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クビになった冴えないおじさんがダンジョン配信を始めたら、なぜか登録者100万人超えてしまった件〜俺、実は最強だったらしい〜  作者: あっかんべー
第1章:異世界と配信とおじさん

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第31話 おじさん、向こうからの客を出迎える

 第十二層の扉を完成させてから、三日が経った。


 その間、俺は何もしていなかった。


 正確には、六畳一間で過ごしていた。


 コーヒーを飲んで、神崎誠一のノートを読んで、配信のコメントを眺めていた。


 三日間で登録者が百万人増えた。


 「ふーん」


 ヒナからメッセージが来た。


 《田中さん、ちゃんと寝ていますか?》


 《寝ています》


 《ちゃんと食べてますか?》


 《食べています》


 《次の配信、いつにしますか?》


 《もう少し待ってください。考えたいことがあって》


 《何を考えているんですか?》


 《扉が完成したので、シルヴィアたちに知らせに行く必要があります。向こうから来てもらう前に、準備が要る気がして》


 《準備って何ですか?》


 《わかりません。でも、何かが足りない気がして》


 しばらく間があった。


 《田中さんが「わかりません」って言うのは珍しいですね》


 《そうですか?》


 《大体「行けばわかります」って言うか、すでに答えが出てる感じ?》


 《今回はまだ出ていませんね》


 《……じゃあ一緒に考えましょうか?》


 《助かります》


 《じゃあ、また例のコーヒーの美味しいお店で》


 《わかりました》



 喫茶店に、ヒナが先に来ていた。


 今日も私服だった。


 周りを見渡したが、カメラはないようだった。


 「…田中さん、三日間ずっと考えてたんですか?」


 「はい、考えていました」


 「何が足りないと思ってるんですか?」


 「……向こうの人がこちらに来たとき、どこに行くのか、という問題です」


 「どこに行く?」


 「シルヴィアがこちらに来たとして、どこで何をするのか。ガルドが来たとして、どこで過ごすのか。ゼナが来たとして、この世界の何を見るのか、です。」


 「……確かに、考えていませんでした。」


 「異世界の人が現代の日本に来る。言葉は通じない。文化も違う。食べ物も違う。それを、ちゃんと整えてから来てもらいたいと考えてしまうんです。」


 ヒナがコーヒーを一口飲んだ。


 「……田中さん、それって、お迎えの準備をしたいってことですよね?」


 「そうなりますね」


 「向こうの人のために、こちらで環境を整える?」


 「急いで来てもらうより、ちゃんと準備してから来てもらいたい。シルヴィアたちに失礼がないように」


 ヒナが少し笑った。


 「田中さんって、そういうところ、すごく丁寧ですよね」


 「丁寧ではないですが、大事にしたいので」


 「大事にしたい人への準備を丁寧にするのは、丁寧だと思います」


 「……そうですね」


 「で、具体的に何が必要ですか?」


 「まず、言葉です。こちらの言葉を覚えてもらう必要がある。あるいは、向こうの言葉を俺が翻訳する体制を作る」


 「後者の方が現実的ですよね、すぐには…」


 「そうですね。それから、住む場所です。こちらに来たとき、泊まれる場所が要ります」


 「田中さんの六畳一間に泊めますか?」


 「狭いのですが?」


 「狭すぎますね」


 「そうですね」


 ヒナが少し考えた。


 「……政府に頼めないですか?向こうの人を受け入れる施設を」


 「…篠原室長に相談してみます」


 「あと、食べ物も。向こうの人が食べられるものを確認しないと!」


 「それは行って聞いてみる必要がありますね」


 「じゃあ、そのために向こうに行く、ですか?」


 「そうなります」


 ヒナが頷いた。


 「……田中さん、答え出てましたよ?」


 「そうですか?」


 「話しながら出てきました。行けばわかる、じゃなくて、話せばわかる、です!」


 俺は少し間を置いた。


 「……ヒナさんと話すと、整理できますね」


 「よし!」


 今回の「よし」の意味は、役に立てた、ってことかな。



 翌日の朝、珍しいことが起きた。


 ダンジョン管理局から緊急連絡が来た。


 《渋谷ダンジョン内で、未確認の人物を確認。言語不明。田中武志さんへの連絡を要請》


 俺はしばらくそれを読んだ。


 「……来たか」


 思ったより早かった。


 扉を完成させてから三日。


 向こうの誰かが、もう来ていた。


 急いでヒナに連絡した。


 《今すぐ渋谷ダンジョンに来てください。向こうから誰か来たみたいです》


 《え!? わかりました!》


 サクラ、リオ、キリソウ、早川にも連絡した。


 全員が「行きます」と返してきた。


 神崎誠一にも連絡した。


 《田中さん、私も行きます。向こうの言語を少し知っているので、翻訳の補助ができるかもしれません》


 《では、お願いします》


緊急配信開始 — 同接:3,441,004

ガチ勢777:向こうから来たの?!! 扉完成から三日で!!!

エトウ:誰が来たんだ シルヴィアちゃんか? ガルドか?

