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クビになった冴えないおじさんがダンジョン配信を始めたら、なぜか登録者100万人超えてしまった件〜俺、実は最強だったらしい〜  作者: あっかんべー
第1章:異世界と配信とおじさん

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第36話 登録者3000万人になった。おじさん、ようやく実感する

 翌朝、スマホを開いたら通知が止まっていなかった。


 岩田陸が帰還したニュースが、世界中に広まっていた。


 向こうの世界から人が来て、こちらの世界に人が帰ってきた。


 その全てが配信に残っていた。


 登録者数を見た。


登録者数:30,441,882人


 「……ふーん」


 俺は言った。


 コーヒーを飲んだ。


 やっぱり、薄かった。


 でも、昨日と同じくらい、悪くなかった。


 スマホを置いて、天井を見た。


 六畳一間の、染みのついた白い天井。


 俺の日常は変わっていなかった。


 「……三千万人、か」


 声に出してみた。


 ピンとこなかった。


 七人のときの感触と、三千万人のときの感触が、どう違うのかが、体感としてわからなかった。


 ヒナからメッセージが来た。


 《登録者3000万突破おめでとうございます!!!!!》


 《ありがとうございます》


 《「ふーん」って言いましたよね絶対》


 《言いましたね》


 《予想通りすぎる!?》


 《実感がわかないので》


 《じゃあ今日、実感させてあげます!》


 《どうやって?》


 《来てください、渋谷で午後二時に!》


 《何をするんですか?》


 《来ればわかります!》


 「来ればわかります」は俺の口癖だったが、ヒナに使われると断れなかった。


 《わかりました》



 渋谷に着いたら、ヒナが待っていた。


 今日も私服だった。


 「来ましたね」


 「来ましたが、何をするんですか?」


 「まず、歩きます」


 「歩くだけですか?」


 「ついてきてください」


 ヒナが歩き始めた。


 スクランブル交差点を渡る。


 周りを見渡すと人が多かった。


 「田中さん、見てください」


 「何を?」


 「あの人」


 ヒナが前を向いたまま目線で示した。


 二十代くらいの女性が、スマホを見ながら歩いていた。


 画面に、俺の配信のサムネイルが見えた。


 「……俺の配信を見ていますか?」


 「そうです。次」


 今度はサラリーマンの男性が、イヤホンをしながら歩いていた。


 「あの人も?」


 「そうです。今日の帰還の配信のアーカイブを見てます」


 「どうわかるんですか?」


 「田中さんの声が聞こえてきたので!」


 「……俺の声が外に漏れているんですか?」


 「イヤホンしてても少し漏れてます」


 「それは申し訳ないですね」


 「申し訳なくないです。それが3000万人ということです」


 ヒナが俺を見た。


 「この渋谷の通りで、何人かに一人は田中さんを知っている。それが3000万人ということです!」


 俺はスクランブル交差点を見た。


 大勢の人が行き交っていた。


 そのうちの何人かが、俺の配信を見ていた。


 「……実感、少し出てきましたか?」


 「少しは」


 「少しだけですか?」


 「少し、は確かに出てきましたよ?」


 「よし!」


 ヒナが言った。


 「それが目的でしたか?」


 「それが目的でした!」


散歩配信(後日公開) — 再生数:8,441,882

ガチ勢777:渋谷の通りで田中さんの声が漏れてるの笑う

エトウ:「少しは実感が出てきました」を引き出したヒナちゃんが今日も有能

匿名A:3000万おめでとー!!!

