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クビになった冴えないおじさんがダンジョン配信を始めたら、なぜか登録者100万人超えてしまった件〜俺、実は最強だったらしい〜  作者: あっかんべー
第1章:異世界と配信とおじさん

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第33話 おじさん、二度目の異世界へ。シルヴィアは、笑って迎えてくれた

 エリナがこちらに来て、一週間が経った。


 その間に、いくつかのことが起きた。


 エリナの日本語が、驚くほど上達した。


 ヒナとサクラが毎日通って教えていたのと、エリナ自身の吸収力が高かったのと、両方だと思う。


 一週間で、ほぼ日常会話ができるようになっていた。


 「向こうの言語習得に比べれば、こちらの方が簡単ですね」


 とエリナは言った。


 「向こうの言語の方が難しいんですか?」


 「文字の種類が多いです。こちらの文字は、むこうより少ないので」


 「ひらがな、カタカナ、漢字、がありますよ?」


 「三つ?」


 「三種類あります」


 「……むこうは七つありますよ?」


 「七種類の文字体系が?」


 「はい。だから、こちらは、かんたんに見えます」


 「…日本語を簡単と言う人は初めて会いました」


 「そうですか。難しいですか?」


 「…難しいはずです」


 「……では、わたしが天才かもしれませんね!」


 エリナが少し得意な顔をした。


 「可能性はありますよ?」


 「やった、です!」


 後ろでヒナが「エリナちゃん、自信がついてきたね!」と小声でサクラに言っていた。



 また、神崎誠一から大事な連絡が来た。


 《田中さん、エリナさんに向こうの情報を聞きました。日本人の若者がいるという噂は、複数箇所から確認できました。場所はおそらく、王城の近くではなく、北部の山岳地帯です》


 《閉門衆がいた場所ですか?》


 《そのあたりです。ただし、今は閉門衆は解散しています。山岳地帯の集落に、行き場のない旅人として保護されているかもしれません》


 《行って確認する必要がありますね》


 《私もそう思います。次の渡航で探しましょう》


 《わかりました》


 エリナも、王城に戻りたがっていた。


 「姉に……こちらのことを話したいです。直接」


 「そうですね。一緒に行きましょうか」


 「…田中さんも行きますか?」


 「行きます。シルヴィアに会いたいので」


 エリナが少し笑った。


 「…田中さんが「会いたい」と言った。初めて聞いた気がします」


 「そうですか?」


 「誰かに会いたいと言うのは、はじめてですか?」


 「……たぶん、言い慣れていないだけです」


 「でも言いましたね、」


 「言いましたね」


 「よかったです」


 エリナが「よかったです」と言った。


 …ヒナの口癖が移っている気がする。


出発前配信 — 同接:2,882,004

ガチ勢777:エリナちゃんが一週間で日常会話できるようになった 天才か

エトウ:向こうの文字が七種類 ダンジョン研究者が卒倒しそうな情報

匿名A:田中さんが「シルヴィアに会いたい」と言えた エリナちゃんに指摘されてるワロタ

プロ冒険者X:岩田陸が北部山岳地帯にいるかもしれない…閉門衆がいた場所か

ヒナ推し最前線:エリナちゃんに「よかったです」が移ってる ヒナちゃんの口癖が伝播してる?

キリソウ実況:今日こそシルヴィアちゃんと対面する日だ

シルヴィア推し:「次は笑って迎える」と言ってたシルヴィアちゃん どんな顔で出てくるんだ?