匿名A:ヒナちゃんが「え!?」って返してるの可愛い

プロ冒険者X:ダンジョン管理局が確認した つまり今ダンジョンの中に異世界の人がいる

匿名B:「思ったより早かった」って顔してるな田中さん 想定外だったんだ

シルヴィア推し:シルヴィアちゃんが来てたら嬉しい でもヒナちゃんの反応が気になる



 渋谷ダンジョン管理局の事務所に、ダンジョン管理局の職員が三人いた。


 困惑した顔をしていた。


 「田中さん、来ていただいてありがとうございます。第一層の奥に、見知らぬ方が一人います。言葉が通じなくて、どうしていいかわからなくて」


 「どんな外見ですか?」


 「……女性だと思います。銀色の長い髪、耳が少し尖っています」


 後ろでヒナが「あ!」と言った。


 「シルヴィアさんですね」と言いそうになるのをなんとか抑えていた。


 「わかりました。案内してもらえますか?」


 「はい。ただ——」


 職員が少し困った顔をした。


 「その方、田中さんの名前を繰り返しています。「アルディス」という言葉と、「田中武志」という言葉を交互に」


 「俺の名前を知っているんですね?」


 「向こうの配信が届いていたんでしょうか?」


 「ゼナさんが「工夫すれば見られるかもしれない」と言っていましたよね?」


 神崎誠一が頷いた。


 「向こうでも、冥界石を使えば映像の受信ができると研究していました。もしかしたら、配信を見ていたのかもしれません」


 「向こうからこちらの配信を見て、扉が完成したと知って、来た、ということですか?」


 「…そうかもしれません」


 俺は立ち上がった。


 「会いに行きます」



 第一層の奥、広いエリアの隅に、人がいた。


 銀髪だった。


 そして、長い腰まで届く銀色の髪。


 白い衣を着ていて、向こうの世界で見たシルヴィアの衣だった。


 だが——シルヴィアではなかった。


 若かった。


 十代後半くらいに見えた。


 シルヴィアに似た顔立ちだったが、別人だった。


 俺を見て、立ち上がった。


 目が翡翠色だった。シルヴィアと同じ色。


 「……アルディス?」


 異世界の言葉で言った。


 「そうです」


 俺も異世界の言葉で返した。


 後ろでヒナが「えっ?」と言った。


 「田中さん、今向こうの言葉でしゃべった?」


 「記憶が戻っているので」


 少女が俺を見た。


 涙をこらえているような顔だった。


 「……私はシルヴィアの、妹です」


 異世界の言葉で言った。


 「エリナといいます。姉から、あなたへの伝言を預かって来ました…!」


 「シルヴィアから?」


 「…はい。扉が完成したと知って、姉が私を使わせました。姉は、王城を離れるわけにはいかなくて、代わりに、私が来ました」


 「シルヴィアの妹が来てくれたんですね!」


 「はい。姉は……すごく会いたそうでした」


 エリナの目が少し揺れた。


 「でも、まず私を寄こしました。先に安全を確認してから行きたい、と言って」


 「シルヴィアらしいですね…。」


 「そうです。姉はいつも、そういう人です」


 エリナが深く頭を下げた。


 「……アルディス様、帰ってきてくださってありがとうございます。姉の代わりに、お礼を言わせてください」


 「頭を上げてください」


 「でも——」


 「こちらでは頭を下げる必要はないです。姉上の妹なら、顔を見て話しましょう」


 エリナが頭を上げた。


 目が少し赤かった。


 「……姉から、伝言があります」


 「どんな」


 「『扉が開いたと知って、嬉しかったです。でも急がなくていいです。こちらはいつでも待っています。あなたが準備できたときに来てほしい』、と」


