当てただけ。
それで十分だった。
鬼火が、消えたていった。
炎が散って、黒い煙になって、空気に溶けていった。
静寂。
赤い空の下、黒い木々の間に、俺と女の子だけが残った。
俺は手を払った。
「……スーツに煤がついてしまいました」
女の子が、固まったまま俺を見ていた。
口が、少し開いていた。
「……今の、なんですか?」
「手で払いました」
「手で払ったって——鬼火を!? 素手で!?」
「吸収してから払いました」
「吸収!?」
女の子がさらに固まった。
「……あなた、何者ですかっ…!」
「田中武志です。元経理です」
「元経理って、なんでここに……」
「歩いていたら落ちました」
「落ちた……?」
女の子がしばらく俺を見て、鬼火が消えた場所を見て、また俺を見た。
「……怪我はありませんか?」
俺が聞いた。
「え、私ですか?」
「さっき後退していたので」
「……大丈夫です。あなたの方こそ」
「大丈夫です」
「鬼火に炎を吐かれたのに?」
「吸収したので」
「……なんなんですか、あなた?」
「田中武志です。元経理です。今は配信者です」
「配信者!?」
女の子が声を上げた。
「……も、もしかして、あのダンジョン配信の?」
「…そうですね」
「田中さん!?」
「そうです」
女の子の目が丸くなった。
「……うちの師匠が、田中さんの配信を見てました。向こうの世界から。ゼナ様が繋げてくれた映像で」
「師匠が?」
「向こうの世界でもこちらでも、あなたの配信は届いていたんです。陰陽師の間でも有名でした。「裏日本の気配に反応出来る可能性がある人間が現れた」と」
「そうでしたか」
「……よもや本人が来るとは思いませんでしたが」
女の子がようやく落ち着いた顔になった。
白い着物が、赤い空の下で揺れていた。
「……失礼しました。改めて」
女の子が丁寧に頭を下げた。
「陰陽師・月読家が末裔、朔野つきのです。今日は……助けていただきありがとうございました」
「どういたしまして」
「……「どういたしまして」って言えるんですね、すぐに」
「習慣です」
「良い習慣ですね」
つきのが少し笑った。
和の空気をまとった、静かな笑いだった。
「田中さん、裏日本から出る方法は、わかりますか?」
「…わかりませんね」
「……では、私が案内します。表に戻る方法を」
「それは、助かりますね」
「ただ…」
つきのが俺を見た。
「このことは、秘密にしてもらえますか?陰陽師の存在は、一般には知られていないので」
「わかりました」
「……即答ですね」
「信用できると思ったので」
つきのが少し目を細めた。
「……師匠が言っていました。「すぐに信用してくるようなバカは、絶対に裏切るな」と」
「…よく似たようなこと言われます」
「でも…今日は助けてもらいました。信用していただいてよかったです」
「こちらこそ」
二人で、赤い空の下を歩き始めた。
黒い木々が、風に揺れていた。
「田中さん」
「はい?」
「スーツで来る方とは思いませんでした」
「普段着なので」
「裏日本に普段着で来る人は、初めてです」
「そうですか?」
「よく言われますか?」
「よく言われます」
つきのが、また静かに笑った。
◇
【速報】田中武志、今度は裏日本に落ちた件。陰陽師登場で新展開
1 名無しさん : 「また別の場所ですね」って独り言しながら落ち着いてる田中さん もう慣れてる
2 名無しさん : 「ちょっとすみません、通りますね」が前と完全に同じ 田中さんの鉄板
3 名無しさん : 朔野つきのちゃん登場 大和撫子系の陰陽師 白い着物に黒髪 既に好き
4 名無しさん : 鬼火をワンパンで倒した後「スーツに煤がついた」が最初の「革靴に傷が入った」と全く同じ構造で笑う
5 名無しさん : 陰陽師の間でも田中さんの配信が有名だったのか ゼナちゃんの回線が繋いでた
6 名無しさん : 「元経理です」「配信者です」の自己紹介変わってない このおじさんはずっとこのままだ
7 名無しさん : ヒナちゃんがどんな顔してるか気になりすぎる また別の世界に消えた田中さん
8 名無しさん : ダンジョン・異世界・裏日本 田中さんの行く場所が増えすぎてる 登録者もっと増えそう
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