 出発当日。


 渋谷ダンジョン入口に、今日は八人が揃った。


 エリナが入口を見て言った。


 「こちらから入るのは、はじめてです。前は……向こうから来たので」


 「こちらから行くと、道が長いですよ」


 「たのしみです!」


 「まず、第一層から第十二層まで通り抜けます」


 「十二そう!? むこうからは、すぐでしたよ!」


 「第十二層の扉から来ると直接ですが、こちらから行くには全部通ります」


 「……いつか、むこうからも案内してもらいたいです」


 「向こうから来るコースも面白いかもしれませんね」


 サクラが言った。


 「…それ、双方向ツアーとして企画できますね」


 「双方向ツアー……」


 「田中さんが案内して、こちらからと向こうからと両方で渡航する企画になりそうですね」


 「需要があるかどうかわかりませんよ?」


 「あります。絶対に!」


 キリソウが「俺も行きたい!向こうから来るツアーってやつ!」と言った。


 早川が「記録しますね」と言った。


 「何をですか?」


 「双方向渡航の提案。将来の議題として」


 「…まだ実現するかどうかわかりませんよ?」


 「でも記録しておくべきです!」


 「…そうですか。」


 王の回廊に入ったとき、エリナが足を止めた。


 壁の文様を見た。


 「……これが、地図」


 「知っていましたか?」


 「田中さんの過去配信で見ました。でも、直接見ると、ちがいます」


 「どう違いますか?」


 「……こんなに、くわしい。王城の場所、各族の居住区、あと——」


 エリナが壁の一点を指した。


 「ここ、北部山岳地帯です。田中さん、ここに……なにか書いてあります」


 「読めますか?」


 「少し。……「旅人が宿る場所」と読めます」


 俺も読んだ。


 …確かに、そう書いてあるな。


 「……旅人が宿る場所、か」


 「岩田陸さんがそこにいるかもしれませんね」


 神崎誠一が言った。


 「地図に記してあるということは、設計当初から、そういう人を想定していたんですね。こちらの世界からダンジョンを通ってきた人が迷い込む場所として」


 「…そうかもしれません」


 「田中さん、二十年前から今日の状況を見越していた、と?」


 「…そこまでは考えていなかったと思いますが……でも、迷い込む人がいることは想定していたかもしれません」


 「設計者として?」


 「そうなりますね」


 エリナが地図を見ながら言った。


 「……田中さんが作ったもので、田中さんが帰ってきた人を助けられる。これは、すてきなことだと思います」


 「すてき、か…」


 「はい。むかしの田中さんと、いまの田中さんが、つながっています」


王の回廊 — 同接:3,441,882

ガチ勢777:地図に「旅人が宿る場所」が書いてあった! 岩田陸の場所が特定できるかもしれない

匿名A:双方向ツアーの企画が生まれた瞬間…サクラちゃんが記録してる

プロ冒険者X:岩田陸の場所が地図に! 田中さんが設計した地図に案内が書いてあったの!?

ヒナ推し最前線:エリナちゃんが「すてき」って言ったの!? 日本語も感情表現も上達してるね!