 俺は少し間を置いた。


 「……シルヴィアらしい言葉ですね」


 「そうです」


 「わかりました。準備ができたら行きます。でも、エリナさん、よかったらしばらくここにいてもらえますか?」


 「こちらに?」


 「向こうとこちらの橋渡しをしてほしい。シルヴィアたちが来たとき、案内できる人が必要です」


 エリナが少し驚いた顔をした。


 「……私でいいですか?」


 「いいですよ。シルヴィアの妹なら、信用できます」


 エリナが目を丸くした。


 それから、少し笑った。


 「……姉が言っていた通りです」


 「何ですか?」


 「跪かれるのが嫌いで、名前で呼んできて、すぐに信用してくる」


 「…そういう性分なので」


 「……あなたに会えて良かったです。アルディス様…いえ、田中さん」


 「田中でいいですよ」


 「田中さん」


 エリナが頷いた。


同接:5,882,004

全員:シルヴィアの妹!!!!!!!!

ガチ勢777:シルヴィアが妹を安全確認のために先に寄越したの酷くね?

エトウ:↑ばっか、お前!前に会えなかったから、先に寄越しだろ? 二十年待った人の言葉の重みが違う!

シルヴィア推し:エリナちゃん可愛い!妹ちゃんだ!!

匿名A:田中さんが異世界語をしゃべった瞬間のヒナちゃんの「えっ」で笑った

プロ冒険者X:向こうでもこちらの配信を見ていた可能性が出てきた ゼナさんが研究してたやつが実現したか

ヒナ推し最前線:ヒナちゃんが「あ」って言った瞬間 銀髪を見てシルヴィアさんかと思ったんだろうな

匿名B:「すぐに信用してくる」をシルヴィアから聞いていたエリナちゃんが笑ったの良かった



 ヒナがエリナに近づいた。


 「えっと……日本語、わかりますか?」


 エリナが首をかしげた。


 「……わかりません。でも——」


 エリナが少し考えて、片言の日本語で言った。


 「こん……にちは?」


 ヒナが「え!?」と言った。


 「日本語、知ってるんですか!?」


 「すこし。配信を見ていた、から…」


 「配信を!?」


 「ゼナ様が……こちら映像を受信する方法を見つけました。それで、向こう、見られるように、なりました」


 「いつから!?」


 「一ヶ月ほど前から、最初は音だけ、最近は映像も」


 「じゃあ、うちたちのこと知ってるんですか?」


 エリナが頷いた。


 「白川ヒナ。田中さんの……大切な人」


 ヒナが固まった。


 「……シルヴィアさんから聞きましたか?」


 「姉から。「向こうで田中さんを支えている人がいます。あなたに会ったら、ありがとうと伝えなさい」と」


 ヒナが少し黙った。


 「シルヴィアさん……」


 「姉は、あなたことを……好き思うます。友達として」


 「友達、かぁ」


 「ライバル、あると言てました。でも、好きだと」


 ヒナが笑った。


 少し照れたような笑いだった。


 「……ありがとうございます、エリナさん!」


 「どういたしまして」


 エリナが少し得意そうな顔をした。


 「日本語、あと三つ知てます」


 「三つも!?」


 「「ありがとう」「すみません」「おいしい」」


 「……それ選択が完璧ですね。」


 キリソウが言った。


 「…生きていけますよ、その三つがあれば」


 エリナが「ほんとうですか?」と言った。


 「本当です」


 エリナが少し嬉しそうにした。


同接:6,441,004 — トレンド急上昇

全員:エリナちゃんが向こうで配信見てた!!! ゼナちゃんが成し遂げた!!