プロ冒険者X:渋谷を歩くだけで3000万を体感させる方法 考えた人天才

ヒナ推し最前線:あいつが…3000万…。

新規:視聴者がリアルに渋谷にいたの思うと感慨深い



 コーヒーの美味しい喫茶店に入った。


 いつもの席に座った。


 「ここ、また来ましたね」


 「連れてきたかったので」


 「どうしてですか?」


 「記念日だからです」


 「記念日?」


 ヒナがコーヒーを一口飲んだ。


 「3000万人の記念日です。うちが「記念日だ」と決めました」


 「決めていいんですか、それ?」


 「決めます。誰かが決めなきゃ、田中さんは何もしないので」


 「そうかもしれませんね」


 「昔から記念日とかお祝いとか、気にしなさそうですよね。」


 「気にしていませんでした」


 「これからは、うちが決めます。気にしてあげるので」


 俺は少し間を置いた。


 「……ありがとうございます」


 「どういたしまして!」


 ヒナがカップを両手で持った。


 「田中さん、一つ聞いていいですか?」


 「どうぞ」


 「今まで、誰かに記念日を気にしてもらったことがありましたか?」


 「……ないと思います」


 「誕生日も?」


 「経理の同僚が一度ケーキを買ってきてくれたことがありました。でも、部署全員の分を一度にやる形だったので、自分のためというわけでもなかった」


 「……それだけですか、四十二年間で?」


 「…そう、かもしれません」


 ヒナが少し黙った。


 「……田中さんって、誰かに大事にされることに慣れていないですよね?」


 「そうですか?」


 「そうです。だから「ありがとう」が言えなかったし、「嬉しい」が言えなかった。受け取ることが下手だったじゃないですか?」


 「……そうかもしれません」


 ヒナがカップを置いた。


 「うちが、練習につきあいます!」


 「…練習?」


 「受け取る練習。大事にされる練習。記念日を気にしてもらう練習」


 「練習が必要なんですか?」


 「必要です。田中さんには!」


 「そうですか。」


 「そうなんです!」


 ヒナが真剣な顔をしていた。


 「……わかりました」


 「よし!」


 「今の「よし」は何の意味ですか?」


 「決まった、という意味です!」


 「決まったとは?」


 「うちが田中さんの練習相手になることが、今決まりました!」


 「……よろしくお願いします」


 「よろしくお願いします!」


 ヒナが少し笑った。


 コーヒーが美味しかった。


 今日は薄くなかった。



 帰り際、ヒナが言った。


 「田中さん、誕生日いつですか?」


 「七月十四日です」


 「覚えました。次の七月は——」


 「今から半年以上先ですが。」


 「計画します。ちゃんとお祝いしますよ!」


 「…そこまでしなくていいですよ」


 「します。練習の一環なので」


 「練習とは言いながら、本気ですよね?」


 「本気です。何か問題がありますか?」


 「……ありません」


 「よし!」


 また「よし」だった。


 今回の意味は——受け入れた、だと思った。


 俺が受け入れた、という意味の「よし」だった。



 その夜、珍しく全員が集まった。


 場所は近所のファミレスだった。


 理由は、サクラが「3000万記念、全員で祝います」と言ったからだった。


 「前にも記念をファミレスでやりましたね」


 と、早川が言った。


 「1000万のときですね」


 キリソウが言った。


 「あのときより、人数が増えていますよ?」


 リオが言った。


 「そうですね。神崎さんも来ているし、岩田陸くんも来ています」


 サクラが言った。


 神崎誠一が向かいに座っていた。


 「……ファミレスというのは、向こうにはない種類の店ですね」


 「そうですか?」


 「なんでもあって、みんなで来られて、長居しても怒られない。便利な場所ですよ?」


 「日本らしい場所かもしれませんね」


 「向こうにも似たような場所があればいいのに」


 「いつか、作ってもらえますか?」


 「研究してみます…!」


 神崎誠一がメモを取り始めた。


 「向こうのファミレスのコンセプト」と書いていた。


 「お父さん、飲み物頼んでから!」


 リオが言った。


 「あ、そうだな」


 岩田陸がドリンクバーから戻ってきた。


 コーラを持っていた。


 「半年ぶりのコーラです…!」


 「美味しいですか?」


 「めちゃくちゃ美味しいです!」


 「向こうにはなかったですか?」


 「ないです。あそこの炭酸飲料は甘すぎて。コーラのバランスが絶妙だと今更気づいた…。」


 「帰ってよかったですね」


 「はい。……でも、向こうのハーブのお茶も美味しかったです」


 「両方好きになりましたか?」


 「なりました」


 「よかった」


 岩田陸が少し笑った。


 「田中さんから「よかった」が貰えたっ!これ、嬉しいですね」


 「そうですかね?」


 「なんか、認められた感じがします、」


 「そうですか?」


 「田中さんって、向上心?的な言葉ってあまり言わないイメージがあったので」


 ヒナが俺を見た。


 俺もヒナを見た。


 「……練習の成果が、早速出ましたね」


 ヒナが小声で言った。


 「そうかもしれません」


 「よし!」


 小声の「よし」だった。


 俺にだけ聞こえる「よし」だった。



 帰り道、全員でぞろぞろと夜の渋谷を歩いた。


 キリソウが神崎誠一と向こうの話をしていた。


 早川とリオが政府との連携について話していた。


 岩田陸がサクラに「ゼナさんから伝言がありました」と言っていた。


 神崎誠一が「向こうのファミレス」のアイデアを岩田陸に相談していた。


 俺はその全員を少し後ろから見ながら歩いた。


 ヒナが隣に来た。


 「田中さん」


 「はい?」


 「全員を後ろから見てる顔をしていましたよ」


 「していましたね」


 「どんな気持ちでしたか?」


 俺は少し考えた。


 「賑やかだなぁ、と考えていました」


 「…それだけですか?」


 「……悪くないな、とも」


 「それだけですか?」


 「……良いな、とも」


 「それだけですか?」


 「……最初にダンジョンに入った日は、一人だったので」


 ヒナが少し間を置いた。


 「今は?」


 「今は、たくさんいます」


 「そうですね」


 「…それが、良かったです」


 「よし!」


 ヒナが言った。


 「今回の「よし」は何の意味ですか?」


 「……内緒です」


 「また内緒ですか?」


 「たまには、内緒でもいいじゃないですか?」


 「…そうですね」


 夜の渋谷を、全員で歩いていく。


 ふと皆の後ろ姿見つめ、俺は配信が出来てこの平穏な環境さえあれば、それで十分だと思えた。




 …20年前とは、違うのだから――



【感想】「最初の日は一人だった。今はたくさんいる。それが良かったです」で全員泣いた件

1 名無しさん : 「受け取る練習。大事にされる練習。記念日を気にしてもらう練習」をヒナちゃんが申し出た 全部わかってる


2 名無しさん : 「最初の日は一人だった、今はたくさんいる、それが良かったです」 この一文が今までの全てだった


3 名無しさん : 岩田陸に「よかった」を言えた田中さん 練習の成果が一日で出てヒナちゃんが「よし」した


4 名無しさん : 神崎誠一が「向こうのファミレス」を研究し始めた この人ほんとに研究者だ


5 名無しさん : 「来ればわかります」をヒナちゃんに使われて断れない田中さん 口癖が逆に使われるの好き


6 名無しさん : 1000万記念がファミレスで3000万記念もファミレム でも今回は人数が倍以上いる


7 名無しさん : 小声の「よし」が田中さんにだけ届いたの 二人の間の言葉になってきてる


8 名無しさん : 登録者3050万突破 3000万を超えてから加速しんなぁ



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