匿名B:エリナちゃんが来て一週間でこんなに話せるようになってるんだ 向こうの人の言語習得力が高い



 第十二層の扉を抜けた。


 光の中。


 向こう側へ。


 広大な草原に出た。


 金色の花が揺れていた。


 紫がかった空。


 前回来た時と同じ景色が広がる。


 でも、今回は、前回と違いもう一人増えていた。


 エリナが深呼吸をした。


 「……かえってこれた!」


 「そうですね」


 「やっぱりこちらの空気が、すきです!」


 「向こうの空気も好きですか?」


 「りょうほう、すきです」


 「覚えましたね、両方好きを」


 「田中さんから、ならいましたから!」


 ヒナが空を見た。


 「……また来れましたこれました。この世界に」


 「どうですか?」


 「きれいですね。やっぱり」


 「そうですね」


 草原の向こうから、人影が来ていた。


 前回より多かった。


 走っていた。


 近づいてくる。


 先頭集団にに——銀髪の人物が見えた。


 エリナが叫んだ。


 「シルヴィア姉様!」


 異世界の言葉で叫んだ。


 シルヴィアが走ってきていた。


 白い衣が風に揺れていた。


 銀髪が流れていた。


 エリナが走り出した。


 シルヴィアも走った。


 草原の真ん中で、二人が抱き合った。


 エリナが異世界の言葉で何かを言っていた。


 シルヴィアが頷きながら聞いていた。


 ヒナが俺の隣で言った。


 「……仲良しですね」


 「そうですね」


 「田中さん、シルヴィアさんに会いに来たんでしょう。行かないんですか?」


 「もう少し待ちます」


 「なんでですか?」


 「姉妹の時間なので」


 ヒナが少し間を置いた。


 「……田中さんって、そういうところ、意外とちゃんとしてますよね」


 「そうですか?」


 「そうです」


 シルヴィアが顔を上げた。


 俺と目が合った。


 シルヴィアが、笑った。


 泣いていなかった。


 約束通り、笑っていた。


 俺は少し歩いた。


 エリナが横にずれた。


 シルヴィアが俺の前に立った。


 「……アルディス」


 「シルヴィア」


 「来てくれましたね」


 「来ると言いましたから」


 「…言っていましたね」


 シルヴィアが俺を見た。


 目が揺れていなかった。


 ただ、穏やかに笑っていた。


 「……今度は、泣きませんでしたよ?」


 「見ていましたよ」


 「エリナがたくさん話してくれました。田中さんのことと向こうの世界のことを。一週間分、全部」


 「それは大変でしたね」


 「楽しかったです。エリナの話し方が……田中さんに似てきていて…。」


 「…それは影響を受けすぎでは?」


 「いいえ、良いことです」


 シルヴィアが少し笑った。


 「……おにぎりの絵を見ました」


 「エリナさんが持ち帰ったんですね」


 「三角形の食べ物、興味深いですね」


 「今度、本物を持ってきますよ」


 シルヴィアが目を丸くした。


 「本物を?」


 「持ってこられると思います。封をしっかりすれば」


 「……楽しみにしています」


 「はい」


 シルヴィアがしばらく俺を見た。


 「田中さん」


 「はい」


 「…また、来てくれますか?」


 「来ます。今度はもっと早く」


 「一ヶ月より早く?」


 「二週間くらいでまた来られると思います」


 「……二週間」


 「長いですか?」


 「長くないです。ずっと短くなりました!」


 シルヴィアが笑った。


 今度は、声が出た。


 小さな、明るい笑い声だった。


 「……二十年に比べれば、二週間は何でもないです」


草原 — 同接:5,882,004

全員:シルヴィアちゃんが笑って迎えてくれた!!!!約束通り!!!!!

ガチ勢777:「今度は泣きませんでした」を自分で言うシルヴィア 努力したんだな

エトウ:「二十年に比べれば二週間は何でもない」で感情の全てが詰まってる

匿名A:姉妹が抱き合う場面で「もう少し待ちます、姉妹の時間なので」の田中さん最高

シルヴィア推し:声出して笑ってたね! シルヴィアちゃんが一番幸せそうな瞬間だった

ヒナ推し最前線:ヒナちゃんが田中にどんどん染まっていくのつらい…。

匿名B:おにぎり持ってくると言った 向こうへのお土産という概念が生まれた

海外勢:She smiled!! She kept her promise!!!



 王城への道を歩いた。


 今回は、ガルドとゼナも出迎えに来ていた。


 ガルドが俺を見て、一言言った。


 「スーツで来たんだな」


 「来ましたよ」


 「約束通りだな」


 「約束しましたからね」


 ガルドが俺の肩を叩いた。


 前回より少し強かった。


 「……また来いよ」


 「また来ますね」


 ゼナが静かに俺の前に来た。


 「陛下、向こうでの配信を、こちらでも受信できるようになりましたよ!」


 「エリナさんから聞きました。一ヶ月で実現したんですね」


 「はい。ただし、まだ音声が不安定で…。」


 「充分です。工夫してもらってありがとうございます」


 ゼナが少し目を細めた。


 「……向こうの視聴者から登録したいという声が、こちらでも聞こえています」


 「登録できますか、向こうからも?」


 「……今、サクラさんと協力して研究しています」


 「ゼナさんとサクラさんが?」


 「配信の文章でやり取りしていますが、なかなか面白いです」


 「どんな感じですか?」


 「お互い、言語が違うのに、技術の話は通じる感じです!」


 「そういうものなんですね」


 ゼナが頷いた。


 「技術者同士は、言語を超えますから!」



 王城に着いた。


 大勢が出迎えていた。


 前回より多かった。


 歓声が上がった。


 俺は手を上げた。


 「皆、ただいま」


 六度目だった。


 今回は、笑いながら言えた。


 サクラがカメラを向けながら「記録します」と言っていた。


 城に入った。


 前回と同じ廊下、前回と同じ絵。


 エリナが走っていった。


 「案内します! むこうを!」


 「待ってください」とヒナが笑いながら追いかけた。


 キリソウが「俺も!」と言って走った。


 広間は、またすぐに賑やかになった。


 ガルドが俺の隣に来た。


 「……二週間で来れるのか?」


 「来ます」


 「毎回言うな…。」


 「毎回来ますから」


 ガルドが目を細めた。


 「……それでいい」


 「それでいいですか?」


 「…毎回来れれば、それでいい。二十年に比べれば、二週間は何でもない」


 「シルヴィアと同じことを言いますね」


 「あいつが言ったなら、同じ思いなんだろう」


 「そうですか」


 「……お帰り、アルディス」


 「ただいま、ガルド」


 今回は、確かにガルドは照れていた。


王城 — 同接:6,114,882

ガチ勢777:「ただいま」を笑いながら言えたね!