ガチ勢777:「ありがとう・すみません・おいしい」の三語選択が完璧すぎる

エトウ:「白川ヒナ、田中さんの大切な人」をエリナちゃんが言ったのヒナちゃんの顔見たかった

匿名C:シルヴィアが「友達、でもライバル」と言ってたのをエリナが伝えてくれたんだ!

シルヴィア推し:シルヴィアちゃんがこちらの配信見てたのかもしれない 田中さんとヒナちゃんを見てた

ヒナ推し最前線:ヒナちゃんの「シルヴィアさん……」という呟きが全て 羨ましい限りだな。。

キリソウ実況:「その三つで生きていける」は本当のことです

新規大量:エリナちゃん好きになった 



 夕方、篠原室長に連絡した。


 「向こうから人が来ました。エルフ族の女性です」


 「……把握しています。ダンジョン管理局から報告が来ました」


 「受け入れ施設の準備をお願いしたいです」


 「すでに動いています。昨日から」


 「昨日から?」


 「扉が完成したという報告を受けた時点で、いつか来ると判断しました」


 「……それは大変助かります。」


 「田中さんが事前に報告してくれたおかげですよ」


 「…。サクラさんが送ってくれました」


 「……どちらにしても、ありがとうございます」


 篠原が少し間を置いた。


 「田中さん、一つだけ聞いていいですか?」


 「なんですか?」


 「向こうから来た方に、危険はないですか?」


 「ないと思います。シルヴィアの妹です。信用できます」


 「…田中さんがそう言うなら」


 「根拠はそれだけですが。」


 「……それで十分です。田中さんが言うなら」


 篠原が少し笑った気がした。


 「岩田局長には?」


 「今連絡しています。向こうに日本人がいるという話を、エリナさんに確認しました。明確な情報はまだですが、向こうで調べてもらえるよう頼みました」


 「……そうですか。岩田局長は喜ぶと思います」


 「はい」


 「田中さん、ありがとうございます」


 「どういたしまして」


 電話を切った。


 ヒナが隣で聞いていた。


 「……篠原室長、変わりましたね」


 「そうですか?」


 「…最初はもっと硬かったと思います。今は田中さんの言葉を信用しています」


 「俺が変わったのかもしれません」


 「両方だと思います!」


 俺はエリナを見た。


 エリナはサクラとヒナに日本語を教わっていた。


 「おいしい」と言うたびに、三人が笑っていた。


 「……賑やかになりましたね」


 ヒナが俺に言った。


 「そうですね」


 「良いことですか?」


 「良いことですね」


 「よし!」


 このままでいい。


 賑やかなままで。


 向こうの人も、こちらの人も、一緒に。


 そのままで、いいんだ。



【感想】エリナちゃん登場一話で全員の心を掴んだ件 「ありがとう・すみません・おいしい」の三語選択

1 名無しさん : シルヴィアなりの優しさで妹を寄越したシーンめっちゃ感動したよ


2 名無しさん : 向こうでも配信が見られてた ゼナちゃんが言ってた工夫が一ヶ月で実現してた


3 名無しさん : 「ありがとう・すみません・おいしい」を日本語で覚えてきたエリナちゃんの選択が完璧すぎて抱きしめたい


4 名無しさん : 「白川ヒナ、田中さんの大切な人」をエリナが言った瞬間のヒナちゃんの顔が全部だった


5 名無しさん : シルヴィアが「友達、でもライバル」と伝えてくれた ライバル宣言の続きがこんな形で来た


6 名無しさん : 篠原室長が「田中さんが言うなら」と言えるようになった 人間関係が深まってきてる


7 名無しさん : 岩田陸の手がかりをエリナに頼んだ 田中さんが動き続けてる


8 名無しさん : 登録者2600万突破 エリナちゃん効果かな

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