エトウ:ゼナちゃんとサクラちゃんが技術で言語を超えて仲良くなってるの最高

匿名C:ガルドが「毎回来れればそれでいい」と言えた この人も変わってきてるのかな?

プロ冒険者X:向こうの視聴者が登録したがってる! 登録者が異世界まで拡大するか

ヒナ推し最前線:エリナちゃんが俺のオアシス…

匿名D:「スーツで来た」「来ました」「約束通りだ」「約束しましたから」のガルドとの会話テンポが好き

キリソウ実況:走りました。ヒナさんと一緒に。今日も楽しいです。



 夜、城の廊下でシルヴィアが俺に声をかけた。


 「田中さん、少しだけいいですか?」


 「はい」


 「エリナから……たくさん聞きました」


 「何をですか?」


 「向こうの世界のこと。田中さんのこと。ヒナさんのこと」


 「どんなことを?」


 シルヴィアが少し笑った。


 「「ことばでひとをつよくするひと」と言っていました。田中さんのことを」


 「エリナさんが言っていましたね」


 「それが、よかったです。田中さんがそういう人だと、あらためて知れたことが」


 「シルヴィアは知っていたんじゃないですか?」


 「知っていました。でも、向こうでもそうだったと知れたのが嬉しかった」


 「そうですか。」


 シルヴィアが少し間を置いた。


 「……田中さん、一つだけ聞いていいですか?」


 「どうぞ」


 「エリナが帰ってきたとき、田中さんが笑ったと言っていました。はっきり、声が出るくらい」


 「少し笑いました」


 「向こうでも、笑えるようになったんですね」


 「そうかもしれません」


 「昔——二十年前の最後田中さんは、あまり笑わなかった」


 「そうでしたか?」


 「笑うと損をすると思っていたのか、笑い方を知らなかったのか、どちらかわからないけれど、めったに笑わなかった」


 「向こうで覚えたのかもしれませんね」


 「向こうで覚えたことが、一つ増えましたね」


 シルヴィアが穏やかに笑った。


 「……向こうに行って、良かったです。田中さんが笑えるようになったことが…!」


 「そこまでは考えていませんでしたが」


 「でも結果としては?」


 「そうですね」


 シルヴィアが星を見た。


 「……田中さん、こちらの星はどうですか?」


 「向こうの星も、こちらの星も好きです」


 「両方?」


 「両方です」


 「……よかった」


 シルヴィアが「よかった」と言った。


 今度は、「よし」ではなく、「よかった」だった。


 でも、意味は同じだと思った。


 嬉しい、という意味だった。


 言語が違っても、伝わることがある。


 それが—今、確かにここにある。



【感想】「よかった」と「よし」が同じ意味だと田中さんが気づいた瞬間で全員泣いた件

1 名無しさん : シルヴィアが「次は笑って迎える」という約束を守った 一ヶ月前の約束がちゃんと来た


2 名無しさん : 「二十年前は笑わなかった→向こうで笑えるようになった→向こうに行って良かった」というシルヴィアの解釈が美しすぎる


3 名無しさん : 「よかった」と「よし」が同じ意味だと田中さんが気づいた場面 言語を超えた通じ合いがここで完成した


4 名無しさん : ゼナとサクラが技術で言語を超えて仲良くなってる 次話でどうなるか楽しみ


5 名無しさん : 「ただいま」七回目を笑いながら言えた 全話通して一番明るい「ただいま」だった


6 名無しさん : エリナちゃんが案内役になってる 一週間でここまで成長したんだね!


7 名無しさん : 岩田陸の場所が地図で確認できた 次の渡航で会えるかもしれないな!


8 名無しさん : 登録者2800万突破 向こうからも登録できたら3000万が一瞬で超えそう

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